2-1・押しかけてきた少女
-陽快町・YOUKAIミュージアム-
俺は事務室のソファーに腰を下ろして、絡新婦事件を思い返しながら査定結果を待っていた。少し離れた事務机で粉木がパソコンのキーボードを叩きながら‘今回の出動の精算’処理を行っている。
「そう言えば、絡新婦の依り代ってなんだったんだ?」
妖怪は依り代に憑いて実体化をする。妖怪を倒すだけでは、妖怪が寄りやすい状況が継続されてしまう為に、直ぐに次の妖怪が発生してしまう。つまり、依り代を解消させなけれ任務は終わらないのだ。
「絡新婦を倒して直ぐに撤収しちゃったから、突き止める余裕が無かったな。
また、調査に行かなきゃならないのか?」
「ワシを誰や思てるんや?依り代なら、突き止めたで。」
優麗高の周辺は古戦場で、校庭には小さな慰霊碑がある。だが、誰かの悪戯、もしくは事故で、倒れてしまい、鎮魂されていた霊が活性化して、妖怪が憑いたらしい。
「慰霊碑を元に戻してお祓いをしたから、もう大丈夫や。」
「へぇ・・・いつの間に?」
「オマンがおさげの女子高生とチチクリ合うてる時や。」
「チチクリあってねーよ!」
つまり、絡新婦事件は完全に解決したってことだ。これなら、ボーナス20円ってことはないだろう。万単位を期待する。
「マイナス査定は、女子生徒を助ける為に窓ガラスを突き破った分。」
「緊急事態だったからな。それくらいは受け入れるよ。」
「それから、生徒数人をモップでしばいて歯折ったり鼻の骨を折った分。」
「え!!!?・・・モップ!?それって俺じゃなくて、あの小娘が勝手に」
「アカ~ン・・・オマンの監督不行届や!」
「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
「まぁ、それでも、プラス査定の方が多いはずや。」
ピロリロリィ~~ン♪ピロリロリィ~~ン♪
博物館入場時に反応するチャイム音が鳴る。誰か見学客が来たようだ。こんな平日の昼間に誰だろう?休日ならば看板に騙された市外の客が訪れる事はあるが、YOUKAIミュージアムがただの趣味の陳列と知れ渡っている為、市内に在住の客が来る事は有り得ない。時計の針は14:00を示している。近所の小学生達が妖怪関連の玩具目当てに集まる時間には、まだ早すぎる。
「誰だ、こんな時間に?」
「燕真、行って入館料もろて来い」
「あぁ・・・うん。」
入館料は大人300円・子供150円。決して高くはないが、俺には「この展示内容で300円はボッタクリ」としか思えない。
「いらっしゃいませ、見学ですか?何名様でしょう?」
客が気の毒と思いつつも、精一杯の笑顔を作って受け付けカウンターに入り客を見た。ブレザーを着て、前髪がピョンと立ったツインテールの可愛らしい美少女が、こちらをジッと見詰めている。
「・・・・・・ぁ!やっぱりココに居た、60点!」
「げっ!・・・・モップ女!」
「ねぇねぇ、さっきの変な鎧のヤツさぁ・・・」
「わぁぁぁっっっっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
「ぇぇ?・・・ちょっと、なに!?」
慌てて少女の肩を掴んで博物館の外に押し戻し、出入り口を施錠してカーテンを閉めた!60点扱いしたり、モップを振り回して思いっきりマイナス査定を入れてくれた少女となんて絡みたくない!
「ぉ~~~ぃ!開っけろぉ~~~~~!!」
出入り口の向こう側では、少女がバンバンとドアを叩いている!背中でドアを押さえ、ガンガンと響く振動を受けながら叫んだ!
「スミマセ~~ン・・・今日は閉館で~~~~すっっ!!」
粉木の爺さんが事務室から顔を出して、呆れ顔で覗いている。
「いきなり正体バレて、アジト突き止められて・・・
こりゃ、でっかいマイナス査定つくやろな。」
「えっっっっっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~マジかよぉぉぉ!!!?」
証拠隠滅失敗。俺は脱力をして崩れ落ちた。