15話
開法学院の体育館
今日はバレーの全国大会の準決勝が行われている、2階観客席の角に座る和服姿の年配男性は立ち上がる
「最後まで見ませんの?」
和服姿の年配女性は尋ねた
「最近は涙脆くてね」
それにと続ける
「1年前から覚悟していた事だろうしね」
和服姿の年配女性もスッと立ち上がる
「いいのかい?見ていかなくて」
「良いものが思い浮かびましたので、早く帰って絵にしませんと」
和服姿の年配男性は尋ねた事に自分が思っていた事が帰ってきたので
「そうか、では帰るとするか」
2人が観客席から立ち去った時に3セット目が終わり開法小の2セット連取が決まった
「そうなると思っていたけど、コレはあんまりよね」
アヤノの母親はフッ〜と息を吐くと、リンの母親もは〜と息を吐いてから答える
「去年、散々大暴れしたからマークされるのは当然としてもコレはヒドイわ」
アヤノの母親とリンの母親は咲川小のベンチを見る、4セット目が始まる所だが選手は立ってるのがやっとという感じだった
「覚悟が決まったって言ってもこれじゃあ折れそうなもんだけどね」
アヤノの母親は去年夏にシンが言った言葉を聞いて悲壮感が先に来た、アヤノは気合い入ったとか言ってるけども‥‥そんな言葉を使うって事はわかってるんだろう、頭のいい子だけに‥‥周りからも恨まれるだろう事もわかってるんだろうね‥‥信頼してたんだろうね娘達を、不器用だけど友達の願いを叶えようとして‥‥出した助けてを聞こえないようにして
「娘は言葉の意味をわからずに悔しがっていたけどもここまでハッキリとしたらわかるかしら」
リンの母親は娘がどうしてやれないのって悔しがっているのを見て、友達からの最後の助けてを聞けない子だったのかと思ったが、私もこの年に出来なかったから何も言えないわ、とふと自分の母親と父親を見るとコチラを微笑ましく見ていた、少し恥ずかしくなる、私もこんなんだったんだと‥‥おそらく娘は気づくだろう、あの子は自分が言った言葉を守る為になりふり構わず挑んでくる‥‥その時の娘の成長を願うばかりだわ
「1セットやってくれたのは情けでしょうね
それ以降を見ればわかるわ」
1セット目は接戦の末に咲川小が取ったが、2.3セット目はほぼストレートで開法小が取った、ブザーの音が鳴り、開法小の選手はコートへと向かうが、咲川小の選手は動こうとはしなかった、シンは頭からタオルを被って下を向いている
「‥‥よくやったわね、こういう結末もあるとは思っていたけど‥」
「‥経験したくないわ」
アヤノの母親は娘が困惑気味にシンを見ているのを見ながら、リンの母親はゲンナリしながらそう言った
咲川小は4セット目を危険し、開法小の勝利が確定した
大きな庭園のある家の居間で羽根の生えた年配男性がキセルを咥えながらテレビを見ていた
背後から年配女性が近づくと、音もなく羽根は身体に吸い込まれてなくなり、背中に和と書かれた法被が見えるようになる
「皆、待ってますよ」
話しかけられた年配男性は動こうとはせずにテレビを見ていた、年配女性はハッーと息を吐いてテレビを見る
「そんなに気になるなら見に行けばよかったでしょうに」
テレビから実況の声が小さく聞こえてくる、年配男性が小さくしているのだろう
〔去年の台風の目!対策を練られても打ち破り、ここまできましたが無念の危険!1セット目を奪って、今年も開法小に傷跡を残して、勢いに乗るかと思われましたが、失速!そして最後はコートに戻ってきませんでした!しかし、個人的には感動しました!拍手を!惜しみない拍手をお願いします!〕
タオルを被っている選手をアップで写しながら、実況がそう語る
「誰が見てもシンちゃんだけが異質だものね」
タオルを被っていても顔は隠せても髪は隠せていないのですぐわかる
「‥なんつー顔しやがる」
年配男性はキセルを口から外してグチる
年配女性はそんな年配男性を見ながら思い出す
ウイは昔は屈託なく笑い、旦那や私に羽根を見せてとせがんだ、見せると
『絶対に私もそうなる!』
本当に宝とはこの世にあったんだと思わすような笑顔と言葉だった、そんな孫が怪我をした、バレーをやっている時に1番恐れる怪我をしてしまった、孫は‥‥ウイは笑わなくなって、勉強をよくするようになったのは良い事なのかもしれないが、世の中を斜めに見るような発言をするようになっていった
そんなウイが去年の夏ぐらいに久しぶりに可愛らしい笑顔を見せてやってきた、動画見たいと居間のテレビで流すと絶句した、同年代ぐらいがバレーをやっている動画だったのだ、旦那がいなくてよかったと思って、ウイを見ると
『これ!ここがスゴイのよ!』
と言って興奮しながらテレビを指差す
絶句って何度もできるものだと後で思う、画面越しに見ているせいか合成を疑ってしまう、麒麟の娘さんが力を解放して打ったボールを上げて自身は吹っ飛ばされながら、構えている
『コレはホント‥‥』
次に力を解放している鬼の娘さんにボールで狙撃されていた、もちろん絶句した
その後、試合の動画を見てウイが興奮気味に語る、本当に幸せだった、こんなウイが見れたのに旦那に言うのはバレーの動画であった為に抵抗があった、そんな旦那が月1で行く馴染みの店で悪友から
『1回最後まで見てみろ』
と言われて、動画データをもらってきた、居間のテレビで再生するとウイが持っていた動画と同じだった、旦那がグッと我慢しているのがわかる
『あの野郎、後で覚えておけ』
キセルを咥えてシャグを入れてなかなか火をつけなかった、絶句を味わっていた
ウイが来た時は、この動画を見ては孫と会話をする、あーだこーだと笑いながら
シンちゃんには感謝している、ウイとこんな風に喋るのは久し振りだから‥‥覚悟の話を聞いた時には旦那は馴染みの店に行って、千鳥足で朝帰りしてきた、ずいぶんと盛り上がったみたいです事、水をぶっ掛けてやった
「覚悟の上でしょうね」
場面が切り替わり、3位決定戦は中止の発表と予定通り午後3時から決勝開始の発表をしている、旦那は少しイラついた仕草でキセルを咥えて吸う
「火、ついていませんよ」
フッーーと鼻から息を吐くと
「仕事に出てくる」
そういえば、旦那を呼びに来ていたんだって気付いた、旦那がキセルを箱に片付けて足早に居間を出ていく
年配女性はテレビを消して居間を出ていく時に画面が消えたテレビを見て
「会うのを楽しみにしてるわ、シンちゃん」
ゆっくりと居間を後にした