葛藤の夜
夜の家は静かだった。
子どもは深い眠りに落ち、悠介はソファでうたた寝。
家の中は一見平穏に見えるけれど、私の心の中は嵐のように揺れていた。
「ひとりになりたい……でも、できない」
その思いが胸の奥で渦巻く。
一日の疲労が体に残り、肩や腰は痛む。
それでも家事はまだ残っている。洗い物、洗濯物、明日の朝食の下ごしらえ――
責任感が私を動かし、心の叫びを押し殺す。
「独りになりたい」
その願いは本気で、でも現実には叶わないことを知っている。
悠介は無自覚に、そして何の悪気もなく、私に小さな圧力をかけ続ける。
「手伝おうか?」の一言はなく、何か問題があればすぐに不満をぶつける。
その態度は、言葉に出さなくても、心の奥に深く重くのしかかる。
逃げ場のない日常の中で、孤独と責任感が私を押し潰そうとする。
それでも、心のどこかで逃避したい自分がいる。
少しでも静かに、自分だけの時間を持ちたい。
SNSを開き、読みたかった小説を読む、窓の外の夜空を眺める――
ほんの数分でも、心が自由になる瞬間は救いだった。
けれど、現実は容赦ない。
子どもが夜中に目を覚ますかもしれない、夫が何か要求してくるかもしれない。
独りになれない現実が、心の自由を許さない。
だから、願いと責任感の間で、私の心は押し潰されそうになる。
椅子に腰を下ろし、深呼吸を重ねながら、自分に問いかける。
「母として、妻として、これ以上どうやって頑張れるの?」
答えは見えない。
でも、少しでも家族のために動くことしか、私には残されていない。
涙も出ないまま、ただ静かに心を整える。
独りになれないジレンマ、逃げられない現実、無自覚な圧力――
全てが私を縛る鎖のようで、苦しくてたまらない。
それでも、美沙は小さく肩を震わせながら、明日もまた家族のために動く覚悟を胸に刻む。
静寂の中、心の葛藤は消えないけれど、わずかな希望も同時に芽生える。
――どんなに疲れても、孤独でも、私は私の道を進むしかない。
その思いが、明日への力になることを、美沙は胸の奥で感じていた。




