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1-3・60点と呼ばれた日

-翌日・AM7:30-


 愛車のホンダVFR1200Fを駆って、鎮守の森公園に到着する。愛車とは言っても組織からの支給品だ。全国の妖幻ファイターは、一様にホンダVFR1200Fが宛がわれている。エースクラスやエリートコースならば希望するバイクを支給してもらえるらしいが、地方勤務のド新人にとっては、「自分の好きなバイク」なんて都市伝説のような話。一般支給のホンダVFR1200Fだって、充分にパワーが有って走りやすいので文句は無い・・・と言いたいが文句だらけだ。


 皆、奇行仕様のバイクをジッと眺め、バカでも見るような表情で通り過ぎていく。

 西陣織のカバーのシート&九谷焼のサイドカバーの所為で、ホンダVFR1200Fの格好良さが凄まじく損なわれている。格好悪すぎるので撤去をしようとしたら、粉木から「ダメだ!」と怒られた。このカスタムバイクで町中を走るのは恥ずかしい。

 成功報酬でガッツリ儲けて、支給品ではなく自費でバイクを買いたい・・・そんな心情である。


 恥ずかしい思いまでして、公園で待機する理由は、昨夜の憑かれた女子高生が通学してくるのを待つ為。非常に安直だが、帰宅時に通ったんだから通学でも通るはず。


「ぅわぁ!なに、このバィク!?」


 黄色い声がする。早速と言うべきか?派手な西陣シートと九谷焼サイドカバーが注目を引いているのだ。「どうせバカにしてんだろ?」と思い、聞こえないフリをして、「遊歩道の向こうから昨日の女子高生が歩いてこないか」と待ち続ける。


「すっげ~!西陣織と九谷焼だぁ!!かっこぃぃ~~~!!」


 意外にも、黄色い声の主は、奇行仕様をバカにするのではなく評価をしているようだ。何処がどう格好良いのだろうか?「どんな娘だ?」との好奇心溢れる表情を隠しつつ、声のする方に振り返った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」


 ツインテールで整えられた髪形で、かなりの器量で、小柄の細身。頭の天辺にピョコンと髪の毛が立っているのは寝癖なのだろうか?総じて美形の部類の少女が立っている。


「違う子かな?」


 周囲を見回すが、他に黄色い声を発しそうな人物は居ない。つ~か、その寝癖でツインテールの美少女が、ジッとこちらを見詰めている。間違いなく黄色い声の主はこの娘だ。

 何故、こんな普通(よりも上)の娘が、こんな奇行バイクを高評価するのだろうか?からかっている?


「・・・あの?」

「ん~~~~~~~~~~~バィクは100点、乗ってる人ゎ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・60点・・・・・かなぁ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」


 ちょっと待って欲しい!自慢じゃないが容姿には自信がある!今日だって、鏡で‘イケメンな仕上がり’を確認してから出て来た!100点は言い過ぎだが、万人から80点以上の評価をいただけるはずだ!


「60って、オマエ・・・」


 文句を言いかけたところで、自転車に乗ったボブカットの少女がツインテールの美少女に寄ってきた。


「おはよう、クレハ!」

「ぉはょー、アミ!」

「待ったぁ~?」

「来たばっかりだょ!」


 2人は会話をしながら、自転車に乗って去っていく。俺は言いかけた言葉を飲み込み、「ツインテールの美少女は、ここでボブカット友達と待ち合わせていたんだな」と思いつつ、本来の目的である‘昨日憑かれていた女子高生’を待つ事にした。

 少し離れた所から、ツインテールとボブカットの笑い声が聞こえてくる。横目に視線を向けると、ツインテール少女がこちらを振り返っているのが見える。


「どうしたの?」

「ぅぅん・・・バィクは良ぃんだけど乗ってる人がねぇ~。」

「そうかな?結構、格好良いんじゃない?」

「悪くゎなぃけどバイクが良すぎて似合わなぃ。絶対ぁの人のセンスじゃなぃよ。」


 凄まじい酷評が聞こえてくるので、イラッとしながら聞こえないふりをする。美少女とは言え、奇特なセンスの持ち主に興味は無い。それよりも、憑かれていたボブカットの女子高生を見付けなければ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 チラッとツインテールの後ろ姿を見る。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 もう一度見る。ツインテールの美少女が着ているのは昨日憑かれていた娘と同じブレザー・・・と言うか、ツインテールの隣を歩いているボブカットって昨日の女子高生じゃん!


