ハイボールのおいしい飲み方
彼の名前が『山崎ジャック・ダニエル』だなんて、知らないひとが聞いたら冗談だと思うことだろう。
でもそれがアメリカハーフの彼の本名だ。
彼の影響で私はウイスキーの魅力にどっぷりハマってしまった──
『ごめん、凪。今日も仕事で帰れそうにない』
そんなメッセージにも慣れてしまった。
浮気とかしていないことはわかっている。ほんとうに、ダニエルの仕事は、私から幸せな時を奪う恋敵なのだ。
『今度また埋め合わせはする。一緒にうまいハイボール、飲もうな』
私は返信した。
『大丈夫、一人でもおいしいハイボールの飲み方知ってるから。お仕事、身体に気をつけて』
おいしいハイボール──
まず、ウイスキーにはジャックダニエルを選びましょう。
氷は水道水で作ったものだとすぐに溶けるし、ウイスキーの味を濁らせるから、ロックアイスで。
ソーダ水で味なんか変わらないだろうと高を括って、安いソーダ水なんて使っちゃだめ。炭酸の強度は変わらなくても、明らかに味に違いがあります。何よりちゃんとしたもののほうがシュワシュワが長続きします。
グラスにはこだわりません。紙コップでもいい。その気安さが、むしろ私には合う気がします。
おつまみにはピーナッツ、さきいか、ツナピコ、貝ひも──気の向いたものをちょこちょこと。お腹が空いたら冷凍の唐揚げを温めます。
そして、テーブルの向かいに、彼を思い浮かべます。
彼との会話を思い出しながら、だんだんと暗かった顔が、笑顔に緩んでいきます。
シラフじゃこんな時間、やり過ごせないよね。
締めにカップうどんを平らげて──
ベッドに入ればすぐに眠りの世界。
冷たい布団を気にすることもなく──
これじゃなけりゃ眠れない。
彼と一緒に飲んだつもりになって──
おやすみなさい。
いつかほんとうにおいしいハイボールを飲む時を夢見て──