家の中の孤独
玄関のドアを開けると、家の中は静まり返っていた。
子どもは宿題や遊びに夢中で、悠介はソファに座ったままスマホをいじっている。
その光景を見ただけで、胸の奥に重い石が落ちたように感じた。
「今日も、終わったのは私だけ……」
つぶやきは小さく、誰にも届かない。
一日の疲れを抱えて帰っても、家は癒やしの場所ではなく、ただやるべきことが待つ空間だった。
夕飯の準備、洗濯の取り込み、散らかった部屋の片付け――
すべて私の仕事で、夫はその存在すら気に留めない。
子どもが「ママ見て!」と笑顔で近づいてくる。
その笑顔を見ると、少しだけ胸が温かくなる。
でもすぐに現実が押し寄せる。
「ごめんね、ちょっと待って」と言いながら、鍋を火にかけ、包丁を握る手は疲労で震えていた。
悠介がテレビの音を大きくして笑う。
その無邪気さに、怒りと疲労が一気に込み上げる。
でも、言えない。
言えばまた、彼は「俺だって仕事で疲れてる」と返すだけ。
そんな言葉で、私の心の重さは減ることはない。
リビングを見回すと、散らかったおもちゃ、脱ぎっぱなしの服、食べかけのパン――
すべてが、私だけが片付けるべき現実としてそこにある。
孤独と疲労が、肩にずっしりと重くのしかかる。
夜になり、子どもが寝室で眠りにつくと、やっと静かになる家。
でもその静寂は、温もりではなく、孤独を際立たせるだけだった。
悠介は自分の世界で満足そうに眠り、私の存在は目に入らない。
「ここで、私だけが生きているんだ」
そんな感覚が胸を押しつぶす。
キッチンで食器を片付けながら、美沙は自分の手の震えに気づく。
涙は出ない。出す力も残っていない。
ただ、疲れと孤独が静かに、しかし確実に心を蝕んでいく。
家族がいるのに、孤独。
愛されているはずなのに、認められない日常。
明日もまた、この繰り返しだと思うと、体の力が抜ける。
でも、子どものために、明日も動かなくてはいけない。
美沙は静かに深呼吸し、もう一度家事に手を伸ばした。




