22話
壁から急いで抜けると、髭を生やした年配男性が背を向けて立っていた
「お?どうだったんじゃ?」
なんかさっきより明るい声で聞いてくる
「ありがとうございます、おかげで会えました」
シンがお礼を言うと元来た道を歩き出す、その後ろをなんか気まずそうに会釈をしながらリン達は歩いていく、髭を生やした年配男性は少し息を吐いて、シンの後ろから脇に手を入れて持ち上げる
「何?やめてよ!ちょっと!」
「すまんすまん、驚かしてしまったかの」
そう言って、肩にシンを座らす
「少し口止めをしとかんと思っての」
シンが離してって言いながら、髭を生やした年配男性の頭を掴んで遠ざけようとするも、足とかの自由が和服で制限されている為、髪を掴むぐらいしか出来ない、後ろからリン達はハラハラし、さっきの事もあり、この男性相手にどうしたらいいかわからなくなって
「焼きそば」
髭を生やした年配男性の言葉にシンはピタッと動きを止める
「お好み焼き、りんご飴」
「な、何よ」
「口止め料じゃて、さっきの壁のな、カステラ、ホットドッグ、綿アメ」
「知らない人に奢ってもらったら駄目って言われてんのよ!おろして!」
「おや、シンちゃんは知らんでもその子らはどうじゃ?聞いてみい?」
シンは髭を生やした年配男性の髪を引っ張りながら、リン達に
「アンタ達は知ってんの?この変なお爺さん」
うんうんと頷いている、髭を生やした年配男性は笑い出して
「確かに変じゃの、今のワシは」
シンはズッと鼻をすすって、髪を離して、座り直す
「どうしたんじゃ、風邪か?」
「お腹が空くとこうなんのよ、いつも」
「では、たっぷりと食ってみるかの」
「めっちゃ空いてるから、沢山食べていい?」
髭を生やした年配男性は笑って
「破産してしまうかもしれんのう!」
歩くのが早いのか、もう参道の近くにいた
シンは幸せだった、昨日の夜からお腹空いてんのに、楽しい想像が膨らんで止まらなかった、今年は嫌な事ばかりだった、試合は最悪だし、その後も地元では無視されるし、開法にいく事を言ったら、陰口とかメッセージで変な事言われるし、勉強ばっかしてたら駄目って言われて、地元のクリスマス会に行かされて、無視されてんの知らないのか遊んでこいって言われるし、雪ダルマの格好させられるし、それでもすごくいいのもらって着た時、鏡の自分を見てドキドキが止まんなかった、スゴイのもらったって想像よりスゴイって思ったのに、笑われた‥‥、泣きたくなったけど、初めてだったから、泣きたくなかった、やけっぱちの気持ちでご飯食べたら少しはマシになるかと思ったら駄目だって、お腹空いた、写真を見たかったって言われた悩んだけど、悩んだけども見せた、笑われた‥‥、もうお腹空いた、変なお爺さんが奢ってくれるって言ったから食うし、知らない!汚れても知らない!
「持ってけ」
「ありがとよ、後払いでよろしく頼むわ」
そうやって受け取った物をシンの膝に置いていく
「ホットドッグも食べるんだ!」
「おいおい、剛毅だね!慌てちゃいけねぇよ」
シンが喉を詰まらせようとした時にスッとフルーツジュースを髭を生やした年配男性が差し出す、シンは一気に飲むと残りのお好み焼きを食べ尽くし、今膝に置かれたホットドッグに齧り付く
「どうだい?上手いかい?」
シンはうんうんと頷く、その揺れている頭の側頭部あたりにお面がくるように付けられる
「次はどうするねぇ!嬢ちゃん!」
「たこ焼きが食べたい!」
「合点承知よ!わははは!」
行列ができている店の前までくると
「おう!大将!頼んどいたのはできてるかのぉ!」
「わかってますよ、1番良いとこです」
「嬢ちゃん、いいやつをもらったでのぉ!わはは」
誰から貰ったとか、シンはお面と髭を生やした年配男性の顔が邪魔で見えなかったし、食べるのに必死でわからなかった、全部美味いし、全部食べる、もうヤケクソだった
「アイツがああまで上機嫌とはな」
「肩に乗せてた嬢ちゃんはシンちゃんだったな」
ん〜〜っと、リンの祖父とウイの祖父は難しい顔をして互いにキセルを持ち出して、火をつける
「どうしたって言うんですか」
ウイの祖母がその様子に疑問を投げかける
2人は顔を見合わせて、ん〜〜っと唸ると
「なぁ、聞くがよ」
「なんですか?」
