1話
亜人、一括りにそう呼ばれるようになった
元は人と何かのハーフ、もしくは人に似たものの総称と呼ばれたが、ある時より等しく人と呼ばれるようになった
幾度となく争いが起こり、和解があり、そして混じり合っていった
きっかけやその後にあった出来事を上げればキリはないが、大きな転換期と言えば、過去に起きた諍いが原因なのかはわからないが、男が生まれにくく、少なくなっている為に強制はないが、枠組みとしてファミリー(ハーレム)を認めることとなった。男1人に対して最大で10人、手続き等は複雑であるが制度として作られた
それに伴い、元亜人と元人に等しく起きた現象がTS(女→男の例が大多数を占める)が確認された事により、人もまた異質になった
人もまた何かと混じり合った生き物ではないか
そんな話も囁かれるようになった
少し肌寒い3月中旬
昼前の歩道を母娘が並んで歩いていた
母親の方はちょっとしたコートを羽織っており
娘の方はジャージにジャケットを着ている
母親の髪型は黒のセミロングだが、娘の方はふくらはぎまである黒の超ロングである
そんな2人がゆっくりと
車の少ない道を歩いていく
「寒い」
「まぁまぁ、行ってやればあったかくなるよ」
娘の方が背中を丸めて歩いていて、母親が背中をさすりながら歩いている
娘の方は母親より頭一つ身長が低く背中を丸めるとまた一段と小さく見えた
「楽しいの?」
母親は顎に指を当て
「たぶん」
「楽しいって言って」
拗ねた様な顔でそれでも観念した様に母親と並んで歩く
途中の自販機でホットのお茶を買いながら
しばらく歩くと前に体育館が見えてくる
「もうちょっとよ」
「あい」
母娘は並んで歩きながら体育館に入っていく
娘は母親が受付の人と話している間に背負っていたカバンから上履きを出して履き、重そうな扉が開きっぱなしの体育館の中に目を向ける
色々な掛け声や笑い声が聞こえてくるあたりに鉄の支柱が離れて2本立っておりその間にバレー用のネットが掛けられていた
「お母さんも久しぶりなのよ〜」
「そなの」
「そ!小学生で辞めちゃったけどね」
集まっている亜人達を見ると頭、背中等の体の一部が変化している人がいる
「あのさ、流石にバランスが」
「心配しないの!結界もあるしみんな本気じゃないから大丈夫」
「人族が混じって大丈夫なの?」
「シンは頭が良いから考えすぎるのかしら」
向こうから尻尾をフリフリしながら
恰幅の良いオバさんが歩いてくる
尻尾の形から象なんだろうとシンは思った
「フジムラさん!来てくれたのね!
その子がシンちゃん?可愛いわぁ!」
ワキにサッと手を入れられて、ゆっくりと力強い感じで高い高いをされる
少し笑いながら、シンは無抵抗で受け入れる
この世の中は色々な種族で成り立っている
亜人法によれば種族特性の力を乱用するな
とあるためファミリーを形成する事となる高校までに感情と力のコントロールをスポーツを通して培っていこうという教育指針が200年くらい前に築かれた
多少の反対等はあったものの特性打ち消しの結界の開発、感情の昂りによる力の暴発での事件等の出来事があり、全種族とは言わないまでも皆が望んで対等にやりあえる中学生までのスポーツが大人気になった
親以上の世代は青春の1ページを思い出しながら子や孫の世代が切磋琢磨するのを見守るというのがこの国の伝統となりつつあった
高校に入ると絶対的な体格の差が出てきたり
また結界で抑え込みすぎて特性が弱まってしまったりと公平性が失われたり未来を奪う結果となる為、結界を使ったスポーツは中学までとなっている
結界を使い種族特性を消した中でも人族は非力の部類に入り
日常生活をする分には今見ている通り穏やかで
ある為、問題はないのだが
中学あたりでのスポーツでも結界による種族特性の打ち消しが無ければ、手が滑っちゃった!であの世に行く種族がいる
なので、シンを抱き上げている恰幅の良い尻尾の生えたオバさんが怒ってシンをフン!ってやればシンは薄っぺらい何かになってしまうだろうが、中学生までのスポーツで鍛えられ、その後もファミリーで次世代への慈しみを学んだ彼女たちが子世代であるシンに対して感情のままに理不尽な行いはしないが、悪い事をしたら少しトラウマを植え付けるとは思う
「今日は結界もしてあるし楽しんで行ってね」
そう言いながら、シンに高い高いを何度かし
下にゆっくり降ろして頭を撫でてバレーのネットの方にかけていった
「良い人でしょ」
「すごく」
「素直な意見が言えてよろしい」
シンが母親を見るとコートを脱いで下のズボンを脱いでジャージ姿になっていた
シンは髪の毛をポニーテールの位置で結び、母親がシンの後ろに回って首の後ろと背中の辺りと膝裏あたりに来ていた先端を結んで
