40話
明日から文化祭が開催されるが、進学科の教室は蠍と蜂のぬいぐるみ溢れていた、数的優位は蠍だったが、蜂と対立している蠍は涙目が多かった
展示会で1番になった物はファンクラブでグッズ化される
文化祭で、展示された物は後日ファンクラブ限定で、ネットにて販売するらしい
シンはそんなにいるのかと思ったが、学校のファンクラブと昔からある種族ファンクラブがあるらしい
総人数は恐ろしくて聞けなかったがグッズの種類は蠍だけではなく、昔、種族名の二つ名を取った人のグッズも取り扱っているとの事で、最近とある人のグッズも蠍と一緒に売れているらしい
あまり知られていないのは、ファンクラブ限定というのもあるが、期間限定であるのと本人の許可が必要という事だ
種族ファンクラブができる前は有名な二つ名にファンがついてもグッズ化されないという事あったらしく、大会や選手がいる学校にクレームが相次いだこともあった
現在、形はファンクラブだがルールの下に整備されており、本人への交渉にグッズ化できない場合の告知等も行っていた
今回の蠍ちゃんへの異様な盛り上がりは、昔に憧れていたのに手に入らなかった二つ名のグッズが復刻した物を買うシニア層とか
蠍ちゃんを最初に作り、ファンクラブに提供した老舗呉服屋とか
とある通信会社が独自に作ったCMに蠍ちゃん(ご機嫌バージョン)が映り込んでおり話題になった等、色々な事が短期間で重なり合って、盛り上がってしまった
シンはお風呂に入って、部屋で本を読みながら、明日休む方法をぼやっと考えているとドアをノックされて、返事するとカヤがドアを開けて入ってきて、何か言う前にシンはカヤに抱きつかれていた
「離して、カヤ」
カヤは無言でシンを椅子に座った状態で腕を回して拘束すると、頬を擦り付ける
「何?カヤ、どうしたん?」
シンはカヤの背中に腕を回して優しい感じでポンポン叩く
「お願いを聞いてほしい」
「嫌よ!離して!」
カヤは拘束を解かずに話を続ける
「優しい感じで『うん、いいよ』とか言うとかないの!?」
「今までの行いを思い出してから言う事ね!」
「聞いてくれるまで、抱きついちゃうんだからね〜んと」
「この!離せ!」
シンはもがくがびくともしない
「シン、いい匂いする、私の匂いをつけちゃうし、シンの匂いを私につけちゃっていいよね」
カヤの力が強くなって顔というか体を擦り付けられる、くすぐったくなって
「ちょ‥やめて、くすぐったいってば、もう」とかしていた
シンはふと視線を感じてドアを見ると隙間から4人覗いて‥‥5人‥8人と積み重なって増えていく
どういう仕組みになっているのかわからない
不思議に見ているとドアが開いて、見知った顔が入ってくる、普通に、なんで?
「なんで、全員いんのよ」
シンが言うと、シンにしがみついて離れないカヤが怯えていた
「違うのです、途中で違うかなと思ったのです」
カヤが変な事を言い出すと
「おいでよ、カヤ」
「約束通りにしてあげるから」
ウイとポーがシンからカヤを引き剥がして、引きずっていき、その後をエルとヒルがついていく
「少し我慢してね」
「私達も我慢したの」
シンはサリとリンに
「何が始まるのよ、一体」
と聞くと、2人はくびを横に振りながら
「要求だけを伝えると言ったから許したのよ」
「仲間内の裏切りは悲惨な末路を辿りますわ」
「いや、わからんって」
少しして、カヤの声になっていない断末魔を断続的に聞いてシンは呆れ顔になっていた
「明日、母親と会って欲しくてさぁ」
アグラをかいて座り、おそらく叩かれたのであろう頭の部分を尻尾で撫でながらカヤは言う
「いつぐらい?」
「朝の10時で駅近くの喫茶店らしい」
カヤは携帯をいじって、地図をシンに見せる
シンは明日から始まる文化祭に行きたくはなかったので
「いいよ、別に」
と言ったのを聞いてカヤは
「本当に?やった!」
「ただ話すだけでしょ?」
「挨拶したいんだって」
それぐらいならすぐ終わるだろうし、ゆっくり帰ってくれば文化祭をサッと回って楽しい雰囲気だけ味わえるだろう
1年進学科にさえ近づかなければの話だが
「そういえばシンは文化祭は誰かと回ったりしないの?」
ヒルがそんな事を聞く
「別にないわよ、ヒルは?」
「私達は展示会で色々とやる事があるの」
シンはそんな忙しいのはなんか申し訳なく思ったって聞いてみる
「ファンクラブの幹部かなんかなの?」
「言ってなかったっけ?」
「創設メンバーだよ」
ポーとウイがフンッと胸を張る
「広告とか、交渉とかもやってるんだ」
「色々とお婆様とも話もしていますの」
アヤノ、リン、エルやヒルまで胸を張る
「なんかすごいわね」
「今回は特にポーのおばあちゃんが関わってるからね」
「復刻は人にもよるけど、今回はスゴイから」
シンが褒めるとサリとカヤも胸を張る
「他の種族名は稀だから」
ルカがシンの後ろから抱きつく
その後は文化祭が終わったら、どうするとかを適当に話しながら解散となった
シンはベットに誰かが乗った感触で目を覚ます
「シィ〜ン、鈍ったんじゃない?」
うつ伏せに寝ていたシンはガバッと起きようとして上からの重みで再び布団にうつ伏せになる
「アキネェ、なんでここに」
「実家にいる頃は部屋に入ったらすぐに起きてたのにねぇ、妹よ」
サキは話しかけながら、机に服を置きシンを見る
「サキネェも‥‥何、なんで」
アキはシンの上に乗って身動きできない状態にするとシンは脇を固めて防御姿勢に入る
「今日はね、良い知らせを持ってきたの」
「この体制で言う事なのソレ?」
「良い口をキクようになったわね〜」
アキはシンの背中に手を置いた
「お小遣いがアップします、とある条件を聞いてくれたらだけど」
「本当に!って条件?」
サキは椅子に座ってシンに語りかけた
シンは一瞬喜ぶものの、半眼になって姉達を見る
「お母さんにお願いしたの、でもね、タダは駄目って話になったのよね」
「お昼とか作ってもらっているのも材料費を出そうって話になったのよね」
サキとアキは続けて話す
シンは考える
確かに、皆に材料費出せないからいらないって何度言っても作ってくる、集まって食べるお菓子とかも家から持ってきたとか言ってお金を受け取らない
気兼ねなしに、罪悪感みたいな気持ち無しでエルとヒル、ルカ、ポーにアヤノが作ってくれたご飯を食べたい!美味しいもん!お菓子も遠慮なく食べたい!
「何をすればいいの」
シンが言うとアキとサキは頷いて
「私達のワガママなんだけど」
「今日は同じ格好をして遊んで欲しいのよ」
「同じ‥‥カッコ‥ウ」
ゴスロリの事だ、だがここですぐにうんと言ってしまって要求を上乗せされた事など何回もある、だから
「お小遣いはどのくらい上がるの?」
「5,000円!それ以上は交渉と今日の態度だって」
5,000円!今の2倍以上!シンはう〜んと考える振りをして
「わかった、今日はアネェ達に合わす」
「「さすが!妹!可愛いよん!」」
アキとサキは言いながらシンに抱きつく
「やめてってば」
シンはニヤついていたが、姉達はさらにニヤついていた