隠れた抵抗
朝、目覚めた瞬間から疲労感が体を覆う。
肩や腰の痛み、心の奥に積もる孤独感――
それでも、美沙は静かに立ち上がる。
今日も家族のために動かなければならない現実が、容赦なく押し寄せる。
だが、心の中では小さな反発が芽生え始めていた。
悠介の無自覚な言動に、直接的に言い返す勇気はまだない。
けれど、水面下で自分を守る方法なら、少しずつ試せる。
例えば、家事の順番を変えてみたり、子どもを遊ばせながら自分だけの時間を作ったり。
その些細な工夫が、心を少しだけ軽くしてくれる。
洗濯物を干すとき、ふと窓の外を見上げる。
青空に揺れる木々の葉、通りを行き交う人々――
その光景に触れると、ほんの数分でも心が解放される。
「ここだけは、私の時間」
小さな自由を意識するだけで、心の圧力が和らぐのを感じる。
昼食の支度中、悠介が無関心にスマホをいじる横で、美沙は静かに心の中で反発する。
「全部私がやらなきゃいけないの?」
口には出さない。出せない。
でも、水面下での小さな抵抗として、心の中で怒りと苛立ちを確かめる。
その感情を自分で認めるだけでも、力になるのだ。
子どもを寝かしつけたあと、ほんの短い間だけ椅子に座り、深呼吸をする。
スマホを開いて読みかけの小説をめくり、心を別の世界に逃がす。
孤独や責任感、無理解な夫に押し潰されそうになっても、
この小さな行動が、水面下で自分を守る盾になる。
夜が深まり、家の中が静かになると、美沙は再び思う。
反撃はまだできない。直接的に声をあげる勇気はない。
でも、心の中で小さく抵抗すること――
それが、じわじわと自分を変える力になることを、彼女は知っていた。
孤独な日常の中でも、水面下で芽生えた抵抗の芽は確実に育っていく。
小さな工夫や心の逃避、目立たない反発――
それらすべてが、やがて私を守り、変える力になる。
美沙は椅子に深く腰を下ろし、静かにその芽を育てながら、明日もまた日常に立ち向かう覚悟を胸に刻むのだった。