「さっ、手伝いに行くわよ!」
ふぁいとシンはそう言いながらジャケットを脱いで、ジャージ姿になり母親の後に続いてバレーネットの近くの人だかりへと進んで行く
手伝いに行くと言っても初めてなので母親の近くでウロウロとしていると耳の尖ったエルフ族の女性が話しかけてきた
「あなたがフジムラさんの娘さん?」
シンは頭を下げながら答える
「初めましてシンと言います
今日はよろしくお願いします」
「うん!良い子!私はあなたが通っている咲川小のバレー顧問しているサライと言うの!よろしくね」
よろしくお願いしますとシンが答えると頭を撫でながら
「緊張しないで楽しんでねー」
と言いながら手をヒラヒラして去っていく
「良い人でしょ」
と母親が言うと
「今日は何回聞くことになるのソレ」
と半眼で言い返した
母親がバレーボールを借りてきて
「軽くやってみようか?構えとかわかる?」
シンは腰を落として両手を前に出して
「こんな感じ?」
と構えると母親がボールを何回か投げる
シンは、よっと言いながらバレーボールを
レシーブとかトスとかいった形で返していく
母親もトスとかで返し始めて何回か後にジャンプとかはせずにアタックをシンに向かって打つとレシーブで返す、段々と強くするもシンは色々と動いて返していく
母親が打ち出すボールは高さと方向はバラバラなのに母親は動かずに打ち、段々とボールを打つ音も強くなっていくが、受ける方の音が聞こえなくなっていく
周りが少し気にし始めた辺りでシンが
「母さんばっかズルい」
と言いボールをポーンと高く上げる
「あんたもやってみる?」
母親はボールを掴みハイっと投げて構えると
シンはボールを左手でバシッと打つと
「うまいうまい」
と母親は笑いながらレシーブで返す
シンは動きながら次は右手で打つと母親は動かずにレシーブをする。2、3回左、右と交互に打っていると音が変わり始めてレシーブし損ねると母親は
「ちょっと強いわよ」
レシーブし損ねてたボールが人の集まっている方向に転がっていくとサライがボールを拾いながらシンに
「結構上手いじゃない?経験あり?」
シンは顔を横に振りながら
「テレビとかで見たぐらいです」
サライはへーっといい
「ちょっと入ってみない?」
と、人の集まっている方を振り返る
3コート作られており、2コートでは遊びではあるが試合形式で笑いながら始めていた
シンが誘われた方はママさん達の集まりでさっきの恰幅の良い女性もおり、シンは
「良いんですか?初めてですよ」
「いいのいいの!みんな中学までやってたから
優しくしてくれるわよ」
サライはそう答えるとシンの肩に手を置きながらコートへと案内していき、5人のママさんに囲まれる
「なんか隠れたわね」
母親はポツリとそう言う
シンが小さすぎるのか、周りが大きすぎるのか
シンは見上げながら
「は、初めてですがよろしくお願いします」
と言うと可愛い!いい!欲しいわ!と5人から頭を撫でくりまわされる
サライがシンに
「向こうからボールが打たれるから
さっきみたいに受けてみてね」
と言いながら、コートの外に出ていく
なんか軽いノリだなぁと思いながら
ネットの向こう側、相手のコートをみると
ボールをダンダンと床につきながら笑っている女性がいくよーんと言って、ボールを上に放り投げ腰の横に構えた手でドッと音を出して打ち出す
シンはボールを見てると放物線を描きながらまっすぐに自分に向かって来てるのに気付くと腰を低くしてレシーブすると音は聞こえずにネット際にいた女性の頭上に上がる
女性はトスをしてトスされた女性は軽くジャンプし相手コートに打ち返すとサーブを打った女性の手元にボールが戻っていく
ボールを上に放り投げると今度は母親やシンがしていた頭の上でボールを打つアタックのような形で打ち出すとシンは構えてレシーブするもバッと音が鳴るが、さっきと同じ場所、同じ高さに上がってトスされ、相手側にパスされてサーブを打つ人に渡ると次は打ち方は一緒だけども速さと重さがあるサーブがシンへと打ち出される。音が出ないレシーブで受けるとまた
同じ場所、同じ高さに上がってトスされるというのを段々とサーブは速くなりながら、でもレシーブは音は無く、乱れずに同じ場所、高さに上がるので、サーブの時だけ速くなるだけで後は繰り返しの映像が5回繰り返した辺りでシンの髪が床につくかつかないかまで腰を落として小刻みに右、左と揺れ始める
くくった髪の毛も揺れ始め、まるでデカい尻尾が揺れているようにも見えて、目も段々と睨むような形になっていった
サーブを打っている女性は
(すごいわね!ちょっとどこまでイケるか!
