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見えない家事、見えない私  作者: 櫻木サヱ
名前を呼ばれない日

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9/29

小さなイライラ

玄関を出ると、朝の冷たい空気が顔に刺さる。

小さな手を握り、子どもを保育園まで連れて行く道のりが、今日も長く感じる。

通りすがるママ友たちは笑顔で子どもと話し、楽しそうに歩いている。

――私もこんなふうに笑えたらどんなに楽だろう。


歩きながら、昨日のちょっとした出来事が頭をよぎる。

「洗濯物、まだ干してないの?」と悠介に聞いたら、軽く「あとでやる」と言っただけ。

その“あとで”は、たいてい来ない。

こういう小さなことが、心の中で積もっていく。

表面は普通に振る舞うけれど、胸の中はもう爆発寸前だった。


保育園の門に着くと、他のママたちは子どもと手をつなぎ、笑顔で話す。

私も同じように微笑むけれど、心はどこか遠くにある。

悠介の何気ない無神経さ、手伝わない当たり前さが、今の私のイライラを増幅させていた。


「はぁ……」

小さくため息をつく。

私の心の中では、怒りと悲しみと孤独がぐるぐると絡み合い、抜け出せない迷路に迷い込んだようだ。

でも、泣くこともできない。

誰も見ていないこの瞬間でさえ、私は笑顔を作り、子どもを安心させる役を演じなければならない。


保育園の門をくぐると、子どもが園に入るのを嫌がる。

小さな手を振りほどこうとする仕草に、私は思わずイライラしてしまった。

「もう、いい加減にして!」

でも声に出す勇気はない。

結局、小さく「大丈夫だよ」と言いながら、手を握り直す。

この小さな我慢も、積もり積もれば爆発寸前の感情になる。


帰り道、スーパーに立ち寄る。

カートを押しながら、昨日の悠介の「疲れてる俺」と言う言葉が頭をよぎる。

疲れているのは私も同じだ。

それなのに、何も手伝わない人が、平然と存在している現実に、胸がぎゅっと締めつけられる。


レジに並ぶ間も、子どもが小さな声で話しかけてくる。

笑顔で応じながら、内心では「どうして私ばかり……」という気持ちが渦巻く。

家に帰れば、また同じ家事、同じ孤独、同じ夫の無神経さ。

一日が始まったばかりなのに、もう疲れ切ってしまった自分を感じる。


家に戻ると、冷蔵庫の中の食材を整理しながら、静かにため息をつく。

今日もこの一日を、疲れた体と心でこなすしかない。

小さなイライラは、確かに積もり積もって、胸の中で静かに膨れ上がっていく。


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