2話
全7話中2話目です。
「今日の朝食もとても美味しかったわ。ありがとうと伝えて頂戴」
「伝えます」
「今日も晩餐の時間まではいつも通りに過ごすので、何かあれば声を掛けてください」
「畏まりました」
メッツェンはスティーブンに声をかけ、朝食の席から退室する。
王都では珍しい紺色の長髪は身支度の予定通り、緩やかに編まれて、黄色のリボンで纏められている。
彼女のクローゼットには髪色と同じ紺色のドレスが詰め込まれており、白い襟に入った刺繍の色で「○色のドレス」と区分けをされる。
黄色の刺繍、黄色のリボン、靴とアクセサリーも黄色と、ドレスに合わせて三人の侍女が選んでくれるのが、メッツェンの楽しみなのだ。
スティーブンにとっては、控えめな伯爵夫人の小さな我が儘だと、その程度の我が儘しか許されないことを申し訳なく思いながら、メッツェンの行動を自由にさせている。
もちろん、独断で主であるバブコック伯爵には伝えていない。
「あの方はどこまでご令嬢を蔑ろにすれば気が済むのか・・・」
小さな深呼吸を一つして、有能な執事は料理長に女主人の言葉を伝えに行くのだった。
メッツェン自室。
「今日は晩餐の準備があるから、午後のお茶の時間まではいつも通りね。今日の当番はアリス。」
「畏まりました!頑張るぞー!」
「ウィスカー先生からの淑女教育は午後からなので、それまでに刺繍をいくつか仕上げましょう」
「準備致します」
メッツェンの侍女はアリス、ケリー、マチューの三人。
メッツェンと同じくらいの背格好で、侍女の制服を纏い、それぞれの色の髪を結い上げている。
アリスは亜麻色の髪にやや垂れ目で黒赤色の瞳をもち、この三人の中では一番幼く見える最年長。
ケリーは紫の髪にややつり目で灰青色の瞳を持ち、この三人の中では護衛も兼ねることが出来る力持ち。
マチューは黒髪に深緑色の瞳を持ち、この三人の中では高位貴族の生まれで知識が豊富だ。
晩餐のために身支度の準備を始めるアリスとケリーを横目に、マチューとメッツェンは刺繍を進める。
本来であれば女主人と侍女が同じ席に座ることは許されないのだが、メッツェンがこの部屋の中では自由にしていいと再三頼み込んでの今の形なのだ。
集中して刺繍を進める二人に、ケリーがそっと紅茶を差し入れする。
スティーブンの計らいでこの屋敷の者たちは、メッツェンが過ごしやすいようにしてくれている。
メッツェンはその気持ちを理解しており、屋敷の主人から冷遇される身であっても、何かしらの恩返しが出来ないかを試行錯誤している。
「・・・うん。一つ仕上がったわ」
「良かったです」
メッツェンとマチューは微笑み合い、あっという間に昼になったことに驚くのだった。
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