表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

ときは流れて

あまやかなあの囁きを(まどか)志貴(しき)に告げてから八年の歳月が流れた。


(まどか)志貴(しき)にあの囁きを告げたのは志貴(しき)が十六、(まどか)が十二のころ。


二人は成長し二人が離れる機会は幾らでもあった。だけれど離れることなく二人はあった。


それに志貴(しき)は嬉しさで微笑む。(まどか)もまた微笑むのだ。


二人は互いを何よりも愛していた。そう何よりも……。


仮面を志貴(しき)は被る。志貴(しき)(まどか)のために整えられ建てられた屋敷に二人で暮らす。


シンプルなデザインのソファーに志貴(しき)は腰かけていた。傍らには(まどか)の姿もある。


この国の中枢を担う今だ年若いものたちも国を影で操る年老いたものたちも志貴(しき)に忠誠を誓っていた。


そして目の前には民間から選ばれ志貴(しき)に会うことを赦された少年が跪いていた。


志貴(しき)の右側には(まどか)が侍り左側には黒の執事服に身をつつんだ青年が侍っていた。


志貴(しき)はうっすらと微笑んだ。それがわかったのか跪いていた少年が不審な動きを見せた。


(まどか)が前に出ようとするのを制し執事服の青年が素早く少年を組み伏せた。


動きを封じられた少年は抵抗しなかった。それにつまらなそうに(まどか)は目を細めていた。


それらを見ていた志貴(しき)は嗤いそしてすずやかな声音で囁き告げた。



(すべらぎ)。それをどこえなりとも捨てておいで」



その言の葉に(すべらぎ)と呼ばれた青年は了承の言の葉を零すと少年を連れ出した。


部屋には二人が残された。かわり映えのしない日常に少しだけ波紋がたった。


だけれどそれもすぐ消せるほどでしかない。それに志貴(しき)はため息をはく。


(まどか)が気遣うようにこちらを見つめるものの何も言わないのが救いだった。


そうでもなければ嗤いだしそうだったから。愛しいものと生きるための箱庭がもうすぐ手に入るのだから。


それのついでに(まどか)の望みも叶えられる。そう確信して志貴(しき)は歓喜を隠して微笑む。


もうすぐもうすぐだから。君と生きる世界がもうすぐ手に入る。その事実に志貴(しき)は嗤う。


くすくすと涼やかな笑い声を響かせて瞳から涙が流れるのを気にすることなく


それを薄く微笑みながら見つめる(まどか)志貴(しき)は気づくことはなかった。


今はまだ彼女の願いに彼は気づかない。それでも日々は過ぎていく歪な絆を二人に残して。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