3話
全7話中3話目です。
「ようこそいらっしゃいました、ウィスカー先生」
「・・・お久しぶりです、メッツェンさん」
約束通りの時間に、メッツェンの淑女教育を担うウィスカー女史が屋敷を訪れた。
丁寧なカーテシー、部屋までの移動の所作、他の者への指示の出し方などを実地試験としており、応接室に入って両者が座るまで、メッツェンも侍女たちも生きた心地がしない。
「今回は、・・・合格です。ですが、落ち着こうと集中するあまりお客様への視線が少なくなっていました。以降気をつけるようにしてください」
「ご教授ありがとうごんじます」
緊張がほどけるような感覚に、ほっとするメッツェン。
先ほどまでの険しい眼光から、ゆるっとした雰囲気を醸し出すウィスカー。
けれども、それだけでは終わらないのが『淑女教育』なのだ。
「さて、次は刺繍を確認します」
「はい、今回はハンカチに季節の花々を描いてみました」
「これは、実用のハンカチではなく、飾るためのものですね」
「はい」
じっくりと隅々まで確認するウィスカーの姿に、またしても緊張し始める四人。
合格を貰いつつ、糸の色選びの指導などを受けるのであった。
「大変勉強になりました。ありがとうございました」
「では二週間後の同じ曜日、同じ時間に参ります」
基本的な貴族令嬢の学びであれば、バブコック伯爵と同じ学院の期間に履修を終えているメッツェンにとっても、ウィスカーの教育は毎回新鮮な学びを与えてくれるものであり、今のところ結婚する予定がない貴族令嬢である侍女三人にとっても大いに学びとなる。
義務的にやってくる晩餐の時間の準備をしながらも、四人は主従の関係を越えて先ほどの学びを共有しあう。
「何度受けても実地試験は緊張するし、刺繍の腕は上達しているのか分らないわ」
「もう少し大きな刺繍も挑戦してみましょうか?」
「今度は方向性を変えて、小さなものに細かな刺繍をしてみるのはどうでしょう?」
「二週間後が楽しみですね」
賑やかだけれど、仕事の手を緩めない侍女であるため、メッツェンは安心して晩餐の準備を任せるのであった。
最後の仕上げを終えたところで、スティーブンよりまもなくの到着であることを告げられた。
「スティーブンも皆も流石のタイミングで仕事を仕上げてくるわよね」
「もったいなきお言葉」
「ありがとうございます」
「では、参りましょうか」
五人は玄関で屋敷の主人たちを迎えるために、歩き出す。
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