失われた自由
夜、家の中が静まり返る。
子どもは深い眠りに落ち、悠介はソファで眠っている。
しかし、その静寂は以前のように私を癒してはくれなかった。
長い日々の疲労、孤独、そして夫の無自覚な圧力に押し潰され、心はもはや折れていた。
以前なら、ほんの短い独りの時間でも心を休めることができた。
椅子に座って深呼吸をしたり、窓の外の夜空を眺めたり、読みかけの小説に触れたり――
それらは水面下での小さな抵抗となり、心を少しだけ軽くしてくれた。
でも今夜は違う。
それらの行為すら、私の心を救うことはできない。
疲労感は体だけでなく、心をも重く押し潰す。
家事の山、洗い物、洗濯物、明日の準備――
何一つ終わらせることができず、ただ現実が重くのしかかるだけだ。
悠介の無自覚な態度も、子どもの無邪気な要求も、以前は乗り越えられたのに、今の私はすべてに耐える力を失っていた。
椅子に腰を下ろし、深くため息をつく。
「もう、どうしていいのかわからない」
口に出さずとも、心の奥底でこの言葉が何度も繰り返される。
孤独感は増し、心の逃げ場はどこにもない。
かつての短時間の自由も、今の私には届かない。
救いを感じることはなく、ただ虚しさだけが胸を満たす。
それでも、無意識のうちに日常を回そうと体は動く。
家族のために、母として、妻として――
その責任感が、心の奥に最後のわずかな力を残していた。
反撃も逃避もできない。
ただ、押し潰されながら、次の瞬間を生きるしかない。
心の中で小さな抵抗の芽が育っていたこともあった。
しかし、今はそれさえも疲労に埋もれ、形を失いかけている。
唯一の慰めは、静寂の中で自分の呼吸を感じられることだけ。
それでも、その呼吸さえも重く感じ、わずかに胸が締め付けられる。
夜が更け、家の中に静けさが広がる。
美沙は目を閉じ、深く息を吐く。
心は折れ、体も限界に近い。
それでも明日も、変わらぬ日常が待っている。
押し潰されながら生きるしかない現実の中で、わずかに芽生える覚悟――
それはまだ小さく、かすかな光でしかない。
だが、その小さな光がある限り、私の心は完全には沈まない。
完全消耗の中でさえ、水面下で芽生える変化の種は、じっと次の瞬間を待っている。
美沙は静かに椅子に座り、目を閉じたままその種を感じ取り、心の奥でわずかな希望を抱くのだった。




