24話
2月の終わりに三次試験があった、3月初めの卒業式の日に合格発表がある
卒業式はあんまり出たくないなっと思っていたけど、母親に首を掴まれて、行かないと姉達が卒業式で着た服を着てお出かけ3日と言われたので渋々行く事にした
「シン、元気でな」
サライにそう言われて、頭を下げて帰り道を歩こうとして
「クーとハルさんが楽しみにしてると言っていたよ」
振り返って再度、サライに頭を下げてシンは帰り道を歩き出す、母親もサライに頭を下げてシンの後を追う
「私も楽しみにしているよ」
サライはそれだけ言うと、学校の方に歩いていく
「シン?よかったの?」
「何が?」
シンは家に向かって、母親と並んで歩いていく
「色々と挨拶とかあるんじゃないの?」
「あっち行ったら会わないんだし、いらない」
シンは言いながら、歩く速度を緩めて少し遠くを見る、母親は視線の先を追うとそんなに高くない山があり、中腹あたりに建物が建っている
「寂しい?」
母親が聞くと
「別に」
シンは目線を戻して、元の速度で歩き出す
今日は合格発表の日と卒業の日、1つの区切りが決まる日でもあった
家に帰ると母親はキッチンに行ってテーブルの上でノートパソコンの電源を入れる、ふと気づくと横に携帯が置いてある
「シン、携帯持って行かなかったの?」
玄関の方から
「電池が無かったのよ」
言いながら、キッチンに歩いてきて携帯を母親から受け取る
「それより、どうなの?」
「わかったって」
シンはパソコンの前に座ると開法学院のホームページを表示する
「落ちたら、親子3人で楽しく暮らしましょ」
「私が楽しくない」
「お父さんが泣くわよ」
「お母さんは?」
「今日も元気にニコニコ払い?」
「何それ」
シンは開法学院の合格者発表ページに受験番号を打ち込んで、暗唱番号を打ち込んでいく
「一旦ストップ!」
「なんで、お母さんが緊張してんのよ」
「ちょっと待ち‥って待って」
シンは母親の様子に笑いながら、パソコンを操作して次のページへと進む、画面に合格の文字が表示される
「味気ないわね」
母親は急に冷静になる
「こんなもんよ」
シンは携帯を操作してメッセージを送ると、すぐにスタンプとお祝いのメッセージが表示されてくる
「次は制服かなって何コレ?」
合格者のページを進むと制服の選択画面が表示されて、S、M、L、LLという選択肢がある
「お姉ちゃん達の時もあったけど、アンタは文句なしのSSね」
「Sまでしかないし、コレを選べばいいのね」
シンは言いながら、パソコンのカーソルはMを目指す
「あなたのそういう所は好きよ、シン」
シンが持つマウスを後ろからガシッと握って、カーソルをSまで誘導する
「ママは娘に期待するもんじゃないの!」
「現実を見て育ちなさい!夢を見る時代は終わったのよ!」
抵抗するも母親が両手を使って、Sを選択させる
「あとは寮ね」
「‥‥‥」
シンは静かに画面を見ている
「いまさら気にしたってしょうがないでしょ」
「でも、いいの?」
母親はシンの頭を撫でながら
「特待生になってくれただけでも、親孝行な娘よ、あなたは」
シンはゆっくりと頷く
「それに!お父さんが4月からこっちの本社に戻ってくるから!荷作り急ぐわよ!」
「聞いてないわよ」
「さっき、言ったわよ」
シンはカーソルを動かしてマウスを連打した
3月終わりに寮に引っ越すと前にも会った寮長が管理するH棟に入寮が決まった
「アンタかい!問題を起こすんじゃないよ」
起こした気は無いが、はいっと言うと寮長から部屋の鍵と大まかな施設の利用時間が書いてある紙をもらう
「で、アンタらも入んのかい?」
シンの後ろに9人が荷物を持って並んでいる
「入っていいの?」
「アンタは住んでんだろうが」
ポーはあははっと笑いながら
「何階なの?シンの巣は」
「教えない」
「3階だよね」
「昨日片付けといたよ」
「301」
エルとヒルが階段に向かい、ルカが具体的な番号まで言うと
「早く行くわよ」
サリがシンから荷物を奪って持っていく
