逃げ場のない日常
朝の光が差し込む前、目が覚める。
布団の中でしばらく動けず、今日もまた長い一日が始まることを思うと、心が重く沈む。
洗濯、掃除、朝食の準備、子どもの世話、夫の身支度――
頭の中でルーティンが渦巻き、もうどこにも逃げ場はない。
子どもを抱き上げ、保育園へ向かう途中も、心は休まらない。
道ですれ違うママ友たちは笑顔で挨拶し、楽しそうに会話をしている。
私はその輪に入れず、笑顔を作るだけで精一杯だ。
「私も昔はあんなふうに笑えていたのに……」
小さなため息が、胸の奥で重く響く。
保育園に着くと、子どもは元気に駆け出す。
その姿に少し救われる気持ちがある反面、私は一瞬だけ訪れた自由の感覚に焦りを覚える。
独りになれる時間は、この瞬間だけ。
でも、すぐに帰宅しなければならない現実が、また私を縛る。
帰り道、スーパーで買い物をする間も、気持ちは休まらない。
「これも買わなきゃ、あれもやらなきゃ」
頭の中のリストが消えることはなく、体も心も休まる暇がない。
悠介が帰宅する前にすべて終わらせなければと、自分を追い立てるように動く。
家に戻ると、待っていたのは散らかったリビングと、無関心な夫の存在。
「手伝おうか?」の言葉はない。
無自覚な態度が、疲労と孤独に追い打ちをかける。
家族がいるのに、逃げ場はどこにもない。
誰にも理解されず、誰にも認められず、ただ日常が続く。
キッチンで作業を続けながら、美沙は心の中で願う。
――せめて、少しだけでも独りになれたら……
でも、現実は許さない。
母であり妻である限り、休むことも逃げることもできない。
この逃げ場のない日常が、今日も私を押しつぶすのだと、胸の奥で痛感する。




