2-4・小魚顔ってなんだ?
-AM10時-
背中にYOUKAIミュージアムと書かれた館内係員用のオレンジ色のジャケットを着て、駐車場入り口のゲートを開き、建物出入り口の施錠とカーテンを開け、受付カウンターに入って待機をする。もちろん、朝一から見学に来るような奇特な客は1人もいない。
「燕真~。」
入り口脇にあるトイレに籠もっていた紅葉がヒョッコリと顔を覗かせる。暇を持て余しているので、遊び半分で博物館の仕事を手伝う事になり、トイレの中で、急きょ支給された仕事着に着替えていたのだ。展示フロアに出て来た紅葉は、巫女さんの衣装で身を包んでいる。
あえてジジイに「何故、巫女さんの衣装があるのか?」とのツッコミは入れない。・・・というか、ツッコミを入れる事すら忘れてしまう。美少女、着る物選ばず。とてもよく似合っていて可愛らしい。
「巫女さんと言えばこれだよね!?」
「・・・はぁ?」
アニメかゲームの影響のだろうか?紅葉は、屈託のない笑顔を見せながら、駐車場で威勢の良い掛け声を上げて、ホウキを振り回している。「天は2物を与えず」とは良く言ったものだ。黙って座っていれば最高なのに、奔放に暴れ回るせいで全てが台無し。頼むから、愛車(ホンダVFR1200F)を仮想敵に見立てて戦うのだけは勘弁してくれ。
-AM11時過ぎ-
ピーピーピー!!!
安穏とした平穏は、突如、崩れた!事務室に備え付けられていた警報機が、妖怪の出現を知らせる緊急発信音を鳴らす!
文架市内には、妖気に反応してミュージアムの警報機を鳴らすセンサーが、数十カ所ほど取り付けてあるのだ。
「出現場所は、文架大橋の東詰や!!」
「了解!」
係員用ジャケットを脱ぎ捨てて、急いでホンダVFR1200Fに跨がる!タンデムには、巫女姿の紅葉が、「待ってました!」と言わんばかりに飛び乗った!
「ぃくょ、燕真!」
「おう!飛ばすから振り落とされるなよ!・・・・・・・・・・・・・・・?」
「レッツゴォ~!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
さも当然のように相乗りをするこの小娘は、一体何様のつもりなのだろうか?
溜息をつきながら愛車から降りて、後ろに回り、タンデムに跨がっていたクソガキの両脇腹を握って、抱き上げて地面に降ろし、再びバイクに跨がって発進をした!
「こらぁ~~~!バカァ~~!!何でァタシを置ぃて行くンだぁ~~~!!」
サイドミラーで確認すると、置いてけぼりを食った紅葉は、怒りながらプンプンと腕を振り回している!
「霊感ゼロ!!0点!!ねずみ男!!小魚顔!!
猫に食ゎれて死んでしまぇ~~っっ!!」
「霊感ゼロ」は受け入れるとしても、「ねずみ男」と「小魚顔」ってなんだ!?どんな顔なんだ!?紅葉が言い放った暴言が気になって仕方がないが、目的地に意識を集中させる!
-上鎮守町・文架大橋東詰-
パトカーや消防車が道を塞いで、事故処理や、慌ただしい消火活動が行われている。事故現場には入れない為、規制線の内側で上がってる炎と煙をしか見えない。
「突然、大型ダンプトラックが炎を上げて、中央分離帯に突っ込んだらしい。
救出活動を行おうとしたが運転手はいなくて、今も行方不明のままらしい。
なぁ、爺さんこれって、妖怪の仕業だよな?」
Yウォッチで粉木の爺さんに報告をしたら、「戻ってこい」との指示が出た。俺が出動した直後に、センサーの妖怪反応も消えてしまったらしく、「もはやこの場に残っていても意味が無い」との事だ。