「そっちの荷物軽そうだね」
「たぶん、服とかだと思うな」
カヤとアヤノが荷物の中身当てをしている
「浴場は大きいですのね」
「時間を選べば皆で入れるわよ」
リンとウイは施設案内のプリントを見ながら進んでいく
「あんまり騒ぐんじゃないよ」
「プライバシーとかは」
「努力次第だね」
寮長に言われて、シンはゲンナリとする
少し時代を感じる作りだけど、いい感じの広さと1人部屋っていうのがまた良いが、10人も入ると手狭になる
「シンってさ、制服着た?」
シンは動かなくなった
「みんなで見せ合いっこしょうか?」
カヤとポーがへへへっと笑いながらシンを見てくる
「アンタ達も持ってないでしょ」
「私とヒルとルカは明日引き取りに行くんだよ」
「生地を変えたんだよ」
シンにエルとヒルが教えてくれる
「シンは何か変えたの?」
「人族は別に無し」
「まあ、そうよね」
カヤとウイがシンと喋っていると
「じゃあ、今持っていますの?」
リンの質問にピタッとシンが止まる
「持ってるんだ」
「見せてよ」
アヤノとサリの言葉にシンは答えなかった
「制服関連って」
「書いてる箱があったよ」
エルとヒルの言葉にシンは少し動いて
「みんなが揃ってからでいいでしょ」
「それもそうですわね」
リンがそういうとアヤノとサリが
「明日さ、バレー部に呼ばれてんだけど」
「シンも来るわよね」
シンは頭に?を出していると
「だいたいどの部でも入学する前に顔合わせがあるんだよね」
「ウチの部も明日あるから、その後に遊ばない?」
カヤとポーが説明とその後の予定を入れてくる
「明日は制服」
「引き取ったら、どっかで集まる?」
「ここでいいと思う」
ルカとエル、ヒルが続いて
「明日は荷物が多いわ」
「ここで着替えるんだから置いとけばいいわよ」
「決まりね、バレーが終わったらここに集合ですわね」
ウイとサリが相談してリンがまとめるとシン以外から肯定の返事が返ってくる
「私がここの主なんだけど」
シンが呟くと
「運動着はあるの?」
「たぶんそっちの箱」
エルとヒルがダンボールを開けようとしている
「だから聞きなさいっての!」
シンが叫ぶと皆が笑った
その後のお風呂の時に寮長から
「静かにしな!」
と頭をペシっとされる
「初日からコレはないわよ」
シンはスリッパをペタペタと音を鳴らしながらお風呂に向かった
寮に入った次の日
シンは明るくなってきた時間帯にジャージ姿で寮の前にいた、軽く柔軟を始めて
「おはよう」
後ろから声をかけられて
「おはようございます」
振り返りながら挨拶をすると、ホウキとチリトリを持った寮長がいた
「早いね、いつもかい?」
「だいたい」
寮長は真っ直ぐに伸び、学園の門に向かう道を見て、ホウキでそちらを指す
「コッチの方がもうすぐいい感じになるよ」
「ありがとうございます、行ってみます」
軽く会釈して真っ直ぐ伸びた道を走り出す
「まぁ、まだ少し早いけどね」
そういうと日課の掃除を始めた
「コッチはどんな感じでいくの?」
背中に和の文字が書かれた法被を着た女性は同じく法被を着た男性に尋ねる、2人は道の脇に並ぶ木を見ながら話す
「少し落とすか」
「そうね、じゃあ朝は行く所があるから、昼過ぎくらいになるかしらね」
「お前だけ卑怯だぞ」
「付き添いよ」
軽いやり取りをしながら、乗ってきた軽トラに向かう、軽トラが向いている方向から誰かが走ってくる
「こういこともあるのね」
「‥‥‥」
法被を着た女性は髪を揺らしながら走ってくるジャージ姿のおそらくこの学園生徒を見て言うと法被を着た男性はジッとその生徒を見ている
「おはようございます」
「おはよう」
「‥‥ああ」
こちらの近くを通る時に挨拶をして走り去って行く、その背中を法被を着た男性と女性は見ながら
「ほら、きてよかったでしょ」
「‥行くぞ」
法被を着た男性は軽トラの運転席の方に向かうのを見て、法被を着た女性は、ん〜と伸びをして空を見る
「今日もいい天気になりそうね」
助手席のドアを開けて乗り込んだ