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氏郷外伝 戦国の習い 序章・全六章  作者: あっちゅ寝太郎


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氏郷外伝 戦国の習い 第六章 完結

第六章:若松の星と「不滅の帳簿」 完結


1.毒の回る身体と、最後の「投資」

文禄四年。会津若松城。

深々と降り積もる雪は、すべての音を吸い込み、世界を死のような静寂で満たしていた。

蒲生氏郷の身体は、家康から贈られた「滋養の薬」という名の遅効性の毒に蝕まれ、もはや算盤の珠を弾く指先すらも震えていた。

「……殿。これ以上の無理は……」

**亜那あな 阿知寝あちね**が、沈痛な面持ちで氏郷の背を支える。その阿知寝の目にも、隠しきれぬ疲労の色があった。徳川と伊達、そして中央の五奉行による執拗な「嫌がらせ(経済封鎖と査定)」との戦いは、それほどまでに熾烈を極めていたのだ。

「阿知寝……。泣き言を言うな。コストを計算しろ。俺が今ここで死ぬことで、どれだけの『遺産』が会津に残るか。……それが俺の、最後の仕事だ」

氏郷は、真っ白な息を吐きながら、枕元に控える**毛呂 与太のもろ よたのすけ**と、白塗りのお駒を見据えた。

2.風呂の中の「コマーシャル」

「与太の佑……。例の件、手配は済んだか」

「へい。城下の文筆家ども、それに噂好きの茶人どもを集めてあります。……殿がこの病の身で、家臣団を風呂に入れ、自ら背を流して労ったという『感動的な光景』を、今まさに目撃させている最中です」

与太の佑の言葉に、氏郷は血の混じった笑みを浮かべた。

「くくっ……。家臣を風呂に入れる、か。文筆家どもは泣いて喜ぶだろうな。『あまりの貧しさに恩賞も出せず、せめて風呂でもてなした慈悲の主君』と。……だが阿知寝、お前だけは真実を知っておけ」

氏は、阿知寝の手を取り、耳元で囁いた。

「風呂はいいぞ。裸になれば、そこに潜む刺客も、隠し持った毒も通用せん。そして何より、情報の漏洩を防ぐのにこれほど安上がりな場所はない。……俺は風呂の中で、家臣たちに『二十九万石』の真の隠し場所と、俺が死んだ後に徳川に従う振りをしながら、いかに会津の技術を守り抜くかを伝えた。……美談という名の、最高機密会議よ」

「くすっ。殿……。最期まで、人を食った御方だ。その美談のおかげで、会津の民も、敵である家康様すらも、『蒲生は清廉潔白な馬鹿正直者だった』と信じ込むでしょうね」

お駒が、白塗りの顔に涙の筋を一本だけ引いて笑った。

3.「百五十年後の勝利」への署名

氏郷は、震える手で一冊の帳簿を取り出した。

そこには、日野の鉄、伊勢の油、会津の漆……それらを繋ぎ合わせ、一つの巨大な「産業の鎖」とした設計図が記されていた。

「いいか、阿知寝。俺の死後、蒲生家は改易されるかもしれん。秀吉様は、俺の残したこの『会津』という巨大な資本を恐れ、必ずや取り上げようとするだろう。……だが、無駄だ。技術はすでに、民の指先に、土の中に、溶け込んでいる」

氏は、算盤の珠を最後の一つ、パチリと弾いた。

「家康が天下を取れば、会津は再び厳しい監視下に置かれる。だが、俺が仕込んだ『二十九万石の牙』……。会津の職人たちが守り抜くこの産業は、いつか必ず徳川の財政を食い破り、この国を根底から変える原動力となる。……これが、俺の仕掛けた『百五十年後の勝利』だ」

4.若松の星

天守の窓から、夜空を見上げる。

雲の間から、一際鋭く光る星が見えた。

「……信長様。合理の果てにある景色、私は少しだけ、見ることができたでしょうか」

氏郷の意識が、雪の中に溶けていく。

傍らでは、阿知寝が氏郷から受け取った算盤を抱きしめ、声を殺して泣いていた。

与太の佑は酒を床に撒き、お駒は静かにその白い顔を伏せた。

翌朝。会津若松城からは、一人の英雄の死を告げる鐘の音が響き渡った。

文筆家たちは競って書き残した。

『蒲生氏郷、清廉にして慈悲深く、貧しき中、家臣を風呂でもてなし、義理に殉じて散った美しき武将なり』と。

だが、その「美談」という名の分厚い帳簿の裏側で。

氏郷が遺した二十九万石の「牙」は、静かに、確実に、会津の地で研がれ続けていくことになる。

――これが、歴史の帳簿に記されぬ、真の「戦国の習い」であった。

(完)


