ココロ
「なんてね。いきなり呼び捨てで呼ぶ訳ないじゃん」
「はっ。そんな事分かってるに決まってんだろ。」
「そうかなー?」
嫌みっぽく笑う春川に、俺は少し、ドキッとしてしまった。
「お前………春川さぁ…モテるだろ?」
「え?いきなり何言ってんの?私がモテる訳ないじゃん」
あははとごまかすみたいに笑う春川。
別に、冗談とかそんなんじゃない。
ただ純粋に“可愛いな”と思っただけだ。
春川は別に、容姿が悪いわけじゃない。
…性格の問題なのか?
まぁ、そんな事、俺には関係のない事だ。
「琴端くんは、モテるでしょ?女子の間じゃ、結構有名だよね♪」
悪戯っぽく笑う春川。
俺は、春川に前から知られてたんだ。って思った。
少し、…
少し、嬉しかったんだ。
……ん?
てことは…
「春川、俺の事知ってたんじゃねーか!!」
「うん?知ってたよ、名前だけね。」
「な、名前だけ?」
俺の中で、何かがガクンと崩れた。
「だって、興味なかったし…」
「ははっ。そうだよな…」
俺、今どんな顔だろ。
心ん中が、すっげー悲しいんだ。なんか、むずむずして、モヤモヤして…
吐きそうだ。
「でもね、琴端くんって噂と全然違うよね」
「違う?」
「うん。だって、ちょっとM入ってるでしょ?」
「M…?」
Mってなんだ…
Sが、攻めで…
Mは…
「んな訳ねーだろ!!なんで俺がMなんだよ!!」
「…っぷ。それそれ。なんて言うかー‥からかい甲斐がある(笑」
急に大声で笑う春川。
つられて笑う俺。
やっべぇ。
こんな楽しい時間、いつぶりだろ。
久々な気がする。
ふと、春川を見る。
「っ!何泣いてんだよ…」
「いや…笑い泣きだよっ」
涙をふきながら、俺に笑いかける春川の笑顔は、どこか作ってる表情だった。
さっきの笑顔じゃなく、引きつった…
そんな春川を見たら、俺の胸がズキズキと締め付けられるように痛んできた。
“笑ってくれ”
そんな事を、心の隅で思ってた。
俺の頭の中は、春川でいっぱいになってた。
不思議な奴だ。
俺を夢中にさせるなんて。
こいつは何者なんだよ…
授業終わりのチャイムが鳴る。
今は昼休み。
休み時間として、長く、一番騒がしくなる時間。
「私、今日は帰る。じゃーね、琴端くん。」
「は、春川っ!ま、またここで会おうな!!」
なんで、こんな事言ったんだろう。
ただ、春川との何かを、つなぎ止めて起きたかった。
また会える、会おうって。
女に興味ねぇ俺が、初めて気にとめた女。
春川 美結。
これから、どんな事になるのか。
春川の過去になにがあったのか。
まだまだ、何もしらねぇ俺。
これから知っていけたらいいなと、俺は思った。