6話
全7話中6話目です。
「はー、終わりましたね。皆様、ご協力ありがとうございました」
頭を下げた本物のメッツェンに使用人たちから、謝罪の言葉が届く。
一人一人に仕事を勤め上げてくれたことと、ずっとメッツェンを慮ってくれたことに対して、労いの言葉を返していった。
メイド服のままのメッツェンと、メッツェンのドレスを着ている侍女三人は主室に戻り、互いに着替えを手伝う。
「本当にあの人は、メッツェン様を見ていなかったのですね」
「毎回入れ替わっていたことも、気づいていなかったのでしょうね」
「同じ女を連れてきていたら、気づかれたかもしれないわ」
三人は顔を見合わせて、長いため息をつく。
「結果良ければ全て良し!よ。皆ずっと頑張って来てくれてありがとう。過去は過去。これからのことを一緒に考えたいの」
メッツェンは朗らかに三人に声を掛けた。
食堂にて、書類に三名が署名を行い、メッツェンの婚姻は白い結婚として無効になった。
明日、王都にて手続きが行われて、正式にメッツェンは自由の身となる。
書類は前伯爵が責任を持って提出するとして、本邸には帰宅せず王都のホテルに泊まるのだという。
妻の療養に合わせて、親友の領地の別荘にいた伯爵は、自分の息子が結婚したことは把握していた。
義母の療養を最優先にして欲しいと嫁が言っているとの言葉を信じて、略式での結婚を了承したが、回復した妻と共に伯爵家に到着した今日、息子の現状を伝えるスティーブンとメッツェンからの手紙で知ったのだった。
メッツェンが侍女を本人そっくりに仕立て上げ、息子には誰が本人かを選ばせることで、メッツェンのささやかな復讐を果たし、白い結婚での離婚としたいとの我が儘を、スティーブンからの願いもあって、義父は悪ノリしたのだ。
食堂の一件も、スティーブンから目印を教えてもらったため、メッツェンを使用人の並びから見つけられている。
同じ学院の同じ年の卒業生であるメッツェンの容姿すら忘れている息子に、全力で説教をかまそうとした前伯爵をメッツェンが引き留め、交渉した結果、慰謝料はたっぷりと支払われる予定だ。
使用人も引き抜いてくれていいし、この別邸もメッツェンの物となる提案まで受けたが、メッツェンは慰謝料だけ受け取ることで譲らなかった。
「私がここに居れば、逆恨みに遭うかも知れませんから」
「あー・・・」
三人の侍女は納得する。
「そういえば、この国では愛人がいる貴族の夫婦は多いと聞きます。なぜあんなにも前当主様はお怒りになったのでしょう?」
「この家では今までに愛人を持った人がいなかったことと、それを前提として領民を人質のように支援を持ちかけたことが許せなかったようです」
「なるほど」
「ですので、私も犠牲になるような結婚をするなとお叱りを受けました」
「正論ですね」
メッツェンは眉尻を下げて曖昧に笑うだけで、何も言わなかった。
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