言葉 預かります
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
ふむふむ、予言者と預言者って、読みは同じだけど違う意味なんですねえ。先輩はご存じでしたか?
未来について、前もっていろいろいうのが予言者。神様からの言葉を預かって、それを伝えるのが預言者。神様からの言葉には未来の行動に対する内容もあるから、予言者的な側面もあるといえるでしょう。
予言者という大きなくくりの中に、預言者も含まれるといったところでしょうか。しかし、その預言内容も預言者が徳なり、評判なりが素晴らしい人でなければ聞く耳もたないでしょうし、個々人にとって耳をふさぎたい内容であったなら、やはり無視されてしまうでしょう。
神様も伝えたいことがあるなら、じかに降臨されて神なる力を見せ、みんなを力づくで納得させちゃうのが早いと、私は思うんですけれどね。
でも代理を頼まなきゃいけないほど、厄介な案件を別に抱えていて、私たちを今なおそれから守ってくれているとしたら、仕方のないことですし感謝するべきですよ、やっぱり。
……けれども、もし。
自分がいきなり神様から「預かってしまうもの」があったとしたら、どうしましょうかね?
私が少し前に体験したことなんですけれど、聞いてみません?
それは、いつものLINEの着信かと思いました。
音は切っていますが、バイブレーションは届きます。上着のポケットに入れていて、触れるところから振動が伝わるので、なにか他のことに集中していなければ、気づくことができましたね。
その短い振動が終わったとき、さっとポケットからスマホを出したのですが、奇妙なことに通知のたぐいが何も表示されていないんです。
私はあまり既読つけずに読みたい派なので、通知だけでだいたいの用件を済ませてしまうのですが、こうなると勘違いかな? という気がしてしまいます。
しかし、LINEのアプリには更新があったことを示すマークが。通知を見ていないまま閉じてしまい、急ぎな案件だったらそれはそれで厄介です。
頼むから急ぎのことをLINEでやりとりするようなこと、しないでよ~と祈りつつ、アプリを開いたところで。
「あめ ふらそ」
いつものアプリ起動画面が表示されるより先に、真っ白な画面に黒いテキストでそう表示されまして。不意打ちだったこともあって、つい目をみはっちゃいました。
その画面もすぐ消えて、アプリの起動画面に戻り、いつもの面子が表示されます。未読のものはありましたが、他愛ない内容です。
見間違い、だったのかな?
そう思いながら、家に帰る途中だった私は電車に乗るために駅へ向かったのですが、そのホームで待っていたとき。
屋根をぽつん、ぽつんと叩く音がしたかと思うと、たちまちどしゃ降りになったんです。
予報では曇りでしたし、降水確率もなきにしもあらずでしたが、こうもいきなりひどい降りになるとは予想外でした。
傘は持っていなかったですが、幸い、自宅は駅の近く。降りてから、ダッシュすれば大したことにはならない……と、思っていたところに。
また、ポケットの中での振動。先ほどと同じ、スマホの振動です。
すぐに取り出しました。ぽちっと電源ボタンを押してディスプレイを明るくすると、あの白い背景に黒字のテキストが。
「すすむの とめちゃお」
なにが? と思う間に、構内放送が響き渡ります。
私の待っていた電車が、非常停止ボタンを押されたがために、到着が遅れるとのことでした。
ホームで待っていた人がざわついたり、移動を始めたりしますが、私も驚きを隠せません。
雨のことといい、まるでこのスマホが未来を言い当てているような……いや、むしろ未来を操作しているかのような、そのような感じさえ覚えるのですから。
私はスマホを握りしめながら、ホームの待合室のベンチに腰を下ろします。
入っているアプリを片っ端から起動しては引っ込めてを繰り返し、この異常な状態を迎えているであろうスマホの状態を探ろうとしました。
けれども、原因はなにも分からないまま。やがて外の雨もおとなしくなってきたし、電車の運転も再会のめどが立ったような放送が流れてきました。
ばらばらと、待合室で待っていた人たちが腰をあげ、電車を待つべくホームへ移動を始めていく。私も立ち上がろうとしたのですが、そこでふとスマホが振動したんです。
すでに三回目。私もすぐさま反応しましたよ。
「このこ けしちゃお」
は? と思う間に、私はにわかに心臓へ杭を打ち込まれたような痛みに襲われました。
もちろん、杭など刺さっていませんが、胸をおさえて膝をついてしまいました。動くことはもとより、うかつに息も吸い込めません。
吸い込むと、ますます胸の痛みが強くなり、にっちもさっちもいかなくなってしまうのですから。しかし、じっとしていてもやはり胸痛はやまず。
もし、スマホが表示した通りになるのであれば、おそらく私は……。
「だめだ いかしとこ」
かろうじて手放さずにいたスマホ。そこに映し出されるテキストの文字が、ぱっと変わったんです。
そのとたん、私を苦しめていた痛みがさっと引きました。
後遺症もありません。すぐさま立ち上がり、息も存分に吸うこともできるようになりましたよ。そうしてやってきた電車で帰ることもできました。
最初、スマホが予言をしているのかもしれないと思いましたが、あの会話ぶり。私は「預言」のほうだと思いましたよ。
預言者たる資格を持つ者が少なくなっているなら、やがて機械こそが言を預かるものになるかも……なんて考えたり。