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短編

試合と幼馴染と

作者: 綴 詠士
掲載日:2026/01/10

「うおおおおおおお!」

 

 ゴーランはとにかく鍛錬をしていた。


「ねえ、ゴーラン!!」


 少し離れた場所で幼馴染のネスティが叫ぶ。


 眉を吊り上げ、必死にゴーランに呼びかけているが、ゴーランは全く聞いていない。

 

 ゴーランの大剣が的を切り落とす。

 

 大きな大剣でとにかく斬る。それが彼の戦い方だった。

 

 彼の望みは頂点に立つこと。そのために世界で腕に覚えのある若者が入学する学園に来たのだ。

 

 この学園は戦いが重要視されていて定期的に試合が行われる。


 ゴーランは次の試合でリウドという剣士と戦う予定だった。

 

 細身で身のこなしが素早い剣士。ゴーランは彼と何度か話したことがあるが、リウドは殆ど喋らないのでゴーランは苦手だった。

 

「ねえゴーラン! 聞きなさいよ!」

 

 そんな彼にまた幼馴染のネスティが言う。

 

「リウドは強いわよ!? 前の試合で攻撃を全部躱して、あっというまに相手を倒しちゃったんですって!」

 

「……」

 

 ゴーランは一度剣を振り下ろし、的を一つ、切り落とす。

 

「そうか。だけどそんなのどうでもいいぜ! 俺は最強だ! 俺に勝てるものなんていない!」

 

 そんな風に叫ぶとまた彼は鍛錬に励んでいく。

 

 ネスティはため息をつく。

 

「あのさ! リウドの試合のビデオ持ってきたからさ。ちょっと見ない? 私も見たけどすごかったわよ?」

 

「いらん! そんなものなくても勝てる!」

 

「いいじゃない! 見ましょうよ!」

 

「いらん!」

 

 ゴーランは叫ぶとそのまま鍛錬に熱中していった。

 

「もう! 頑固なんだから!」

 

 ネスティはせっかく持ってきたビデオを振る。

 

 そしてため息をつく。

 

「あなた最近勝ってるからって調子に乗らないでよね!? 直ぐ調子に乗って負けるんだから!」

 

「そんなことはないぞ! 俺は連戦連勝だ!」

 

「それは今だけでしょうが!」

 

「これからもずっと連戦連勝だ! 気合で勝つ!」

 

「話聞けよこら!」

 

 ネスティは叫ぶが結局ゴーランは聞かない。

 

「ああもう! うざい! 馬鹿!」

 

 ぶつぶつネスティが言ってももう聞こえていないのか、ただ大剣を振り回すゴーランがいるだけだ。

 

「しらんしらん。勝手に負けてればいいわ!」

 

 そう言い残すと、ネスティはその場を去っていった。


 ***


 そして試合当日。

 

 試合会場にゴーランとリウドが立つ。

 

 会場の周囲には観客席があり、そこで大勢の観客が見ていた。勿論その中にはネスティがいる。

 

 連戦連勝中のゴーランと同じく連勝中のリウドだが戦い方は全く異なる。

 

 大味で力強いゴーランと、素早く繊細なリウド。

 

 対照的な試合だった。

 

 ネスティは虹色のチュロスを食べながら見守る。

 

「大丈夫かしら……」

 

 ゴーランを遠くから見つめながら、ネスティは険しい顔をしているのだった。

 

 そして肝心のゴーランは大剣を構え笑っている。

 

 対面には真剣な顔のリウド。

 

 ゴーランは大声で言う。

 

「リウド! この勝負俺の勝ちだ!」

 

 そう宣言すると、会場が沸く。

 

「この試合、俺が勝つ。怖かったらさっさと家に帰るんだな!」

 

「……」

 

 リウドは眉をひそめる。構えは崩さず、ゴーランの動きをしっかりとみている。

 

「さあ、どこからでもこい!」

 

