プロローグ
科学が未発達だった時代、人間の理解を超える奇怪で異常な現象や、あるいはそれらを起こす不可思議な力を持つ非日常的な存在を‘妖怪’と呼び、時には恐れ、時には敬っていた。
時は進み21世紀・・・科学が発達した現代においては、妖怪の存在は実証はされていない・・・はずだった。
しかし奴等は現代文明の影に隠れ、その痕跡を残さないようにして、人知れず何処にでも存在をしている・・・。
-文架市・鎮守町-
文架市の川東にあるこの町は、戦災復興で拓け、近年の開発で周辺が発展した地区。
昼間は、公園や河川敷は子供達の声で賑わい、大型ショッピングモールに出入りする車が行き交う活気に溢れた町だが、夜9時になれば人通りや車通りがめっきりと少なくなる。
町の一角には、大きな公園(鎮守の森公園)があり、その公園の中心には開発から取り残された古びた神社=亜弥賀神社が在る。昼間は、その場所に在る事に「誰からも気付かれない」かのようにひっそりと建っているのだが、夜になり町を静寂が包むと、その神聖さと不気味さを発揮しているかのような錯覚を感じる不思議な神社である。その所為なのか、昼間は多くの人々の憩いの場として賑わうこの公園は、夜になると近道に使う以外の人は殆どいない。
その日の夜も、いつもの様に、その場の雰囲気はピィンと張り詰めていた。
塾かバイトからの帰宅中なのだろうか?ボブカットの女子高生が、公園内の遊歩道を足早に歩いている。防犯上の観点から、いくつもの照明灯が建ち、遊歩道を明るく照らしているのだが、それでも夜になると空気が変わるこの公園を通過するのは、あまり気持ちの良い物ではない。
長い遊歩道を7割程度進んだところで女子高生が顔をしかめて足を止めた。照明灯に照らされたベンチに座って缶ビールを飲みながら騒ぐ2人の若い男が眼に入ったのだ。
係わりたくない連中だ。遠回りになるが仕方がない。今来た道を戻って、公園を迂回しよう。そう考えた女子高生は踵を返して足早に歩き始めた。
しかし、若者達は見逃す気は無い。ニタニタと笑いながらベンチから立ち上がり、遠ざかっていく女子高生に声を掛けながら追い始めた。
「にゃっはっは!ねぇ、お嬢ちゃん!こっち通んじゃねぇの!?」
「遠慮しないで、こっちにおいでよ!」
「別に襲ったりしないから安心しなよ!」
「そっちに戻るなら、ついでに一緒に遊びに行こうよ!」
女子高生に追い着いた2人の若い男達は、薄ら笑いを浮かべながら寄ってくる。
-公園に面した大通り-
殆ど車通りが無くなった公道を一台のバイクが爆走する!
西陣織のカバーを貼ったシート&彼岸花を描いた九谷焼のサイドカバーでカスタマイズされた異質なバイク。だが、操縦者はバイク以上に異形である。黒いアンダースーツ、胸&腰&脛には日本系と中国系の鎧を足して2で割った様な朱色のプロテクター、腰回りに和船を模したバックルの付いたベルト、ゴーグルタイプの仮面の下で輝く赤くて大きな複眼・・・まるでテレビで見た閻魔大王をイメージしたような出で立ちである。
「反応が強くなってきた!公園の中か!?」
朱色の異形は、ハンドルを公園側に切り、車止めポールの間を器用に抜けながらバイクで乗り入れる!