2話
シンは自室で唸り声をあげていた
「えうー、メンドイ」
春休みのある日に自宅には居たくなくて母親に相談するとニンマリ笑いながら
「お母さんといい事しない?」
悪い予感がしたがそれ以上に自宅に居たくなかった
ついてった体育館にて色々あり、バレー部に入部する事になって、母親の思い通り感とハメられた感をヒシヒシと感じながらもヤルと決めたのならやってやろう‥‥
なんだけども4月後半から5月前半の連休の半分以上をシンは合宿、兄姉達は寮で母は父の単身赴任先へレッツゴーしてた
それもこれも5月中旬から7月前半くらいまでの土日にあるバレー全国大会の地区大会、県の代表を決めるトーナメントが行われるらしいので気合い入れていて、顧問のサライ先生のファミリーとハルさんが全面的協力するらしいんだが、バレー部の皆はエンジョイ勢!バシバシに鍛えられて少し泣いてる子とか出るも無事終了し地区大会が始まった
シンはもう一度唸り声を上げながら鉛筆を咥えて机の上に置いてある用紙と本数冊を睨み始めて、手を伸ばして本をパラパラと捲る
「夏までにやりたかったのになぁ」
独り言を言いながら、地区大会なんだけどもシンはやる気が出なかった
他のバレー部員がエンジョイ勢だからとか母親がハルさんと一緒にハチマキまで作って応援しに来ていたことも確かにやる気を削ぐ理由にはなり得たが、自分でもよくわからないがやる気がイマイチ出ない
それに比例して勉強量も落ちている
合宿中は楽しかったのでバレー部の皆とは仲良くなれたし‥‥気合いを入れて臨んだのだが‥‥つまらなかった
シンはアタックをレシーブした際に自分から後ろに飛んで勢いを殺した上でアタックの威力と自分でも飛んだ力で後ろに転がっているらしいので、助走距離が稼げるのだが地区大会では全く駄目だった
後ろに転がろうにも自分から思いっきり飛ばないと駄目で、打てば入るがその内にシンの所にアタックが来なくなり、守る範囲を広げるとほぼ相手が点が入らなくなる
もうどうでもいいと思って始めたジャンプサーブがバンバン入り点数を稼いで勝つみたいな事になっていった
全国大会は8月の中頃
今年は開法学院というバカデカい小中高大一貫の学院で1、2、3回戦が行われて
移動日と休養で2日空けてから
宗鳳学院というコレまたデカい小中高大一貫の学院で準々決勝、準決勝、決勝が行われる
毎年コレが交互になるので、来年は開法学院で準々決勝等がおこなわれる
ちなみに兄は開法学院高等部
姉達は開法学院中等部に所属しているので、
1回戦から応援しにくるそうだ
「明日は電車とバスで宿泊施設に行って
明後日が大会かぁ」
開法学院と宗鳳学院は色んなスポーツが全国大会の会場として使用する為、学院内に宿泊施設等も完備されている
シンは椅子に座りなおして、目の前に貼られた全国大会のトーナメント表を見ながらバレーをやるって決めた時に話してた内容を思い出していた
やる気がなくとも、つまらなくともコレだけは叶えたいと思う事
「3人がいるとこに勝てばもらえる?」
二つ名が絶対欲しいわけではないが
強いヤツとはやってみたいと思う
二つ名持ちが3人いるのは開法学院初等部
4連覇は確実と言われている
順当に行けば3回戦で当たる
そう思うとやる気が出た様な気がしたが、明日は早い為、そろそろ寝る事にした
「なんか旅行みたいで楽しいね」
バスの前の席に座ってる咲川小バレー部主将の牛の獣族であるナルがシンの方を振り返り話しかけて来た
「観光もしたいよ」
シンの隣席に座る狼の獣族であるコリンが答えてクスクスと笑っている
「まぁ、早く負ければその暇があるかもね」
シンはお菓子を食べながらそう答える
2人とも耳もしくは角そして尻尾はある為になんの獣族なのかはわかる
咲川小のバレーは6年生が2名いるがマネージャーとして所属
5年生は8名、4年生は6名の計16名
人族はシン1名である
団体戦に人族はあまりいない
理由は1つで絶対な体格差が出てくるのだ
今話しているナルとコリンはシンと同じ年齢だが頭一個分も身長が違う
なので、それを補うほどの何かが無ければ選手として試合に出る事ができない為、個人種目に人族は多いとされているが例外はいる
ナルはシンの頭を撫でながら
「お姉さんにも頂戴」
と口を開けたのでシンは食べていたスナック菓子を片手で持てるだけ持ってナルの口にほりこんでやる
「オラ!」
「あいあと」
小さい手で掴んだ量を口を開き受け止めてナルはモシャモシャと食べてしまう
コリンはケタケタと笑いながらシンを撫でて
「何してんの」
と言っている、この2人がシンにトスを上げる役目を持っていて、試合では前衛にいる
「ウッサイ」
シンは2人の手を払い除けて、窓の外に目を向ける。もうすぐ着くなぁと思い菓子袋の口を折り畳み始めたら、ちょうどサライが立ち上がって
「もうすぐ着くから軽く準備しておけ」
と声を掛けて来た
すぐに開法学院と書かれた立派な門が見えて来る、門を通り過ぎて10分ほど走ると目的の宿泊施設にたどり着いた
バスから降りると
「シンちゃーん」