ウイの祖父はウイの祖母に難しい顔のまま尋ねる
「今日のシンちゃんはどうだった?」
「見てないんですか?可愛かったですよ、すごく!ウイが小さい時みたいに!」
興奮気味に語るウイの祖母を見て、
「だよな」
「しょうがねぇよ、こればっかは、アイツもそうなんだろうさ」
呆れ顔になった2人はフーッと煙を吐き出す
ウイの祖母は
「どう言う事なんですか?」
2人は難しい顔をして
「作ったヤツに聞いてくれ」
「来てないのか、アイツは」
「もうそろそろ起こすとは言ってましたよ」
ウイの祖母は言うと、ますます難しい顔になった男性2人は煙を吐き出した
「ははは、よく食ったかのぉ?シンちゃん」
「うん」
鼻をすすらなくなったシンは落ち着いた様に髭を生やした年配男性に答えた
「ちょっと行ってみたい所ができたんだがの?ついて来てもらっていいかのぉ」
「りんご飴と綿アメ」
髭を生やした年配男性は、はっはっはと笑い、後ろの方を向いて
「で、手打ちにしてくれるってよ、ちっとここにいるから持って来な」
後ろからついて来ていた子達はうんっと言って、走って行く
「まぁなんだ、取ってつけた事で誤魔化さんでも良いじゃないか、良い子達なんだがの、ちょっと浮かれただけだのぉ、嬢ちゃんもあの子達も、んでワシものぉ」
「わかってる」
再度鼻をすすって、お面を被る
「良い子だのぉ、うちの子になってくれんかのぉ」
と言って、お面を被ったシンの頭を撫でる
「嫌に決まってるのぉ〜」
少し語尾が伸びて、肩を小刻みに揺らし、髪を引っ張ってくるシンに
「はっはっは!振られたのぉ」
と笑い、少し大きめに肩を揺らした
「ふむ、混んどるのぉ」
綿アメを左手にりんご飴を右手に持って、お面を頭の左側につけたシンを肩に乗せ立ち止まった髭を生やした年配男性を周りの人が少し間を開けて立っている
「シン、笑って」
「コッチ向いてよぉ」
「笑顔が見たいよ」
ルカとアヤノ、ウイがシンに向かって言うも、ブスっとむくれたままのシンが
「手打ちって言われたでしょうが」
綿アメにパクッと食いついて言う
「とうもろこしも買ってこようか?」
「カステラとか」
「なんでも買って来ますわよ」
「もう一回焼きそばよね」
カヤとポー、リン、サリが話しかけても、むくれたままでりんご飴をかじって
「ウッサイ!」
とりつく島もないような答えを返す
「はっはっは!次が始まるかのぉ、静かにのぉ」
シン達が見ている先、左側に水に浮かぶ舞台がある、その舞台の上で2人の女性が何度かの構えをして頭を下げて弓を引いて、矢を放つ
矢はシン達の見ている左側から右側に飛んでいき見えなくなる、ドォーンと太鼓が鳴り、あ〜〜と声が上がる
「どうなったら勝ちなの?」
シンは綿アメにパクッと食いついて質問する
「勝ち負けはないのぉ、だだ2人同時に矢を放って的に当てるだけじゃしのぉ」
「ふぅ〜ん、誰も当てる気なさそうだったから、そんなもんなんだ」
その言葉が聞こえた周りの人はシンを見るも、髭を生やした年配男性を見て目を逸らす
「はっはっは、勝ち負けが無いとそうなるかもしれんのぉ」
笑ってはいるが、少し声色が変わっていた
「シンちゃんはわかるんかのぉ」
「感かな?なんとなく」
髭を生やした年配男性は顔を動かさずに肩に座るシンを見ている
「あれ?エルとヒルだ」
水に浮かぶ舞台によく見る人影が登場すると、シンが声を出す
「知らんかったのかのぉ、今年初めての出場じゃしのぉ、緊張しと「ウッサイ、黙って!」」
周りの人がそれを聞いて、剣呑となるも髭を生やした年配男性がニコニコとしてシンを見てから舞台を見出す、舞台の上では構えを何度かしている所だった
「わぁ、怖」
シンは呟いて笑っている、エルとヒルが頭を下げて、弓を引き始める時にシンが
「そのまま、そのまま」
小声で言うので、髭を生やした年配男性はシンが気になって、肩に乗るシンの方を見た瞬間、エルとヒルが矢を放つ、と同時に
「やったぁ〜〜〜!!!」
両手を上げて、シンが叫ぶ、静まり返った静寂の中、シンが叫ぶ声が響き渡る、矢は右側の見えない所へ飛んでいく、太鼓がドドーンと鳴り、続いてドン、ドドーンとなって、会場はワッと歓声が上がり、同時に花火が上がって水に浮かぶ舞台が空と水に映る花火の中心にあるように見える
こうして年が明けた