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見えない家事、見えない私  作者: 櫻木サヱ
独りになれないジレンマ

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21/29

静かな覚悟

夜が深まるにつれ、家の中は静まり返った。

子どもは寝室で安らかに眠り、悠介はソファでうたた寝。

外の風がカーテンを揺らし、かすかな月明かりがリビングに差し込む。

その静けさの中で、私はようやく一人、深く息を吐くことができた。


一日中、家事と育児に追われ、夫の無自覚な圧力に押し潰されそうになった心。

孤独、疲労、報われない努力――

それらすべてが、胸の奥で重く渦巻いていた。

でも、今夜だけは、その重みを少しだけ降ろすことができる。


キッチンの椅子に腰を下ろし、手のひらで頬をさすりながら考える。

「独りになりたい……でも、できない」

その思いは深く、切実だった。

現実は私を許さず、母として妻としての責任が常に押し寄せる。

逃げたいと願っても、逃げる場所はない。


それでも心の奥底で、わずかな光が芽生えていた。

小さな時間、ほんのわずかな自由を見つけた瞬間、

それが私を支える力になることを知ったからだ。

読書やSNS、窓の外の夜空、深呼吸――

たった数分でも、自分だけの空間で心を解放できること。

それが、明日を生きる力になると、私は感じていた。


一日の終わりに、静かに自分と向き合う。

涙が出る日もあれば、出ない日もある。

それでも、自分の心を押し殺さず、少しでも認めることが大切だと分かる。

独りになれない現実の中でも、心の中で自分を守る術がある――

それを知った瞬間、胸の奥に小さな覚悟が芽生えた。


悠介の無自覚、日常の責任、孤独感――

どれも消えることはない。

でも、心の中で少しだけ抵抗することはできる。

「疲れたけれど、私はまだ自分を見失っていない」

その思いが、静かな力となり、私を支える。


夜の静寂の中で、ゆっくりと深呼吸を重ねる。

独りになれないことを嘆くのではなく、

小さな自由や心の逃避を見つけ、そこに希望を宿すこと。

それが、私にできる精一杯の抵抗だと感じた。


目を閉じると、今日一日の出来事が走馬灯のように浮かぶ。

疲れ切った体と心、無理解な夫、孤独な時間――

でも、同時に短い自由、心の逃避、静かな希望も思い出す。

それらが混ざり合い、私の心をわずかに軽くしてくれる。


明日もまた、同じ日常が待っている。

それでも私は、少しだけ強くなる覚悟を胸に刻む。

家族のために動きながらも、自分の心だけは守る――

その静かな覚悟が、孤独な日々を生き抜く力になる。


美沙は静かに微笑む。

涙はもう流れない。

心の中に芽生えた小さな希望が、明日もまた私を支えてくれる。

独りになれなくても、独りの心を持てば、私は前を向いて生きていける――

そう思いながら、夜は深く静かに更けていった。


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