 ゴーランが声を掛けるが、リウドは動かない。

 

「ははは! 怯えているな! 臆病者が! ならこちらから行かせてもらうぞ! 遠慮なくな!」

 

 そうゴーランが叫ぶ。

 

 そしてゴーランは大剣を振りながらリウドに向かっていった。

 

 大きな一撃が振るわれる。

 

 上からの一撃。

 

 その一撃はリウドに直撃しようとして、そのまま地面に突き刺さる。

 

 試合会場の地面が割れる。

 

 リウドはすれすれでその一撃を避けていたが、その服を掠め、服の袖が破ける。

 

 会場がどよめく。

 

 いくら魔法陣の効果で相手を実際に斬ることはないとはいえ、あの衝撃を受けたら相手はただでは済まないだろう。

 

 それが分かるような強烈な一撃だった。

 

 リウドは流れるような動きで切りかかる。

 

 ゴーランは慌てて大剣を動かし、その剣を受ける。

 

「くそ! 小癪な!」

 

 ゴーランはそう言うと、そのまま横に一薙ぎする。

 

 だがリウドはそれを飛んで避けた。

 

 そしてそのまま空中で落ちる勢いのまま、剣を振る。


(な!)


 ゴーランの目が見開かれる。

 

 剣が思いっきりゴーランの脳天を捕らえ、そのままゴーランは倒れ伏した。

 

 会場がどよめき、やがてリウドを称賛する歓声が鳴り響く。

 

「勝者! リウド!」

 

 審判の声が木霊する。

 

 リウドは剣をおろし、落ち着いた様子で立っていた。


 そして会場の騒ぎには興味が無いように、無表情で会場を後にした。

 

「ああ、言わんこっちゃない」

 

 ネスティは手で顔を抑える。

 

「あのバカ」

 

 そしてぐちぐち一人で呟いているのだった。

 

 ***


「……俺が負けた?」

 

 試合後、ゴーランは休憩室にいた。


 休憩室の椅子に座り、項垂れている。

 

 そこでネスティに結果を聞かされる。

 

「あんた覚えてないの?」

 

「いや、覚えてる」


 何度も何度もゴーランの脳裏に剣の軌跡が蘇る。


(絶対に負けるわけがないと思っていたのに。なんで負けたんだ? 俺は弱いのか? ……そんなわけがない、俺は強いはずだ! こんな結果になるわけがない)

 

 ゴーランはあの戦いを振り返り続けていた。

 

「最近調子乗ってたでしょう? 少しは頭を冷やしなさいな」


「いや、俺はいつも通りだった。俺は弱くない!」


 ゴーランは叫ぶ。


「あんたねぇ。結果は結果よ。あんたは弱い。……少なくともリウドよりはね。」


「違う! 俺は弱くない! 多分俺が気づかなかっただけで調子が悪かったんだ! あの時は熱でも出ていたのかもしれない! じゃなかったら俺がリウドに負けるわけがない!」


 ゴーランはネスティに懇願するように見上げる。


「あのねえ」


 ネスティはゴーランに人差し指を向ける。


「あんたがどう思おうと、負けたのは事実なの。それは受け入れなさい。どれだけ理由をつけようともその事実は変わらない。というかあんだけ負けるわけがないって言ってたのに、負けたとたんに言い訳を始めるとか恥ずかしくないわけ?」


「っ」


 ゴーランの身体が揺れる。

 

「少しは反省しなさい!」


 その一言が休憩室に響く。


 ゴーランは暫く俯いていた。

 

「……分かった。少し考える。ちょっと一人にしてほしい」

 

「そう? なら私は行くわよ。ほら! 落ち込んでるな!」

 

 ネスティはゴーランの背中を叩く。


「いてえ! やめろ!」

 

 ゴーランが叫ぶが、ネスティはそのまま休憩室を出て行った。

 

「……」

 

