心の避難
夜が更け、家の中が静まり返ると、心の奥にぽっかりと空いた空間が見える。
一日中、家事と育児、夫の無自覚な圧力に押し潰されてきた自分を、少しだけ休ませてあげられる時間。
「逃げたい……でも、逃げられない」
そのジレンマを抱えながら、美沙は小さくため息をつく。
ソファに座り、手元のスマホを開く。
SNSで流れる友人たちの楽しそうな投稿や、少し前に読みかけだった小説の一節に目を通す。
現実の重さはそこには届かず、心だけがほんの少し、自由になる。
「ここにいれば、誰にも邪魔されない」
そんなわずかな安心感が、疲れ切った心に小さな灯をともす。
でも、すぐに現実が頭をもたげる。
食器はまだ洗っていない、明日の準備も終わっていない、子どもが夜中に泣くかもしれない――
心の中で逃げ場を作っても、現実は決して許してくれない。
それでも、美沙はその瞬間だけ、心を別の世界に置くことを選ぶ。
少しだけ、窓の外の夜空を見上げる。
星の光は、遠く離れた別世界の象徴のようで、ほんのわずかながら自由を感じさせてくれる。
「ここにいれば、私の心は少しだけ生き返る」
独りになれない現実の中で、心だけは逃避する。
それが、自分を守る唯一の方法だと、美沙は知っている。
深呼吸をし、わずかな時間でも心を解放した後、再び現実に戻る。
孤独と責任に押し潰されそうな日々は続くけれど、心の逃避によって、ほんの少しだけ力を取り戻せた。
小さな灯は、明日もまた家族のために動くための支えになる。
美沙は目を閉じ、深く息を吐く。
孤独の中で生きる日々でも、心を逃がす場所さえあれば、まだ生きていける――
その思いを胸に、静かに夜を過ごすのだった。




