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第一話 気づいたのはあまりにも遅く

血、体部損傷などのグロ表現があると思います。そのような表現に弱い方は、今すぐバックをお願いします。

 エクタリシアの世界は、高度な文明を持つ人と、高い能力を持つ獣、空を守るとされる聖獣ドラゴン、そしてそれらを乗りこなす人とは違う亜人種、ドラグーンによって構成されていた。それらは互いに協力し合い、共存して生きてきた。

 しかし、高度な文明を持つ人類はその頭脳を使い、領地や権限のために互いに戦争を繰り広げた。勿論自然は荒れ果て、獣が棲める場所をどんどん減らしていく。ドラゴンも、徐々にその数を減らしていく。そんな時、ある亜人種がドラゴンから生まれた。醜い人類の戦争を止めるべく、ドラゴンと協力し乗りこなす力を持った彼らは、後にそれらをドラグーンと呼ばれるようになった。

 聖獣ドラゴンを見事に乗りこなすドラグーン達を、人は平和の聖人とドラグーンを崇めるようになったのだが...それは日に日にドラグーンの存在は人々から薄れていった。そこからドラグーンは、洞窟の奥や森の中でひっそりと暮らしているという。



私は"自分"に気づくのが遅かった。

それはそれはとてつもなく、遅かった。



「おお~、一気にいったね」

私は"彼"が人間を勢いよくかつ美味しそうに食べる姿に、思わず声をあげた。血を啜る音と、骨が砕ける音、肉を噛みちぎる音がハモるようにして、私の耳に入ってくる。

 彼はどんどん、人間を口の中に入れていき、骨を肉を血を、味わいながら胃袋の中に入れていく。あの肉の食感、とろけるような血。凄く美味しそうに食べる彼に、私は少し腹を空かせた。

「ねぇオブシディアン。もうそれぐらいでいいんじゃないの?」

私は鱗に覆われた首の根元辺りを叩く。コツ、という軽い音と共に、トカゲの様な顔が振り向いた。顔も鱗に覆われていて、目は血の様な深紅で、口元には血がついている。「オブシディアン」と呼ばれた者は、口元の血を舐め上げると、露骨に嫌そうな表情をした。私は右手でお腹を摩り"お腹空いた"の合図を出すと、オブシディアンはため息をつき、大きな翼で宙に浮いた。


___あれ?


 私が異変に気づいたのは大空を飛んでいる時である。私は乗っている何かを見る。黒い鱗に覆われた何か。体の両側から、何やらカーテン状の何かが生えていて、それを上下に動かしている。後ろを見ると、お尻の辺りにギザギザの尾が生えている。太い脚と、腕。私が乗っているのは異形だ。異形の動物。

 私は何でこんな奇妙なモノに乗っているのだろう。というか、ここは何処だ?私は...誰だ?

 あれ?考えてみると自分自身が分からない。名前が分からない。両親の顔が分からない。友達、昔、思い出、何も覚えていない。えっ、これじゃあ記憶喪失というものですか。

『アリシア、何故林檎を持ってこなかったのだ』

「いいじゃない。オブシディアンこそ、あんなに食べてたら太るわよ?」

ありしあ?おぶしでぃあん?

 自然に私の口から出た「おぶしでぃあん」というのが、この異形の動物の名前なんだろう。ヘンテコな名前である。では、このおぶしでぃあんが言った「ありしあ」というのが、私の名前なんだろうか。.....いやいやいや!私はれっきとした日本人、大和の女子だぞ。決して外国の人ではない。しかし、本名が分からないんじゃ否定出来ない。

『全く、ドラグーンとしてなっとらん』

どらぐーん?

 いつの間にこの世の流行は変わってしまったのだろうか。新しい流行語なのだろうか。全く、最近の若者は奇妙なことを考える。...じゃなくて。

「ドラグーン」とはなんだろう。いかにも厨な感じの響きがするのだが、オブシディアンが普通に言っているのを見ると、この世にとってこの言葉は普通なのだろうか。携帯とか人参とかそういう普通の言葉の分類に入るのだろうか。

 やがて、オブシディアンはいきなり急降下を始めた。下から吹き上げてくる猛烈な強風に、思わず吹き飛ばされそうになりながらも首に両腕を回してオブシディアンから離れないように必死に掴んだ。

 オブシディアンは森の中に入っていき、大きな木の下に私を下ろした。へたり込んでいる私を横目に、木の横に横たわり眠り始めた。寝息を立てているのに気づき、私はオブシディアンの側に寄りその体を舐め回すようにして観察し始めた。

 顔はトカゲのようだが、黒い鱗に覆われている。白い角が4本生えており、その中の2本が羊のように曲がりくねっている。腕と脚には私の腕ぐらいの鉤爪が3本の指先についており、どんな動物でも確実に殺傷できそうだ。畳んでいるカーテン状のようなモノは、どうやら鳥とかにある羽根がついた翼じゃなくて、コウモリとかに見るあの翼みたいな感じだ。お尻から生える尾はとても長く、そして太い。こういうので敵とかを薙ぎ払うのだろうか。

 私はこれらから、ふと思い出した。でもすぐに打ち消した。そんな筈はない。空想の生物が、想像の産物が、存在する筈がない!トカゲのような顔、角、翼、腕、脚、尾。どうにかして考えを否定しようにも、やっぱり事実は変えられない。

 観察している私に気づいたのか、オブシディアンが目を覚ました。開いた深紅の瞳が、オドオドしている私の顔を映した。

『我の顔に何かついているのか?』

「い...いや。何でもないよ」

より一層オドオドする私に、オブシディアンは首を傾げた。心配そうな目で見つめてくる。

『どうしたのだ、アリシア。お主おかしいぞ?』

「ねぇ、...貴方って誰...私は誰なの...?」

馬鹿らしい質問だったのか、オブシディアンは吹き出した。遠吠えのような笑い声を上げると、ひっくひっくと言いながら、彼は話し出した。

『な、何を言っているのだ!我はオブシディアン、神話に生きるドラゴン、闇竜だぞ。お主は我のドラグーン、アリシアではないか!』



どらごん?どらぐーん?

一体、何が起こったのだろうか...。




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