イタズラしてみようかしら)
虎の尻尾がスルンと出ると
「無理だったら避けなさいよ」
と言うと3歩下がってボールをさっきより
高く放り投げる
象の尻尾が生えた女性が駆け寄ろうとするも
虎の尻尾が生えた女性が先に助走をつけてジャンプし打ち出してしまう
今までの放物線の軌道では無く上から下への軌道でまっすぐにシンにボールが向かっていくがシンは逃げる事無くボールと接触して後ろに吹っ飛ばされ空中で一回転しながらコートの外へと飛んでいき、後ろに少し滑りながら着地した後、腕を床につけ獣人が襲いかかるような格好で止まる
「トス!シン!打て!」
サライが叫ぶとさっきまでと同じ場所、高さにボールが上がっている事に気づいたネット側の女性がコートの真ん中辺りにトスを上げる
シンはボールを見上げながらスタートする
スタートするタイミング
ジャンプをするタイミング共にアタックするには早すぎると皆が思うもシンは皆の予想より高く速く飛んでボールを左手で打ち出した!のだが、ボールはコートを外れて体育館の壁にドンッと当たり転々と転がる
シン床に前まわりで丸まりながら着地して立ち上がると
「ご、ごめ、、すいません」
と謝罪するも静まり返っておりもう一度
「すいませぅッ!」
途中で虎の尻尾を出した女性に抱きつかれ言葉が止まり、それからはママさん達にもみくちゃにされながら
「スゴ!なにあれ!」
「取れるのもスゴイけどなにあれ!」
「可愛い!欲しい!」
「高くなかった?痛くない?」
と頭や腕を撫でられながら、しばらくおもちゃにされているとサライが寄って来て
「身体は大丈夫?」
と聞いて来たので
「髪型がすごい事になりました」
とシンが言うとサライはニカッと笑ってシンの頭を乗せ撫でられながら
「スゴイよ!クーのイタズラをあんな風にしたのは始めてみたよ!」
シンは撫でられながら頭に?を出していると
象の尻尾を生やしたママさんに虎の耳と尻尾を出しながら首根っこを掴まれた女性が連れて来られ、ポーンと投げられてドサッとシンの前に倒れ込む
「クレムって言って、私と同じファミリー」
とサライが言うと
「ごめんねぇ〜ゆるしてぇ〜
中学生なら許されると思ってぇ〜」
クレムがシンに抱き付きながら涙目で言うと
「次、5年生で中学生ではないです」
「聞いてなかったの?ウチの小学校の生徒よ」
サライが付け加えると
「スゴ!なんであんなガッ!」
後ろに立っていた恰幅の良い女性がクレムの
顔を両手で挟み込んでそのままゆっくりと引きずっていく
「中学生だったら良いとか悪いとかあるかー!」
「きゃーー」
クレムの悲鳴が響き渡る
サライが目頭を抑えながら
「ごめんな、しかしあんな事が出来るんだ?
