1話
7話で終わります。こちらが1話目です。
「私が君を愛することはない」
そんな言葉を投げつけられるような気がしていたのだけれど、そんな言葉すら不要でしたね。
とある時代のとある国、高位貴族の方々は政略結婚と、互いに認め合った愛人を持つのが当たり前という価値観の世界。
下位貴族の令嬢として生まれた私-メッツェンの結婚生活に纏わるお話。
「奥様、本日はどのような髪型にいたしましょうか?」
「そうね、緩く編んでもらおうかしら」
「さらさらとした髪が崩れないようにしながらも、緩めに編みますわ」
「奥様、本日のドレスは赤と黄色、どちらになさいますか?」
「そうね・・・スティーブンが許してくれた方かしら?」
「オッホン」
「えっ!」
「えぇ?」
「あー・・・」
「奥様、おはようございます。レディのお支度中に部屋に入るなど失礼と存じますが、火急の知らせでございます」
咳払いをした白髪の執事-スティーブンは、厳しい眼光をこの屋敷の女主人であるメッツェンとその侍女三人に向けた。
全員が背筋が凍る気がして、一様に背筋を伸ばす。
「何かありましたか?」
「本日は晩餐に旦那様がお戻りになります。強制参加となりますので、どうぞお忘れ無きよう」
「あ・・・そうね」
「もちろん、奥様は忘れておりません!」
「私たちも忘れてはおりませんよ!」
「そうですっ!」
「・・・そのように。晩餐の前にお着替えなさるとして、本日の奥様には黄色がお似合いになるでしょう」
「・・・あっ、ありがとうございます」
「それでは失礼致します」
スタスタと部屋を退室したスティーブンが十分に離れたであろう頃合いに、互いに目を合わせた四人は、どちらからとも無く、クスクスと笑い出す。
「『本日の奥様には黄色がお似合いになるでしょう』だって!」
「似てないわー」
「なんだかんだ言いながら、スティーブンさんも奥様には優しいのよね」
「甘やかしてはならないって言いながら、こっそり御菓子を増やしてくれる人だから」
「・・・さて、支度を調えましょうか」
「「「「はい」」」」
メッツェンの生まれは地方の男爵家次女、生活水準は王都住まいの準男爵の子どもと同じくらいのレベル。
ゆくゆくは地域住民と結婚し、領主である父を農業で支えると考えていた。
若き日の国王夫妻に子が出来た際、少なくとも貴族の子ども達には一定水準の教育を与えてやりたいと言いだし、新しく出来た学院に放り込まれたことから、運命が代わったのだった。
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