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1-1・朱い妖幻ファイター

 妖幻ファイター。それが‘今の俺’の名。上司から「鎮守の森公園に妖怪が発生したので討伐せよ」との任務を受けて、支給されたバイクで現場に向かっている。


「俺が、妖怪の魔の手から文架市を守るっ!」


 ・・・とは言っても、研修期間を経て、妖幻システムを支給され、本社に栄転をした先輩の後任として今回が初陣。

 幼い頃に特撮番組を見てヒーローに憧れた俺は、朱色のアンダースーツとプロテクターとゴーグルタイプの仮面を装着するのは若干の恥ずかしさはあるが、「正体を隠すために有り」と思っている。和船を模したバックルの付いたベルトも特撮ヒーローの象徴のように思えて悪くないと思っている。

 だが、西陣織のカバーのシート&九谷焼のサイドカバーは格好が悪すぎる。俺の知る特撮ヒーロー達は、もう少しマシな格好のバイクに乗っていたはずだ。いくら正体を隠しているとは言え、見た人から「バカが走っている」と思われそうなので、もう少し普通のバイクに乗りたいのだが、組織から支給されたバイクなので仕方が無い。


「反応が強くなってきた!公園の中か!?」


 センサー尾反応に従い、ハンドルを切って、車止めポールの間を抜け、公園側にバイクで乗り入れる。

ピーピーピー!

 直後に、左手首に装着した腕時計型アイテムから発信音が鳴った。


「・・・ん!?何だよ、こんな時に?」


 バイクを止め、通信機を兼ねた腕時計型アイテムを顔に近付ける。


「どうしたんだ、粉木の爺さん?」

〈どうしたやないやろ!オマン、バイクに乗ったまま公園に入ったやろ!?

 こっちの発信器で解ってんで!〉

「・・・それがなんだ!?」

〈アカン!その公園は車輌乗り入れ禁止や!〉

「ハァ!?今、それ言う!?こっちは急いでんだよ!」

〈急いでてもアカ~ン!公園の外にバイク止めて走って行きや!

 入り口付近は駐停車禁止やから、ちゃ~んと駐車場に止めや!!

 ・・・でないと駐禁取られんで!〉


 鎮守の森公園に面する公園通りの対面には、大型ショッピングモール・リバーサイド鎮守がある。粉木の爺さんは「その駐車場にバイクを駐めろ」と言っているのだ。


「今はそれどころではないだろ!!文句があるなら後から聞くからさぁ!」

〈文句があるなら、『次回からは道路沿いで襲ってくれ』って妖怪に言いうか、

 オマンが市長になって規則を変えや!〉

「・・・・・・・・・・・・・・・・・解ったよ!メンドクセェ~なぁ!」


 大きく溜息をついてから、バイクを歩道の端に駐め、走って公園の中央へと向かう。見た目は、ゴテゴテとしたプロテクターが重くて走りにくそうだが、体感的にはそうでもない。技術面については詳しくは解らないが、アンダースーツが運動能力の補助をしてくれているらしい。



-鎮守の森公園内-


「ん?あれか?」


 腕時計型アイテムから発せられる反応が強くなる。目視で、頭の悪そうな2人の男と、か弱い女子高生が見える。


「妖怪に憑かれた野郎共から、女の子を助ければ良いんだな!」


 ヒーロー物の‘お約束パターン’だ。幼い頃に見た特撮番組で、こんな展開は頻繁だった。・・・が、本当に男達は妖怪に憑かれているのだろうか?「実は3人は友達」とか「ただのナンパ」だったら、プロテクター姿で割って入る俺は、彼等から「痛い人」もしくは「変質者」と判断されて警察に通報されてしまう。

 初陣で、いきなり変態扱いをされて捕まりたくないので、20mほど離れた大木の影に隠れて、様子を見ることにした。



「な、なんですか?通して下さい!」

「な~んで逃げちゃうの?」 「ボク達、傷付いちゃったなぁ~~!」

「いいから通して下さい!」

「良いよ!でも代わりに今から飲みに行こうよ!」

「・・・・・・うぅぅ」

「変な事しないからさぁ~!にっひっひっひ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・お!?反論無し?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「遊んでくれんの?」

「今日は2人だけ・・・ですか?」

「ん!?」

「今日はアナタ達2人だけ・・・ですか?」

「おぉ!遊んでくれんの!?」

「なになに!?もっと呼んだ方が良いの?」


 隠れて様子を見ながら戸惑ってしまった。女子高生は‘まんざらでも無い反応’をしている。ナンパ成功ってことなのだろうか?妖怪絡みとは全く関係の無い‘ただのナンパ風景’を覗き見しているだけ?だったら、妖怪事件は何処で発生をしている?


「いえ・・・そうではなくて・・・。」

「だったらなに?」

「遊んでくれるんじゃないの?」

「噂では、普段はもっと集まっているって聞いていたので・・・。」

「え!?なになに?もしかして、俺達に会うのが目的で此処に来たの?」

「・・・・・・はい」

「な~んだよ!それならそうと最初っから言ってよ!何か用なの?」

「だったらなんで逃げたの!?」


 女子高生は俯き加減で、先程までに比べて眼は虚ろで顔色は青白い。女子高生の背中がモゾモゾと動き、漆黒の歪みが発生する。


メリッ・・・メリッ・・・メリッメリッ・・・

「おぉ・・おぉぉ・・・」


 俺は、拍子抜け気味に様子を見守っていた(覗き見していた)が、「やはり、此処が妖怪の発生現場」と判断した。


「おぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」


メリッメリッメリッメリッ・・・ズバァァッ!!

