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見えない家事、見えない私  作者: 櫻木サヱ
名前を呼ばれない日

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11/28

心のギリギリ

夜が明ける前、目が覚めた。

昨日の疲れが体に残り、肩も腰も痛い。

それでも、目の前の現実は待ってくれない。

洗濯機を回し、朝食の支度を始める。手の動きは機械のようで、心はまだベッドの中に置き去りだった。


子どもが目を覚まし、「ママ、おはよう」と笑う。

その小さな声に、ほんのわずかな温もりを感じる。

でも、それは一瞬で消え、次の作業のプレッシャーが押し寄せる。

「ごめんね、あとでね」と言いながら、心の中で小さくため息をつく。


悠介は、いつも通りの無関心。

「弁当ある?」と聞かれれば、「作るよ」と返すしかない。

疲れていると言っても、理解されない。

「俺だって疲れてるんだ」と、彼の言葉が心に重くのしかかる。

そう、疲れているのは私も同じなのに――。


買い物、掃除、子どもの送り迎え、夕飯の準備――

一日のルーティンは無限に続き、休む暇もない。

「もう限界……」

心の中で叫んでも、声に出す勇気はない。

泣く力も、怒る力も、全部抜け落ちてしまったかのようだ。


昼過ぎ、子どもが昼寝をしている間、ほんの少しだけ椅子に腰を下ろす。

目を閉じて深呼吸する。

この静寂が、まるで最後の安らぎのように感じられた。

でも、すぐに家事のリストが頭をよぎる。

まだ終わっていない、まだ私の役目は続く。


夕方、悠介が帰宅する。

「ただいま」と言う声の温度はいつも通り薄く、疲れた私の心には届かない。

それでも、笑顔を作り、夕飯を出す。

心の奥では、疲労と孤独が限界まで膨れ上がっているのに、表面は何事もないように振る舞うしかない。


夜、子どもが寝静まった後、静かに座るキッチンで、美沙はやっと自分の心と向き合う。

「もう、壊れそう……」

小さくつぶやく声は、誰にも届かない。

でも、その声だけが、今日一日を乗り越えた証だった。


限界ギリギリで生きる妻。

誰にも褒められず、誰にも気づかれない。

それでも、美沙は次の一歩を踏み出すために、静かに深呼吸した。

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