表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見えない家事、見えない私  作者: 櫻木サヱ
揺れる朝と選択の時

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/57

最後の扉を開ける時(Aルート)

朝の光がまだ柔らかく、リビングの壁に影を落としている。

窓から差し込む日差しは優しいのに、室内の空気は重く、張り詰めている。

妻は静かにソファに腰を下ろし、バッグを肩にかける。

膝の上で手を組み、深く息をつく。

胸の奥で小さくざわめく不安を確かめながらも、決意は揺らがない。


子どもたちはまだ夢の中だ。

小さな胸の上下、時折動く手足、微かに漏れる寝息。

その無垢な寝顔に胸が締め付けられる。

——守らなきゃ、絶対に守らなきゃ。

過去の何百回もの泣き疲れた夜、耐えきれず涙を流した夜、夫に理解されず一人で抱え込んだ日々。

それらすべてが、今の決意の力になっている。


リビングで夫は新聞を広げ、目も合わせず、自分の世界に没頭している。

挨拶もなく、気遣いもないその態度が、逆に決断を後押しする。

——私は、もう誰にも期待しない。

自分と子どもを守るために、行動で未来を選ぶ時だ。


妻はバッグを抱え、ゆっくり立ち上がる。

床に落ちるバッグの音が、心の中の静けさを一瞬切り裂く。

振り返れば、ここで過ごした何年もの日々がよみがえる。

悲しみ、疲れ、孤独——そのすべてを胸に刻み、今は前に進むための力に変える。


玄関の扉を開けると、冷たい朝の風が顔に触れる。

空気は冷たくても、胸の奥の決意は熱く、足取りはしっかりしている。

階段を降りる一歩一歩に、過去の痛みを踏み越える感覚が混ざる。

道すがら、妻は自分自身に問いかける。

「これで間違っていない。逃げているのではなく、守っているだけ」

胸の奥に静かな力が広がり、前に進む道が確かに見えてくる。


子どもたちの笑い声が遠くで聞こえる。

それを聞くたび、胸の痛みとともに安堵が混ざり合う。

——小さな自由が、私に戻ってきた。

過去の涙、孤独、怒り——すべてを抱えながらも、未来を選ぶこの瞬間が、何よりも大切だ。


歩きながら、妻は過去と未来を行き来する。

夫の無関心に傷ついた自分、家事と育児に追われ続けた自分、泣きながらも耐え続けた自分。

でも、今の一歩が全てを変える。

——子どもたちと生きる、新しい日々が、ここから始まる。


空に浮かぶ雲が、風に揺れるように、妻の心も静かに揺れる。

涙が頬を伝い、しかしそれは悲しみの涙ではなく、解放の涙だ。

静かな朝の光の中で、深呼吸をし、心を落ち着ける。

——これでいい。これで前に進める。


玄関のドアを閉めると、冷たい風に混ざって、未来への希望がふわりと心に漂う。

小さな自由を手に入れたその瞬間、胸の奥に安堵と決意が満ちる。

道の向こうに見える、まだ見ぬ新しい日々。

妻は、足取りを迷わず前に進める自分を感じる。

子どもたちの笑顔が、これからの支えになることを確信しながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