表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷の恋  作者: ゆに
奴隷の恋
9/29

君を想って

どうしてルナはあんなに辛そうなんだ?どこかいつも陰がある。どうして。

俺は椅子に腰掛けてひたすら物思いにふけっていた。

さっきもだ。俺は彼女に世界を教えたいと言った。人としてそばに置くと、世を見せたいと言った俺に、ルナはどうして苦しそうな顔をした?

「何かおかしな事を言っただろうか……」


思えば女で悩むのは初めてだ。将来をろくに選べない俺は女の壁は作らなかったから。近寄ってきた女を適当に相手して、それさえも面倒になった俺は、そのうち寄ってくる女達を毛嫌いして婚約者として現れる女を待つだけになった。けれど、それがどうだ。今ではルナにいっぱいいっぱいだ。まだ一緒に暮らして少ししかたっていない。けれどその少しでルナは沢山の表情を見せてくれる様になった。

街へおりた時。珍しい服や食べ物、人の多さ、親切な街人。とても幸せそうで、楽しそうだった。庭で話をした時。ルナは警戒心を消して穏やかな顔を見せてくれた。自室に呼んだ時。心なしか緊張して、焦ったり照れたり……とても可愛らしかった。

そのうちもっとと俺は焦いた。ルナの全てが見たい。閉じ込めてきた心を解放して欲しい。それに、その心を打ち明けるのが俺だけという事に居心地の良さを感じてしまった。まるで飼い主にしか懐かぬ子犬のようだ。


俺は一人で百面相していた。きっと周りから見ればさぞ不気味な男だろう。

ふう、とため息をつく。

これからどうしたらいい?あんな顔をさせないためにどうしたらいいんだ。

そこでふと思いつく。そういえば、そういう事にやたら長けたやつがいたな。まあ、やつを頼るのはかなり気が進まないが、こればかりは仕方ない。俺はすぐさま準備をした。










「お前は馬鹿かっ!! これだから嫌なんだよ恋愛にうぶいお坊ちゃんはよ! 女一人抱いた事ないわけじゃないくせに、どんっだけクソなんだ!!」

目の前にいる男はテーブルをバンバン叩いて俺を散々罵った。周りの視線が突き刺さる。

「……別に、女がどうとか関係ないだろう」

「ない訳ないんだこのヘタレ!!」

一つ一つの動作がデカイこの男はファイラルという。ファイラルに会う時は周りから痛い目で見られるのを覚悟で会わなければならない。……だから嫌なんだ。ほんとに貴族なんだろうかこいつは。

「お前のその言葉がどんだけルナちゃんを傷つけてるか分かるか!?」

「分からないからわざわざ会いにきたんだよ」

少し嫌味っぽく言ってみたがこいつには効果がない。

「ったく、ほんと変わらねぇな。じゃあな、こう考えてみろよ。お前ルナちゃん好きなんだろ?だからルナちゃんの立場になんだよ」

さらりと言われたその言葉に俺は思わず立ち上がった。

「おまっ、俺は別に……」

「わざわざ立ちあがってまで聞かなくていい。まあ座れよ、な?」

誰がお前の変な助言立ちあがってまで聞くかよ!

喉元まで出かけた言葉を飲み込み俺は冷静を取り戻そうと座った。

「お前がルナちゃんに逆に同じ言葉を言われてみ?傷付くに決まってんだろ」

「……なんでだ?」

俺の返事にファイラルは盛大にため息をついてくれた。

「普通はよ、俺の近くだけにお前を置いときたいんだ、とか、俺の運命の人だと感じたからお前を拾ったんだ、とか、そう言うのを求めるだろ!」

なんて恥ずかしい事を平気で言うのだろう。信じられないものを見るような目付きになっているんではないかな、俺。

「それをお前は遠回しに回って回って分っかりにくい言い方をしたからルナちゃんは誤解してんだよバーカ!!」

「な……。……だがルナが俺を好きとは限らないだろう」

ファイラルは眉間に中指を押し当てうーんと唸った。

「俺の予想では8割……いや、9割りお前の事好きだと思うぜ?」

「後の1割はなんだよ」

ファイラルは性に合わず深刻そうな面持ちになった。緊張感のないやつが深刻になるとこっちまで不安になる。

「後の1割は、主従関係として溺愛してるかだな」

「主従関係だと……?」

「ああ。主に尽くす使者と言った感じか?」

「だが俺はルナに奴隷としての扱いをした事はないぞ」

「だがその子にとっては初めての飼い主だ」

俺はその言い草に眉にシワを寄せた。

「別にルナちゃんを奴隷としてけなしているわけじゃない。ただ一つの可能性としてだ」

「……そんなの、俺が許さない……」

俺の呟きにファイラルは目を見開いた後、ひゅうと口笛を鳴らした。

「お前の人生もついに色がついたか」

「なんの事だ?」

「いやー?べつに」

怪しいファイラルを俺はきつく睨んだが、ファイラルはひるむ様子もなくニヤついていた。

「まあ、あれよ。素直になれ。もっと率直な気持ちの伝え方がお前には必要と言う事だ」

そう言うやファイラルは手を叩いて店員を呼ぶと、酒を頼み出した。

「今回の貸しは酒代で勘弁してやるよ」

「……勝手に呑め」








それから家に帰って、ファイラルの言った意味を俺はずっと考えた。

「率直……」

その意味を分かり切ったわけではないが、心なしかすこし気分が良くなった。ファイラルは一見ふざけた様に感じるが、割といい答えを出す。それに俺にとって良い事も悪い事も気を使わず言ってくる。それが昔から楽で仕方なかった。

ふ、と俺はかすかに笑うと風呂に向かった。

今日はもういい。明日からまた考えよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