1-4・優麗高校
-県立優麗高校-
文架駅から徒歩で30分ほどの場所・御領町に、その高校はあった。
「おはよ~!」 「昨日、テレビ見た?」 「見た見た、アレでしょ~」
「ユウ高~・・・ファイッ、オー、ファイッ、オー、ファイッ、オー!」
通学してきた生徒達の挨拶や昨日の話題、部活動の朝練の掛け声など、ありふれた日常が行き交っている。
「何処にでもありそうな学校の風景だな。ホントに、妖怪が潜んでいるのか?」
愛車を路肩に駐め、電柱の影から校舎を眺める。さすがに、生徒達が校庭を行き交う状況で、校内に乗り込んで調査はできない。授業が始まって生徒達が教室に閉じ籠もるまで待つ必要がある。夏の暑さと緊張で喉が渇いてきた。長丁場の張り込みに成りそうだから、水分補給をしたい。自動販売機を探す為に周囲を見廻したら、近くに駐車場に車を止めた粉木が寄ってきて、ペットボトルのお茶を差し入れてくれた。
「サンキュー!」
俺は、貰ったお茶を一口飲んで喉を潤す。
「今のところ、変わった様子は無いな。」
「そりゃそうやろ。外から見て変わった様子があれば、大事件になってまうで。
妖怪かて、そないにアホやない。力を蓄えよる時は息を殺して隠れとるわい。」
「だったら、どうやって調べんだよ?」
「簡単なこっちゃ!」
「・・・え!?」
「妖幻ウォッチと和船ベルト・・・持って来ちょるよな!?」
「あ・・・あぁ、もちろん!」
「なら準備万端や。」
20分程度待機をしていたら、生徒達は校舎内に入って校庭が静かになり、チャイムが鳴った。
「さぁ、行くで!」
「何処へ!?」
「学校ん中や!こっちから出向けばええねん!」
「・・・え!?んな無茶苦茶な!不審者扱いされて摘み出されちまうって!!」
「本体がおらん場合はな!そん時はそん時で逃げりゃえぇ!
せやけど、もしいれば、不審者騒ぎどころではなくなるで!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで?」
「ただでさえ、子をオマンに倒されて気が立ってるはずや!
妖幻ウォッチを持ったオマンが本体のテリトリーに入れば、
向こうから、オマンを排除する為に襲ってきてくれるで!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
爺さんの言う理屈が理解できない。しかしベテランの上司が言うからには、間違いは無いのだろう。左腕の妖幻ウォッチ(以後、Yウォッチ)を見詰め、和船ベルトを握り、爺さんの後に続いて正門を通過する。
「準備はえぇか!?来るで!」
「えっ?何が!?俺等を不審人物と判断した先生か!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ァヘェ?」
それまで、何があっても穏やかな表情を崩さなかった爺さんが呆気に取られる。
「・・・・オマン、もしかして気付いてへんの!?」
「・・・何を?」
「‘なに’て・・・オマンが校庭に入った途端に空気がメッチャ変わったやん!?」
「・・・・・・・・クウキ?」
「え!?・・・解らんの?
校舎の何処かから、オマンに向かって、ごっつい殺気が出とるんやけど?」
爺さんが何を言っているのか全く解らない。俺は首を傾げながら校舎を見回す。
「・・・・・・・・殺気?気のせいじゃないのか?」
「・・・アカンがな。なして、閻魔はんは、こない素質の無いの選んだんやろか!?」
「俺、もしかして今、スゲーけなされてる?」
「まぁ、えぇは!言っても、しゃー無いもんな!
なぁ、燕真、えぇか!?学校全体が本体のテリトリーになっとんねん!
そいでもって、オマンの侵入に反応して殺気立っておんねん!!」
「そうなのか!?」
「あぁ、そや!オマンの持ってる妖幻システムを敵と見なして攻撃態勢に入っとる!
直ぐに、子妖等がオマンを潰しに来るで!!」
「え!?マジで!!?何でそんな危ない事を!!?」
「オマンにとっては危険やけど、他ん生徒には、これが一番安全なんや!
本体の意識がオマンだけに向かってくるからな!
既に何人かの生徒は憑かれとるだろうが、皆がオマンを排除する為に動く!
憑かれとらん生徒や先生が襲われる危険は無いちゅうわけや!」
「よく解らないけど、まぁいいか!俺が戦えば全部上手くいくってことだろ!」
「そういうこっちゃ!」
粉木の爺さんが言った通り、闇の渦を背負った虚ろな生徒達がゾロゾロと押し寄せてくる。皆、正気を失った表情をしており、これが‘学校のイベント’ではないことは、俺にも理解できた。
「・・・来た!」
左手首に巻いた腕時計型のアイテム【Yウォッチ】を正面に翳して、『閻』と書かれたメダルを抜き取って指で真上に弾き、右手で受け取ってから、一定のポーズを取りつつ、和船を模したバックルの帆の部分に嵌めこんだ!
「幻装っ!!」
《JAMSHID!!》
電子音声が鳴ると同時にベルトが発光して全身が黒いアンダースーツに包まれる!続けて、和船バックルから幾つもの光が飛び出して、それぞれが、朱色で中華鎧と現代プロテクターを折中したようなヘルメット、肩当て、胸当て、手甲、腰当て、脛当てに変化をして装着をされた!最後に腰ベルトに備え付けられたゴーグルタイプのマスクを、手で掴んで顔を隠す!
妖幻ファイターへの武装化完了!その全身は、閻魔大王をイメージした姿をしている!
やや余談になるが、「こんなゴツい鎧兜がどうやって左腕の時計型アイテムに収納されているの?」とか「質量保存の法則をガン無視してるぞ」的な質問は無しだ。よく解らないが、「Yウォッチが発する妖気が空中にある何らかのエネルギーと結びついて、Yメダルに記憶された形のプロテクターを形成する」らしい。