 女子高生の背中にある漆黒の歪みから、毛の生えた8本の醜い虫の足のような物が出現!口から糸のような物を吐き出して、若い男達を絡め取る!


「ひぃ・・・ひぃやぁぁぁっっっっ!!!」

「ば、化け物だぁぁっっ!!!」

「残念・・・2人しかおらんのか!!アテが外れたワァァ!!

 マァ良い・・・満腹には足りぬが・・・オヌシ等2人・・・ワシの贄にしてくれる!!」


 女子高生は、虚ろな表情のまま、背中から生えた8本の足を動かしながら、太い糸で自由を奪われた2人の若い男に近付く!


「おいおい・・・逆かよ!?」


 ヒーロー物の‘お約束パターン’じゃなかった。妖怪に憑かれた野郎共を成敗して、か弱い女子を助ける展開を期待していたのに、妖怪に憑かれているのは女子高生で、バカっぽい野郎共が被害者だった。戸惑いつつ、左腕の腕時計型通信機に向かって話し掛ける。


「なぁ、粉木ジジイ!」

〈だぁ~れぇ~がぁ~子泣き爺じゃ~~~〉

「いたぜ、蜘蛛かなにかに憑かれた女の子がバカ共を襲っている!

 こりゃ、完全に正気を失ってるな!

 どっちかっつ~と、女子を応援したいだけど、それでもバカな野郎共を助けなきゃダメか!?」

〈当たり前じゃ!ボケェ!!〉

「・・・ま、当たり前か!・・・解ったよ!」

〈怪我さすなよ!〉

「解ってるよ!」


 俺は、片手の拳をもう一方の手の平に当てて打ち鳴らして気合いを入れ直し、腰ベルトに帯刀したある木笏(聖徳太子が持っている木の札みたいなヤツ)=裁笏ヤマをナイフを持つように握り、身を乗り出して構えた!

 8本足を背負った女子高生が、俺の存在に気付いて睨み付ける。元は可愛らしい容姿なんだろうけど、その表情は青白くくすんで不気味。「彼女が妖怪に憑かれている」で決定だ。


「オヌシも妖怪か!?・・・コレは我のエサだ・・・誰にも渡さぬゾ!」

「んなもん、くれるって言われたっていらね~よ!」


 女子高生は見た目に似つかわしくない不気味な雄叫びを上げながら、背中から生やした8本足を振り回して突進してきた!

 裁笏ヤマ(木笏)に手の平を当てて呪文を唱える!裁笏ヤマ(木笏)は光を帯びた!


「はぁぁっっ!!」


 8本足のうち、最初に襲ってきた2本を裁笏ヤマの刀身で払いつつ、すれ違いながら背中にある足3本を切断!斬られた足は地面に落ちると、まるで闇に溶け込むようにして消滅した!少女は低い唸り声を上げるながら仰け反る!俺は、その隙を突いて、女性の背中にある足の中心部に裁笏ヤマ(木笏)の腹(平らな部分)を叩き込んだ!


「Ω(オーン)・退散!!」

「おぉぉ・・・おぉぉぉぉぉっっっっ!!!」


 邪気祓いの呪文に反応して少女が低くて苦しそうな唸り声を上げた後、憑いていた巨大蜘蛛が背中から飛び出した!


「さぁ、仕上げだ!!」


 左手首の腕時計型アイテムから何も模様の無いメダルを取り出して、指で頭上に弾いてから手の平で掴み、裁笏ヤマ(木笏)の握り部分に空いている穴にセット!素早く踏み込んで、巨大蜘蛛を切り裂いた!


「Ω(オーン)・封印!!」

「おぉぉ・・・おぉぉぉぉぉっっっっ!!!」


 蜘蛛は闇のような渦を巻きながら、裁笏ヤマ(木笏)に吸い込まれて消え、握り部分にセットしてあるメダルが変色して、あたりは静寂を取り戻す!


「ふぅ・・・完了!楽勝だな!!」


 少女は憑き物が取れた表情を取り戻して意識を失っている。


「・・・ん?」


 餌にされかけた若者2人は、涙眼になりながら呆然と眺めていた。彼等に巻き付いていた太い糸は、蜘蛛の消滅に伴って跡形もなく消えている。


「あ・・・まだ完了してなかった。」


 一応、俺は‘バカ共の命の恩人’になるんだろうけど、こんな奴等に感謝されても嬉しくない。むしろ、何の罰も与えられないのは不満だ。だから、命を助けてやったかわりに、力を加減したデコピンを叩き込んだ。


「運良く女の子の方が憑かれていたおかげで、女の子は大事には至らなかったし、

 今回は仕方なく助けたけどよぉ、2度と女の子を怖がらせるような事はすんな!!

 次にやったら、オメー等が食われるのを待ってから妖怪を成敗すっからな!!」

「は・・・はひぃ・・・」 「ごめんなさぁ~~~い」


 泣きべそをかきながら走り去っていく若者達を見送り、意識を失っている女性をベンチに寝かせ、公園から立ち去る。



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