5話
全7話中5話目です。
メッツェンとスティーブンの秘密の茶会から一ヶ月。
夫婦の晩餐はバブコック前伯爵をお迎えすることとなったため、晩餐会となり屋敷中が朝からバタバタしていた。
「このお花はやっぱり玄関の方が良いわ」
「じゃぁ花瓶を交換しないと行けないわね」
「スティーブンさん、カトラリーの確認をお願いします」
「誰だ、窓に拭き残しがあるぞー」
「はーい、ただいま!」
賑やかだが和やかな雰囲気で準備が進められる様子を、主室での準備をしながら聞くメッツェン。
体をピカピカに磨き上げるためのオイルで、部屋は良い香りに包まれている。
「とうとうこの日が来たのですね」
「無事離婚になっても私たちはメッツェン様と共に、どこまで行きますから、置いていかないでください」
「私なら護衛にもなりますので、他の二人よりもお役に立てるかと思います」
「皆、ありがとう。ひとまず、今日を乗り切りましょう」
今日はいつもと違って多くの飾りはつけずに、朝に決めておいた通りのドレスに袖を通す。
晩餐の予定時刻よりだいぶ前に、一台の馬車が屋敷の前に停まる。
中からは憮然としたバブコック伯爵と、機嫌の悪そうな前伯爵が降りてきた。
「お帰りなさいませ」
使用人一同が出迎えるが、メッツェンの姿はない。
怪訝そうに眉を顰める前伯爵はスティーブンに問う。
「うちの嫁はどこだ?」
「申し訳ございません、少々準備に手間取っておりました。普段通りご主人様が到着される頃には食堂に参ります」
「ふん。なるほど、噂通りの冷遇だな」
「そんなことは・・・」
反論しようとした伯爵に、父は睨みを利かせて黙らせる。
「ご到着されました」
スティーブンは食堂の中に声を掛け、前当主と伯爵が入れば、紺色の髪を結い上げ紺色のドレスでカーテシーをする女が一人いた。
「やあ、君がうちの息子の嫁のメッツェンだね?」
俯く女は小さく首を横に振る。
結われた髪の赤い飾りと襟元の赤い飾りが小さく揺れている。
疑問符を頭に浮かべ、どういうことかとスティーブンを見遣る前当主は、背後に同じ姿の女が二人いることに目を見開く。
「どういうことだ?お前達は誰だ?」
伯爵も驚愕のあまり言葉が出ない。
紺色の髪に紺色のドレスを着た三人が横に並び、一糸乱れぬカーテシーを見せる。
左は先ほどの赤い襟元、中央は青色の髪飾りと襟元、右は緑色の髪飾りと襟元の違いはあるが、三つ子かのように全く同じ見目をしていた。
初対面の前伯爵には本物のメッツェンが誰なのかが分らず、息子に問う。
「おい、この中の誰がメッツェンなんだ?紹介しろ!」
「えっ・・・しっ、知りませんよ!こんな地味な女、都合が良いから結婚してやっただけで、興味はないんですから。おい、馬鹿な真似はよせ。父上の前だぞっ!」
「馬鹿はお前だ」
地の底から湧き上がるような声が響いた。
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