2-6・マシンOBORO
-陽快町3丁目○番地付近-
片側交互通行の処置がされ、古屋解体の段取りをしている工事現場の手前でバイクを停める。通行人や工事関係者が逃げ惑い、既に朱色の妖幻ファイターが戦っていた。
「・・・あれっ?」
文架市には俺以外には妖幻ファイターが存在しないはず。しばらく眺めて、小柄でへっぴり腰の妖幻ファイターが何者なのか、直ぐに解った。
「・・・あのバカ。」
戦っているのは、両手が鎌の獣。小柄な妖幻ファイターはパンチを繰り出すが、まるで腰が入っていないのでアッサリと回避され、反撃を喰らって弾き飛ばされ、悲鳴を上げながら無様に地面を転がる!
見かねた俺は、バイクを急発進させて鎌の獣にバイクアタックをして弾き飛ばしつつ、小柄な妖幻ファイターの目の前でバイクを止め、ヘルメットを脱ぎながら手を差し出した!
「オマエ、紅葉だよな!?何だよ、オマエが持ち出していたのかよ?」
「・・・燕真」
「あとは俺がやる!ソイツをよこせ!」
「ぅ・・・ぅん!」
変身を解除した紅葉がYウォッチと和船ベルトを差し出した。受け取りつつ紅葉の顔を覗き込むと、口をへの字にしていて、その表情には元気が無い。
「・・・ぉこらなぃのぉ?」
「・・・・ん?」
「変身するヤツ、パクッた事」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
生意気なだけの小娘かと思ったが、案外素直なところが有るようだ。
「・・・それか~」
シッカリと怒ってスッキリさせた方が正解なのかもしれない。しかし、説教なんてした事が無いので、どう怒れば正解なのか、よく解らない。だから、数秒ほど考え、バイクから降りて紅葉の目線までしゃがみ、その額にデコピンをした。
「ィタッ!」
反射的に額を抑えながら、ようやく紅葉が顔を上げて視線を合わせる。
「悪ぃ、紅葉・・・どう怒ったら、一番スッキリする?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ぇ?」
「俺にはさ、強くなりたいってオマエの気持ち、理解出来るんだよな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「メダル1つでスーパーヒーローになれりゃ、誰だって試したいよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅん」
「その力で悪い事すんなら許せないけど、オマエは妖怪と戦おうとしてた。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・燕真。」
「だからさ、今んとこ、怒る理由が思い付かないんだ!
まぁ、失敗を懲りずに、また持ち出したり、
無茶ばかりしたら、今度は怒鳴るだろうけどな!」
紅葉は、何度も頷き、次第にいつもの表情を取り戻していく。
「ありがとう、燕真!」
「おうっ!」
これで、妖幻システムを持ち出された件はリセット。
気持ちを切り替え、腰に廻し、『閻』と書かれたメダルを、和船バックルの帆の部分に嵌めこんだ!
「幻装っ!!」
光に包まれて武装化完了!妖幻システムが過去データを照合して、両手が鎌の獣=カマイタチと教えてくれる。
「下級妖怪、動きが素早い、真空波を飛ばす・・・か。」
妖怪の種類や習性が解っても、効果的な対処方法なんて思い付かない。だけど、飛び道具(真空波)には気を付けた方が良さそうだ。
片手の拳をもう一方の手の平に当てて打ち鳴らして気合いを入れ、カマイタチに向かっていく!
「燕真っ!うしろっ!!」
紅葉の声を聞いて振り返ったら、後から‘背中から鎌付きの手を生やした男’が突進をしてきた!
「子妖か!」
一歩退いて足払いを掛けて転倒させ、背中を押さえ付けて地面に押し付ける!
「・・・直ぐに祓ってやるから、おとなしくしてろ!!」
腰ベルトに装備された裁笏ヤマ(木製ナイフ)を装備して、男の背中に叩き込んで闇祓いをする!憑かれていた男は意識を失ったまま穏やかな表情を取り戻した!
「うぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!」
安心したのも束の間、もう一匹の‘鎌を生やした男’が飛び掛かってきた!素早く立ち上がって力任せに組み、前回りさばきで相手の懐に踏み込んで、肩越しに背負って地面に叩き付け、裁笏を当てて子妖を祓う!
その間に、本体は古屋の屋根に上っていた!