 ゴーランは一人残され、休憩室の景色をじっと見る。

 

「反省しないとな……」


 ***


 後日。ゴーランはまた鍛錬していた。

 

 そこにネスティもやってくる。

 

「ねえゴーラン! あなたリウドと再戦するの?」

 

 ネスティは戸惑いながらも聞いた。

 

 ゴーランがリウドに再戦を申し込んだという話は学園で噂になっていたからだ。

 

「ああ、そうだ」

 

 ゴーランはうなづく。

 

「負けっぱなしじゃいられん。あいつに勝つ! 勿論今まで通りじゃダメなのも分かってるぞ!」

 

 そういってゴーランは鍛錬に励む。

 

 大剣を振るう。

 

 ただ力いっぱい振るうだけじゃなくて、一度大剣を持って周囲を確認するような動作も入っている。

 

「……」

 

 ネスティはそんなゴーランの鍛錬をじっと見ていた。

 

 そうしていると、ゴーランが手を止めて言う。

 

「なあネスティ。お前最近調子いいそうじゃないか! 何か勝つためにやってることはあるのか?」

 

「何急に。珍しい」

 

 ネスティが訝しげにゴーランを見る。

 

 ゴーランは頬を搔きながら、少し小さな声で言う。

 

「いや、そのな。このままじゃリウドに勝てないんじゃないかって思っててな。それでお前のやり方を聞きたかったんだよ。何か得られるものがあるかもしれないだろ?」

 

「ええ?」

 

「なんだその反応は! 別にいいじゃないか!」

 

「いや、いいけど! あんたがそんなこと言ってくるの初めてじゃない! 何!? そんなにリウドに負けたのがショックだったの?」

 

「別にそういうわけじゃない! ……いや、ちょっとそれもあるが、とにかく。このままじゃ俺は強くなれないって負けた後思ったんだよ。だからだ」

 

「分かったわよ。じゃあ私の鍛錬方法を教えてあげる」

 

「本当か!?」

 

「腐れ縁の幼馴染がそこまで言うのなら少しくらいはやってもいいわよ。まあその分ちゃんと鍛錬しなさいよ?」

 

「そりゃ当然だ! ありがとうネスティ! お前は最高の幼馴染だ!」

 

「あんた本当に調子いいやつね……」

 

 ネスティはため息をつきながらも、そのままゴーランに鍛錬の方法を教えた。

 

 前手に入れたビデオを二人で見て、そしてリウドの戦い方を研究する。


「多分リウドの特徴的な癖は、ここね」


 ネスティがビデオを止めて指さす。


「突きをする前に一瞬深呼吸する。無意識なのか特徴的だから覚えておいた方がいいわよ」


「試合中にそんな余裕あるか?」


「いいから覚えなさい。勝ちたいんでしょ?」 

 

 その後もネスティは前から思っていたゴーランの動きの弱点を指摘し、二人でそこを改善する案を考える。

 

 そんな風にして、二人で鍛錬をしていた。


 ***


 一週間後。

 

 試合会場にゴーランとリウドが上がる。

 

 観客席は満員状態で盛況だった。

 

 この二人の再戦を学生たちは楽しみにしていたのだ。

 

 ネスティは最前列にいた。

 

「さ、ゴーラン。やってやりなさい。私があんなに手助けしたんだから、勝たないと怒るわよ」

 

 そんな言葉を呟きながら、ネスティは青い水玉模様のチュロスを食べていた。

 

 そしてゴーランとリウドは対面する。

 

「直ぐに終わらせるぞ」

 

 リウドはそう言った。

 

 淡々としている。構えはしていて、ゴーランをしっかり見定めているが、それでも以前ほどの熱意は感じられない。

 

「リウド! 今の俺は前の俺とは違う! 俺はパワーアップした! 前の俺が最強のゴーランなら、今の俺は超絶最強ゴーラン様だ!」

 

「……何を言っているんだ?」

 