呼ばれた方を向くと男性1名と女性2名が立っていた
「ユウキアニィ、サキアネェ、アキアネェ」
シンはそう呼ぶと3人の方に歩いていく
「何?待ってた?」
「そうそう!時間ありそうな感じ?」
サキがそういうとシンはサライの方を向いて
「サライ先生!点呼の後にちょっとだけ外出良いですか?」
「17時半にもう1度点呼するからそこまでには帰ってくる事と同伴者の身分証明書の確認があれば良いよ」
シンがユウキの方を向くと
「わかった、行ってこよう」
と言ってサライの方に向かって歩いていった
「アニィ、アリガトゴザイマス」
シンはユウキと並んで歩きながらそう言うと
「まだ根に持ってんのか
カタコトやめろっての」
ユウキはバツの悪そうな顔をしながら答えた
兄と姉達と遅めの昼食を取る為に
姉達が入っている寮の一階食堂に来ていた
4人で食券売り場に並んでメニューを見ていると
「ユウキの奢りだから高そうなの頼みな」
サキがそう言うと
「そうそう、全国大会出場おめ!ってヤツ」
アキもシンの頭を撫でながら続いた
「アリガトゴザイマッス」
「もう許してくれって!スマン」
シンに対して頭を下げてユウキは謝罪した
サキとアキはアハハっと笑ってから
「「スマン」」
と片手を上げる
シンは少しむくれた様な表情を見せた後に
「もう2度としないなら、、、、オススメは何?」
ユウキはパッ顔を上げて
「豚の生姜焼きが美味いぞ!」
「じゃあ、牛丼で」
「なんでだよ」
「ギュウドン」
ウゥっと言いながらユウキは食券販売機にお金を入れて牛丼のボタンを押す
サキとアキは笑いながらそれぞれの食券を買い、ユウキが押す時にサッと横から手が出てボタンが勝手に押された
「はー?おい!シン何を、、ってカレーかよ!」
「席に入ってるから」
姉妹3人が手を振りながらユウキから離れていった。ユウキは溜息をつきながら食券を4枚取りカウンターに出すと食堂のオバさんは
「カレーとはスゴイ子だね」
ユウキはエッと漏らしてカウンター横の看板を見ると
「本日激辛カレーの日」
と書かれてあるのを見て
「マジ?」
「福神漬けつけてあげるから頑張んな!」
オバさんは右手の親指をグッと突き出して
ウィンクをかました!
ユウキはグッとうなだれた!
「で、どう?勝てそうなの?」
サキはカウンターでうなだれてるユウキを見ながらシンに話しかける
「強いんだよね?ウチって?」
アキはユウキを見て苦笑しながら言った
「さぁ〜‥‥それよりいつ言うの?」
サキとアキはシンを見て
「んーー‥‥夏休み明けかなぁ」
「そのぐらいかなぁ‥‥ファミリーに入るのは来年だけどねー」
サキとアキは少し赤くなりながらそう答える
「そうしてくれると助かる
あと揃って帰って来ないでよ」
シンは目を瞑りながら話す
サキとアキはより赤くなりながら
「「その節はすいませんでした」」
と揃って頭を下げた
シンは溜息をついて思い出す
母親に連れられてバレーに行った日
シンは朝にコンビニへ行って家に帰ってくるとシンの部屋から兄と姉達が
「いいじゃないか」「ちょダメ」「こっちもなの」
部屋の前まで来てゆっくりと遠ざかる
その後、家を出て歩いていると笑顔の母親に捕獲される
その後、兄姉達とはあまり話さず
夏休みの初めに帰って来た兄姉達にカミングアウトして、部屋に入んないでと伝えた
「はぁ〜‥‥まぁ、父さんも母さんも驚かないと思うけどね〜」
と言うとシンは机に突っ伏してしまう
「どした?緊張してんの?」
サキは突っ伏したシンの頭をつつく
「んなわけないでしょうが」
ガバッと顔を上げて突いていた指に噛み付く仕草をした後に口を尖らせて
「つまんないって少しだけ思ったから」
「おー!王者の風格!」
「地区大会の覇者は違うねー」
サキとアキが茶化すと後ろから
「お待たせだ」
振り返るとユウキがデカいトレーを両手に持っていた、ありがとうと言って各々の料理を受け取っていただきますとご飯を食べ始める
「アニィ、大丈夫か?」
もう汗をかいて食べているユウキをシンがニヤつきながら心配している
「意外と上手いんだ!コレが!」
ガツガツと食べるユウキを見て、シンは残念そうに半眼になる
姉妹は半分も食べていないのにユウキは激辛大盛りカレーを食べ終え、水をカブ飲みしご馳走様と手を合わせる
「開法は強いぞ!二つ名はズバ抜けているからな!雷姫と赤壁、緑壁合わせて双璧!アレは良い!」
「アニィのそういう所も嫌い」
「も!?」
「ユウキはどっちの味方なの?」
「今のはドン引きかな」
サキとアキは半眼になりながらご飯を食べる
ユウキはショックを受け少しだけトーンダウンして
「だってよ、やっぱ全国大会は盛り上がるよ!
バレーしてる人は多い。二つ名持ちは中学でも少ないのに、同じ小学で3人もいて3連覇!4連覇も確実って言われるとな」
シンは残りの牛丼をチマチマ食いながら
「動画で見たから、スゴイのはわかるけど
面白いかどうかはねぇ」
ユウキ、サキ、アキを見回して
「明日は頑張ってみるよ」
そう言うと残りの牛丼を勢いよく食べ始めた