10-1・夜野里夢の情報
-YOUKAIミュージアム-
深紫マスクドウォーリアが振り返って武装化を解除。血も涙も無い装着者は、ワンレングスロングヘアで、派手な赤いスーツに身を包んだ気の強そうな美女だった。
美女はロングヘアを掻き上げて穏やかに笑みを浮かべ、警戒をしている俺の脇を通過して、爺さんに近付く。
「お久しぶりです、粉木さん。」
「爺さんの知り合いなのか?」
「大魔会の夜野里夢。可能ならば会いたくない知り合い・・・やがな。」
大魔会は、西洋に拠点を置いて、悪魔を討伐する組織。システム装着員の安全性よりも、攻撃性を追及するスタンス。事件解決が素早い代わりに、装着員の犠牲も多い。ゆえに退治屋は大魔会の方針を敬遠している。
「退治屋と大魔会は似て非なる組織。同じ道を歩めないゆえに、互いに不可侵。
・・・ですが、何が起きて、何故、我々が巻き込まれたのか、
事情を聞くべきでしょうね。」
狗塚の提案に対して、爺さんが頷く。俺も同意見だ。
解っているのは、「奴等が大魔会から離反した」「本社からの援軍を全滅させた」「エクストラ化をした妖幻システムを狙っている」ってことだけ。奴等が、これで諦めてくれたとは思えない。何より「一方的に襲われて、追い払って終わり」では納得ができない。
「奴等は何がしたいんや?」
「端的に言えば、力の誇示です。
組織の禁止事項を破った為に、マスクドシステムの剥奪が決まったのですが、
彼等は納得をせずに離反をしました。」
「禁止事項?何をやらかしたんや?」
「任務(悪魔討伐)時に、一般人に多大な被害を出したのです。」
離反者の3人は、組織とは無関係な人々から搾取した生命で自分達の魔力を高めて上級悪魔を討ったのだ。大魔会は装着員の犠牲を顧みない組織だが、一般人への対応は別。言うまでも無く「一般人からの生命力の強制徴収」は禁じられている。
彼等の直属の上司は、彼等を糾弾した。そして、彼等の更迭と、マスクドシステムの剥奪を決めた。だが、彼等は、マスクドシステムの放棄をせず、上司を殺害して逃亡をした。
「そいで、オマン(里夢)が刺客として向けられたんか。」
夜野里夢の所有するマスクドシステムは離反者の物より性能が高い。命の危険を感じた離反者達は、自らを強くする為に「パワーアップした妖幻システム」を奪おうとしているのだ。
「人の道を外れた上に、自分達より弱い奴等を蹂躙して、
しかも、他力本願で強くなろうってのか?
クソみたいな連中だな。」
「オマンの組織の恥部や。オマンの組織で処理してくれるんやろうな?」
「もちろんそのつもりです。
離反者達は、目的達成の力を得る為に、
再び一般人を犠牲にする可能性があります。」
「『生命力の強制徴収』ってヤツか?」
「野蛮な連中め!これでは鬼と変わらない!」
「学校などの、若い人が集まる場所は、私が警備をします。」
「市内に幾つもある学校を、たった1人で警備できるのか?」
「40~50カ所くらいなら問題有りません。」
各学校に監視カメラでも設置して盗撮するつもり?それとも学校付近の防犯カメラを傍受するのか?どうやれば、40~50カ所を網羅できるのかは不明だが、この議案で虚勢を張っても意味が無いので、「彼女なら可能」と信用をする。
「問題は、一般人よりも貴方達です。
離反者達から貴方達を守る為には、何が狙われているのか、
具体的に把握しなければなりません。
妖幻システムのパワーアップの詳細を教えていただけませんか?」
俺は、爺さん&狗塚&砂影の婆さんと顔を見合わせる。機密事項をライバル企業の幹部に教えるわけにはいかない・・・と言いたいのだが、それ以前に、俺達自身が「妖幻ファイターの姿が変わってパワーアップをした」原因を把握していないのだ。
だが、「なんでパワーアップしたのか、よく解らない」では組織の管理能力を疑われてしまうので、砂影の婆さんは、説得力のある返答で誤魔化す。
「あんたが大魔会のシステムを私達に教えられんように、
私達もこちらのシステムをあんたに教えるわけにはいかんわ。」
「それは残念ですが当然ですよね。」
可能な範囲での情報交換と連絡先の交換を終えた後、夜野さんは、一礼をして立ち去った。
夜野さんにはシッカリと自分の組織の処理をしてほしいが、全てを彼女任せにして守ってもらうつもりも無い。部外者が居なくなったところで、俺達は事務所に籠もり「今後の方針」を相談する。
「彼女は『離反者達は一般人を巻き込む』と言っていましたね。」
「鬼達が優麗高でやろうとしたのと同じことが、
どっかの学校でやるってことだな。」
「生命力の充実を考えれば、狙われやすいのは中学か高校。」
「燕真、狗塚、しばらくは、学校周りを中心に市内の巡回を頼むで。」
パソコンの画面に文架市の地図を表示して、学校の位置を確認する。守備範囲が広すぎるが、何もやらないわけにはいかない。