ああ、高く飛んで着地のゴロゴロとその前の吹っ飛ばされた時もかな」
話の途中でシンが首を傾げようとしたため
説明をつけ加えた
「んー、山で兄と姉に遊ばれた時に色々と
ゴロゴロとか吹っ飛ばされる時はこの髪が良いクッションになるから」
シンはボサボサになった髪を撫でながら言う
「長い髪をクッションがわりかキレイなのにもったいないな」
サライは言うとシンは半眼になり
「母さんが切らないでって言うから‥」
母親の方を見てみると、立ちながら失神してるみたいにボーゼンとしていた
シンが駆け寄っていき「母さん?」声かけるとハッと意識を取り戻すと
「シン!大丈夫なの!」
シンの身体を触りながら聞くもシンは溜息を吐きながら答える
「だから、アニィとアネェ達の方がひどかったって言ってたし」
周りはどんな扱い?って疑問が浮かぶ
クレムが母親の前に連れて来られ平謝りしているがシンが別に気にしてない風だった為と母親に兄と姉達の所業がどれだけだったかを知らせれてよかったとさえ思っている感じだった
「もう一度出来る?」
サライがシンに尋ねると
「うん
ただ、もうちょっと高くと
コートの後ろらへんに上げて欲しいかな」
と要望をつけて来たのでサライはノリノリで
「よしきた!」
シンはコートから出てすぐの所で陸上のクラクチングスタートのような形を取る
向こう側のコートにはクレムが立っており
いいよーと声をあげている
「いいのか?」
サライが問いかけるとシンが頷いた為
落下地点がコートの後ろらへんになる様にトスを上げるとボールが上がりきり落ち始めた位にシンがスタートする
2歩でスピードに乗り、3歩目で飛び上がる
(速い!高い!)
誰もがそう思うとシンは飛び上がった先
ボール目掛けて左腕を振り切った
ゴッという音と共に反対側のコートの真ん中から少し後ろにボールが叩き込まれた
おお〜とドヨメキが起こる中
シンはネットの所まで転がり立ち上がる
その後、ママさん達は上げる役とか
受ける役、またアタックをシンに受けさしたりと続けていた
「ねえ、どうだった?」
クレムがんーと考えながら
「中学でも通じると思うよ」
サライはその返答を聞いてシンを見ながら
「本気でやれば?」
「成長込みで考えたらエグいよ」
サライが考えているとクレムが
「おーい!シーン!おいでよ!」
周りに頭を下げてからシンが駆け寄ってくる
「なんですか?」
クレムがサライを見ながら顎をクイっと動かす
「バレー部に入らない?」
サライが問いかけるとシンは少し考えると
「今日のような面白い事ある?」
「面白い事?」
サライが聞き返すとシンはクレムを見ながら
「強いヤツとか」
クレムが笑いながら
「あはは!あんた本当に人族?鬼族とか龍族じゃ無いの!」
笑われて拗ねた様に顔をしかめるシンを見ながらサライがコホンと咳払いして
「全国まで行けばいるわよ」
「3連覇中で二つ名持ちがいる所かぁい?」
恰幅の良い女性がシンの後ろから声を掛ける
「流石に詳しいわねハルさん」
サライが答えるとハルさんと呼ばれた女性は
「あそこは強いわよ!他も全国に出るから強いと思うけど段違いね!小学生で二つ名持ちが3人もいる事とかね」
「何?二つ名って?強いの?」
シンはハルをジッと見ながら聞く
「強いわよ!全国大会3連覇!3連覇中の大会で取られたセットは一つも無し!」
フスーッと鼻から息を吐きながら
「二つ名ってのはスポーツ等で飛び抜けた成績を収めた者に送られる物さ!中学生でも与えられるのが稀なんだけど小学生で与えられるのはそれは名誉な事だよ!」
ハルはドヤ顔で語り終える
シンは何か考える様に目を瞑り、ゆっくりと開けると母親の方を見て声を上げる
「母さん!バレーやっても良い?」
「えー、やるの?イイわよ!」
母親は目的を果たし、してやったりと言わんばかりの笑顔で答える
「なので、よろしくお願いします」
シンはサライに向かって頭を下げる
「いいね!応援するよ!」
ハルは言うもシンが何か違う事を考えてそうな気がして聞こうしたら
「おや?二つ名でも欲しくなった?」
クレムがシンに問いかけた
シンはクレム、ハルと見て
「3人がいるところに勝てばもらえる?」
サライ、クレム、ハルは少し沈黙後に笑い出してシンを見ながら
「素敵でカッコいいのがもらえるさ!」
と答えた