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奴隷の恋  作者: ゆに
奴隷の恋
8/29

嬉しさと切なさと

今日の空は曇りだ。雨が降りそうな気配は無いが、空はどんよりしている。

ルナは窓からその景色を憂鬱な面持ちで眺めていた。ため息までこぼれる。それは今朝の出来事のせいであった。









「お前を俺がそばへ置く理由が不思議か?」

ヴァルディアのいつも通りの唐突な質問に、ルナはいつも通りの驚きの表情を見せた。

「ど、どうしてですか?」

「俺がお前と一緒にどこかへ行こうと誘うと、そういう顔をする」

「……確かに、ずっと不思議には思っていました」

「なぜ?」

ルナがどこまで話していいものかと悩んでいると、ヴァルディアは優しく微笑んだ。

「別に言葉に気を使わなくていい。俺はお前を知りたいんだ。正直に話してくれ」

ルナはヴァルディアのそういう所が嫌いだった。

どうしてそんなに優しいの?どうしてそんな事言うの?

ルナはヴァルディアの言った通り、全てを話す事にした。

「私が奴隷売店にいた頃、いつも不安でした。いつ買われるのか、いつ皆と離れるのか。それに、買われた先にはどんな未来が待っているのか……」

ぽつぽつと話し始めたルナの言葉を、ヴァルディアは静かに聞いていた。

「もしかしたらとても酷い人かもしれない。奴隷だから、とても辛い仕事ばかりやらされるかもしれない。でも、私にはそれが宿命だから。奴隷として売られていると知った時から、そうなるのが宿命と割り切ってきました。けれど違った。ヴァルディア様は奴隷の扱いを私にしませんでした。仕事を押し付ける事もしない、気休めに何かを私にする事もない。それどころか……優しい。一緒に話をしてくれて、一緒に買い物につれていってくれて、欲しいものは何かと聞いてきたり、洋服を買ってきてくれたりする。私に何を求めているんですか?無意味にしているのでは無いでしょう?私は奴隷。あなたは貴族です。優しくする意味なんてないんです」

ルナはそう言うと黙り込んだ。ただヴァルディアを意見を乞う様に見つめる。ヴァルディアは口元に手をやって何か考え込んだ後、ルナをひたと見据えた。その瞳の美しさにルナの心臓が高鳴る。

「確かに、お前をそばに置くのには理由がある。だがお前にとっても俺にとっても、それは幸せであったら嬉しい。……それだけだ」

「それだけですか?」

「優しくする事に疑問を持つ必要はない。特別優しくしているわけでもない。お前は人なんだ。そういう扱いを受けて当たり前だろう」

「……人だから、私をそばに置くのですか?」

「……これは言うのを避けたかったのだがな」

ヴァルディアは困った顔をした。

「お前は奴隷売店にいた頃、ずっと窓の外を見ていただろう?たまたま通りかかった道で見たんだ。それからお前を外に出してやりたくなった。まあ、半分は気まぐれだったのかもな」

じゃあ後の半分は?

ルナは出したい言葉を飲み込んだ。

「だからお前を連れ出したんだよ。奴隷として外に出るんじゃない。人として外に出るために。だからお前に仕事はさせたくなかったんだよ」

「……それで、私をそばに……?人として暮らさせるために……?」

「そうだ」

ヴァルディアはきっぱりと言った。その顔はとても優しい。

「……そうですか」

だがルナの沈んだ空気にヴァルディアは眉をひそめた。

「どうした?」

「い、いえ。あの、時間も時間ですし、私お茶でも飲んできていいですか?」

あきらかルナの並べる言い訳はおかしかったが、ヴァルディアはあえて引きとめず頷いた。

「また呼ぶ」

「……失礼します」










自室に戻った瞬間、堪えていた涙が溢れ出した。次から次へと頬を伝っていく。


ルナは悟ったのだ。

ヴァルディアが自分を特別視していなかった事に、落胆している事に。苦しみも、切なさも、胸の高鳴りも、全て。全てはヴァルディアに恋をしていたから。

ヴァルディアの優しさはルナの心を振り回した。恋を知らないルナにとって、ヴァルディアはずっと大人だった。ヴァルディアは誰に対してもあの優しさを向ける。根本的に心はあたたかい人だ。それを思えばルナへの態度も普通なのかもしれない。

けれど、ルナは期待してしまった。もしかしたらヴァルディアは自分にだけそうなのかもしれない。そう思っていた自分がいた。

人として、世界を教えるため、自分のそばに置いていると言ったヴァルディア。

「優しい人に買われたらそれでいいって、そう思っていたのに……」

欲張りになったものだ。








窓の外を見ていても、頭の中はヴァルディアとの会話が流れて景色なんて目に映らない。

「……好きって……こういう事なんだ……」

苦しくて切なくて、痛くて辛くて、けれどなんだか楽しくて。その人の事しか考えられなくなる。ヴァルディアのあの優しさは、好きだ。けれどそれが……虚しい。

ルナはまた、涙を流した。

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