上弦の月
月が徐々に満ち始める。
仕事帰りに空を見上げると、東に傾く優美な細い月の姿。
その姿を見ながら、桂月のことを想う。
…桂月は出ていってしまった。
ある日、
「ここにいると、柚衣さんに甘えてしまうから」
とわたしに告げて。
桂月と暮らして約3週間。
そこにいるのが当たり前のように、わたしの風景の中に溶け込んでいたから、いざいなくなってしまうと、いないことに不快なほどの違和感を感じた。
ただ一緒にいる。
それだけのことが、こんなにも心の中を占めていたなんて。
桂月のいない部屋に入る。
3週間前だったら当たり前のこと。
けれど、この不快な想いはどうすれば消えてくれるのだろうか。
逢いたいのかと問われれば、わからないと答えるしかない。
この想いが恋愛感情なのか、それすらもわからない。
ただ言えることは、桂月の存在はもうなくてはならないものになっていたということだけ。
「迂闊だよなあ…」
3週間も同じ部屋で過ごしておきながら、彼の連絡先を知らなかった。
連絡先を残さずに出て行った彼は、今頃どこで何をしているのだろう。
彼を探すことも出来ず、不快な思いを抱えたまま、日々は過ぎていく。
細身の月は少しずつ、形を変えていき、空には半円の月が浮かぶ。