【創作ノート】歴史の隙間に、希望を綴る


机に向かい、日田の山並みを眺めながら、気づけば全十一章・五十話という長い旅路を歩んでおりました。


今回挑んだのは、三国の動乱が渦巻く大陸と、黎明期のこの国を繋ぐ物語。


女王卑弥呼の命を受け、密かに海を渡った三人の男たちの背中を、私はただ必死に追いかけてきました。


史実の行間には、教科書には記されない「生きた呼吸」があります。


彼らが何を見、何を信じ、何に命を懸けたのか。


その答えを、日田盆地に吹く風の中に探す日々でございました。


来週中頃より、ほぼ毎日、彼らの歩みを一話ずつ紐解いてまいります。


夏の訪れと共に、一時の歴史浪漫をお楽しみいただければ幸いです。


時空ときを越え 卑弥呼の風や 夏の雲


かつてこの地に、確かな「希望」があった。


そう信じて綴った物語。


皆さまの心に、少しでもその熱が届くことを願っております。


隠密の 影を波間に 遣魏使船


長きにわたる連載となりますが、最後の一文字まで寄り添っていただければ、書き手としてこれ以上の喜びはございません。


どうぞ、よろしくお願い申し上げます。


日田盆地 夢の続きを 筆にのせ


後書き

気づけば全十一章・五十話という長い旅路を歩んでおりました。


今回挑んだのは、三国の動乱が渦巻く大陸と、黎明期のこの国を繋ぐ物語。


女王卑弥呼の命を受け、密かに海を渡った三人の男たちの背中を、私はただ必死に追いかけてきました。


史実の行間には、教科書には記されない「生きた呼吸」があります。


彼らが何を見、何を信じ、何に命を懸けたのか。


その答えを、日田盆地に吹く風の中に探す日々でございました。


来週中頃より、ほぼ毎日、彼らの歩みを一話ずつ紐解いてまいります。


夏の訪れと共に、一時の歴史浪漫をお楽しみいただければ幸いです。


時空ときを越え 卑弥呼の風や 夏の雲


かつてこの地に、確かな「希望」があった。


そう信じて綴った物語。


皆さまの心に、少しでもその熱が届くことを願っております。


隠密の 影を波間に 遣魏使船


長きにわたる連載となりますが、最後の一文字まで寄り添っていただければ、書き手としてこれ以上の喜びはございません。


どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

最後までお付き合いいただき、本当に

ありがとうございました。

皆様の温かい応援に支えられ、本作を

無事に完結させることができました。

心より感謝申し上げます。


ここで、皆様に新しい物語の幕開けを

お知らせいたします。


来る七月三十一日より、新シリーズ

『AIバディ・ポチの事件簿 〜エリートを

捨てた男と柴犬ポチ、AIキャロルの

ドブ板正義〜』の連載を開始いたします!


今度の舞台は、人情溢れる下町、

そして遥かなる宇宙が交互に織りなす

「コメディSFファンタジー」です。


エリート一族を飛び出した、

イギリス紳士(だけど靴はドロドロ、

そして超・味音痴)な便利屋の男、

亜那あちね。

そして、彼と十八年連れ添った末、

愛車のシステムに魂を宿らせた

ハッキング犬「ポチC」。


この凸凹コンビが、下町の困り事から

宇宙規模のくだらない大騒動まで、

誰も死なない、誰も傷つかない

「安全な成敗」でスカッと解決いたします。


クスッと笑えて、最後は美味い飯で

敵も味方も丸ごとハッピーになるような、

どこまでも続く終わらないドタバタ活劇。


新たな舞台での挑戦となりますが、

皆様とまた新しい「旅」をご一緒できるのを

楽しみにしております。


七月三十一日の開幕を、

どうぞ楽しみにお待ちください!



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