「なんだこの展開!?」


 ツインテール少女のおかしな評論の所為で、初っ端からペースが乱れてしまった。慌てて西陣シートに跨がり、ヘルメットを被って、2人を追ってバイクを走らせる。

 2人の少女は、ショッピングモールの前を通過して、大きい交差点で横断歩道を渡ってから左折をした。


 文架市は、一級河川・山頭野川が縦断し、両岸に広がる沖積平野を中心に市街地が発展した都市。少女達は、文架駅や市役所や駅前商店街などがある文架市の中心部(川西)に向かう為に、山頭野川に架かる文架大橋を渡る。


 妖怪の本体は彼女達の学校に潜んでいる可能性が高いらしい。彼女達に「最近、学校で変わったことは無いか?」と聞く選択肢もあるが、不審者扱いをされると困るし、何よりも、60点扱いをしやがったツインテールとは話したくない。だから、尾行をして、先ずは「何処の学校か?」を突き止めることにした。


「・・・ん?」


 サイドミラーをチラ見したら、後から見覚えのある車が接近をしてきた。上司・粉木の乗る青いスカイラインGT-Rだ。たまたま後を走っていたとは思えないので、バイクのスピードを調整して、爺さんの車と並走する。


「どうしたんだ、爺さん?」

「オマンこそ、何をやっとるんや?」

「見て解らないのか?

 学校を突き止めるために、妖怪に憑かれていた子を尾行してるんだよ!」

「見て解りすぎるから、皮肉のつもりで聞いてるんや!

 尾行が露骨すぎて、女学生の尻を付け回す不審人物にしか見えんで!」

「離れすぎて見失ったらどうするんだよ!?」

「見失っても問題無いやろ。」

「・・・・・・・・はぁ?」

「おそらくは優麗高校の生徒やな。」

「えっ?ブレザー見ただけで解るのか?ジジイは変態か?」

「アホンダラ!

 この時間帯に、このねきをウロチョロする(登校する)学生は、

 駅西の文架高か、川沿いの優麗高だけ。

 文架高に行くんやったら、橋の南側歩道を通過した方が早い。

 つまり、橋の北側歩道を通るんは優麗高の生徒になるってこっちゃ。

 そんなことも解らんのか?」

「学校の位置関係なんて解んねーよ!

 俺は、文架市に着任して半年も経っていないんだぞ!

 ・・・てか、調査は俺の任務のはずなのに、何で、爺さんが彷徨いているんだよ?

 俺が下手くそな尾行をして、不審者扱いをされる可能性を予想して心配になった

 ・・・なんて言わないだろうな!?」

「マヌケなオマンが、下手くそな尾行をして、不審者扱いをされる思たからや!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 優麗高が何処に在るのか、文架市に住んで4ヶ月しか経過をしていない俺には解らない。だから、引き続き彼女達を尾行したいのだが、上司の注意喚起を喰らったので、不自然では無い距離まで尾行の距離を空けて、彼女達の背中をガン見するのではなく、山頭野川を眺めながらバイクを走らせる。


「見てみい、燕真。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 橋の西詰めまで来たら、同じブレザーの少年少女が北方向に通学をしていた。その流れに乗れば、特定の少女達を尾行しなくても、目的地に辿り着ける。彼女達を見失ったとしても、何の問題も無いのだ。


「当たり前の話やけど、優麗高に通う生徒は、沢山いるっちゅうこっちゃ。」

「ああ・・・うん。」


 西詰め交差点で右折して、彼女達を追い越し、同じブレザーの生徒達が向かう方向にバイクを走らせる。



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