新月
気が付くと、桂月との生活は半月を超えようとしていた。
その間、桂月は一切家族の話をしなかった。
ただわかったのは、10代だと思い込んでいた桂月の年齢が実は20歳だったことだけ。
「俺、いつも若く見られるんだよね」と桂月は笑っていた。
桂月と出会った日以来、月はどんどん欠けていき、空から月の姿が消える夜、桂月がぽつりぽつりと話を始めた。
小さい頃から施設に預けられていたこと。
施設を出て、自分の力で働き始めた矢先に、両親が亡くなったことを知ったこと。
その生命保険の受取人が自分になっていて、顔も知らない両親から何かを受け取ることに抵抗があったこと。
そのことで悩んでいたときにわたしに拾われたんだということ。
「あの時、月を見上げてたんだ。名前に月があるせいかな?何かあると月を見上げるのが癖になってた。あの日、両親が亡くなってたことを聞いたんだ。俺にはもう帰るところがない。そのことを思い知らされたような気がして」
「何も考えられずに、途方に暮れてたら、柚衣さんが拾ってくれた。こんな俺にも帰るところがあるんだって言ってくれた気がしたんだ」
あの日、儚げで、頼りなげな姿に見えた桂月。
わたしが声をかけなければ、あの後どうしていたのだろうか…。
空には星が輝き、月は出ない。
いわゆる新月。朔月とも言うらしい。
月が出ている間にはわからなかったことが、月が姿を隠してしまうとわかる。
そんな不思議な夜。