涙の夜
子どもが眠りにつき、家の中が静まり返る。
リビングの電気を消し、ただ暗闇に包まれると、今日一日の重さが一気に押し寄せた。
朝から晩まで、ずっと走り続けた心と体。
夫の無自覚な言葉、態度、そしてパワハラのような小さな圧力――
それらが、一日の疲労とともに胸の中で渦を巻く。
「もう……限界かも……」
小さくつぶやく声とともに、涙がこぼれた。
頬を伝う温かい液体が、静かなリビングに落ちる音だけが響く。
泣くことすら我慢してきた日々。
でも今夜は、もう止められなかった。
悠介はソファでスマホをいじり、子どもは夢の中。
家の中にいるはずなのに、誰も私を見ていない。
誰も、私の疲れも孤独も、理解してくれない。
それでも泣きながら、美沙は少しずつ、自分の感情を解放していく。
涙が止まった後、深く息を吐く。
まだ、明日も家事があり、育児があり、夫の無自覚さに向き合わなければならない。
でも今夜は、静かに涙を流したことで、少しだけ心が軽くなった。
自分の存在を誰も認めなくても、自分だけは自分を抱きしめられる――
その小さな感覚が、ほんのわずかな救いだった。
美沙はキッチンの椅子に腰を下ろし、手のひらで涙をぬぐう。
「今日も、よく頑張ったね……」
心の中で自分に語りかける。
夫は変わらない。
でも、私の心は、少しだけ強くなった。
明日もまた、同じ日常が待っているとしても、
私はこの家で、家族のために動き続ける。
夜の静けさの中、涙に濡れた頬をさすりながら、美沙は小さく微笑む。
孤独で、疲れて、報われない日々。
それでも、今日の涙は、明日を生きるためのわずかな力になったのだった。




