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見えない家事、見えない私  作者: 櫻木サヱ
独りになれないジレンマ

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18/28

短い自由

夜、子どもがようやく寝静まり、家の中は一瞬の静寂に包まれる。

テレビの光も消え、悠介はソファでうたた寝。

リビングに漂う静けさに、思わず肩の力が抜ける。

この瞬間だけが、私にとっての“自由”だった。


キッチンの椅子に腰を下ろし、深呼吸をする。

手のひらで頬をさすり、少しだけ自分の体と心を感じる。

一日中、家事と育児、夫の無自覚な態度に追われ、心も体も悲鳴を上げていた。

でも、今は誰も何も要求しない。

ほんの短い時間でも、独りになれるこの瞬間は、まるで救いの光のように思えた。


スマホを手に取り、読みたかった小説を開く。

ページをめくるたびに、心が少しずつ解放されていく。

文字の世界に浸ることで、現実の重圧を一瞬だけ忘れられる。

「こんなに小さな時間でも、私の心は自由になれるんだ」

小さくつぶやき、胸の奥でわずかな安堵を感じる。


でも、時計の針は容赦なく進む。

子どもが夜中に目を覚ますかもしれない、夫がふと目を覚まし、何か要求してくるかもしれない。

自由な時間は、長くは続かない。

それでも、その短さが余計に愛おしい。

限られた時間の中で、自分を取り戻すことが、どれほど大切かを痛感する。


キッチンに置かれたままの食器や、洗濯物の山を見ながら、心の中で小さく笑う。

「今だけは、私の時間」

誰にも邪魔されず、誰にも気づかれず、心だけは自由でいられる。

その一瞬の静寂が、私を支える力になる。


美沙は目を閉じ、深呼吸を重ねる。

独りになれる時間は短くても、確かに存在する。

そしてその短い自由が、明日もまた家族のために動く力になるのだと、自分に言い聞かせる。

胸の奥で、わずかに芽生えた希望が、小さく光を放つ。


外の風がカーテンを揺らし、夜の静けさをさらに深める。

孤独と責任に押しつぶされそうになった一日も、この短い自由によって、ほんの少しだけ軽くなる。

美沙は静かに微笑み、また明日を迎える準備を心の中で始めるのだった。


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