「お前は負けるという事だ! 幼馴染と鍛錬したこの力! お前に見せてやる!」

 

 ゴーランは構える。

 

「はじめ!」

 

 審判の声が響くと、ゴーランは突っ込んでいく。


「まずは一撃!」

 

 思いっきり横に振りぬく。


 それをリウドは飛んで避けた。


 以前も見た光景。これはリウドが良くやる避け方だ。


 ゴーランがネスティとビデオで見た動き、だから敢えてこの動きを誘った。

 

 リウドはそのまま落ちながら剣を振る。

 

「ふ!」

 

 だがそれを予測していたゴーランは簡単に避けると、

 

 落ちてきたリウドを掴み、そのまま投げ飛ばす。

 

「な!」

 

 リウドの身体が飛んでいき、場外すれすれで地面に落ちた。

 

 リウドは立ち上がる。

 

 今度は素早い動きでゴーランに近づいていく。

 

 リウドは剣を振るい、ゴーランはそれを防ぐ。

 

 それの繰り返しだった。

 

 ゴーランも大剣を振る。

 

 二人の剣戟が続く。

 

 会場もそれに見入る。

 

 二人はひたすら剣でぶつかり合う。


 リウドが振った剣をゴーランの大剣が押し出す。

 

「ち」


 リウドは一歩下がる。


 そして一瞬深呼吸する。


 ゴーランの目が光る。大剣を素早く深く構えた。


 リウドが動く。電光石火の踏み込み。剣を前に突き出し、ゴーランの喉元を狙う。


「全部知ってるんだよ!」


 ゴーランは身体を一歩そらした。


 剣がゴーランの首を掠める。ゴーランは剣を振り上げた。


 大剣がリウドの身体をしたから掬い上げる。


「な!」

 

 リウドの身体が吹き飛び、試合会場の外に出た。

 

「場外! 勝者! ゴーラン!」

 

 審判がそう叫んだ。

 

 会場が歓声で沸く。

 

「ゴーラン!」

 

 ネスティも思わず立ちあがり叫んだ。

 

「うおおおおおお! 俺はやったぞ!」

 

 ゴーランは喜び、叫んだ。


 ***


 休憩室にゴーランとネスティがいた。


「やったわねゴーラン」


「ああ、お前のおかげだぜネスティ」


 二人で勝利を祝い合う。


 そんなところで、休憩室の扉が開かれる。


 入ってきたのはリウドだった。


 予想外の人物の登場に二人は硬直する。

 

 そしてゴーランが尋ねる。

 

「リウド? 何しに来たんだ?」


「……少し聞きたいことがあった。なあ、ゴーラン。こんな短期間でどうやって強くなったんだ?」

 

 リウドは真剣な顔で聞いた。いつも無言の彼がちゃんと喋ることにゴーランは驚きつつも口を開く。

 

「聞きたいか?」

 

「ああ、教えてくれ。その秘訣が知りたい」

 

「この幼馴染のアドバイスのおかげだよ。な?」


 ゴーランが隣のネスティを見る。


 ネスティは少し恥ずかし気にした。


「ま、まあそうね。私のおかげだと言っても過言ではないわ。」

 

「ああそうだ。俺と幼馴染が協力すれば最強ってことだ! がははは!!」


 ゴーランが高笑いし、ネスティも満更ではない顔をする。

 

「……なるほどな。俺はお前ら二人に負けたってことか。次は勝てるように鍛錬しないとな」

 

 リウドがそう呟く。


「まあ後、ゴーランは調子に乗らないことね」


 そう言ってネスティがゴーランの背中をたたいた。

 

「いてえ! 何するんだネスティ!」


「あんたはこうやって叩いておいた方がいいのよ! じゃないと直ぐ調子に乗るんだから!」


「分かったからもう叩くな! 痛いわ!」


 言い合いながらもゴーランとネスティは楽しそうにしていた。







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