「急に割り込んで来て邪魔をするな、若僧!!何も解らないクセにっ!!」
カマイタチが腕を振り上げ、嘶きながら振り下ろした!渦を巻いた平たい気流が飛んでくる!
「真空波ってヤツか!?」
回避をしたら、真後ろには紅葉に着弾してしまうので、相殺するしか無い!抜群の格闘センスと集中力により、真空波が着弾するタイミングを狙って、握っていた裁笏ヤマを振るって威力を・・・なんて格好良いことは出来るわけもなく、空気のカッターは見事に直撃!火花を散らせて吹っ飛ばされ、地面を転がる!
「・・・イッテェ~・・・やっぱ、風に対して剣を振っても、防げるわけないか!?
勢いで、何となく相殺出来そうな気がしたけど、全然無理だった!!」
先程と同じように、渦を巻いた歪んだ空気が、カマイタチの両腕に集中していく!直撃を喰らって解ったが、人や物だらけの町中で回避をするのは拙い!回避をしてしまったら、法線上の何かが両断されてしまう!
「クソッ!俺が我慢して喰らうしかないかっ!!」
2発目が飛んで来て着弾!頑丈なプロテクターとアンダースーツのお陰で死なずに済むが、滅茶苦茶痛い。いつまでも盾になっていたら、体力が保たない。
「素早い妖怪らしいから、屋根によじ登っても、奴に接近をする前に距離を空けられてしまうだろうな。」
Yウォッチから『朧』と書かれたメダルを引き抜いて見つめた。愛車・ホンダVFR1200Fが悪趣味なカスタムをされているのは理由がある。
「・・・試してみる。」
『朧』メダルを、Yウォッチの空きスロットに装填!直上の時空が歪んで、不気味で大きな顔のある牛車の妖怪が出現して、ホンダVFR1200Fに取り憑いた!カウルに朧車の顔が、エネルギータンクに背骨と肋骨が出現をして、意志を持って自動走行をして寄ってきた!
超格好悪いと思っているのに西陣シート&九谷焼サイドカバーを外せない理由。それは、バイクに妖怪を憑ける為なのだ。・・・ただし、西陣シート&九谷焼サイドカバーに拘る理由は解らない。単に、粉木ジジイの趣味なのかもしれない。だが、俺には西陣シート&九谷焼サイドカバーを代用できる‘妖怪が憑きやすいカスタム’をできないので、悪趣味な仕様のまま使い続けるしかない。
「頼むぜ、OBORO!」
朧フェイスを撫で、マシンOBOROに跨がってハンドルを握り、クラッチを切ったままアクセルを噴かす!
「先ずは、此処から一番に近い妖力の歪を探してくれ!
次にアイツが風を発射したタイミングで仕掛ける!
出現ポイントは、カマイタチに一番近い歪みだ!」
〈オボォロォ~~~~~~~~!!〉
朧フェイスは眼を見開き、カマイタチの攻撃によって周辺に停滞する妖気の中から、妖気が強い場所を探す!俺は、Yウォッチから『炎』と書かれたメダルを抜き取って握り締めた!
「ウォォ~~~~~~~~~~~~~~~~~ン!!!」
再び、カマイタチの両鎌の周辺が、高密度の空気で歪む!真空波が俺に向かって飛んで来た!
「風が来た!!準備は良いな、OBORO!!」
〈オボォロォ~~~~~~~~!!〉
初めて使う技なので「上手く行くのか?」と不安はある。だが、マシンOBOROを信じて、ローギアでアクセルを強く捻り急発進させる!進行方向に歪みが出現!そのままOBOROを走らせて飛び込む!次の瞬間、俺とマシンOBOROは、カマイタチが放った空気のカッターの真後ろにワープをしていた!
「カマイタチに最も近い妖気の歪み・・・それは、オマエ自身が放った風だ!!」
ワームホールを発生させて空間を飛び越える!それが、マシンOBOROのスキル!「失敗しないか?」と不安はあったが、粉木ジジイに教えられた通りに上手くできた!
先程準備した『炎』メダルを、ハンドルにあるスロットルに装填!マシンOBOROのタイヤが灼熱の炎を纏う!
「オォォォォォォォォッッッッ!!!」
炎を発したマシンOBOROが、屋根上のカマイタチにフライングボディープレスを叩き込んだ!
「ウォォ~~~~~~~~~~~~~~~~~ン!!!」
カマイタチは炎に巻かれて弾き飛ばされ、地面を転がる!