8 試験内容
「中級司祭のガルラントである。これより、第1次試験を執り行う」
傷のある右目を眼帯で隠した男が胴間声を張り上げた。
ざんばら髪も相まって、聖職者というより山賊の親分みたいな人だった。
居並ぶ貴族の子弟たちもビビリ気味だ。
「試験内容を伝える。あれを見たまえ」
ガルラントが指さしたのは、苔むした遺跡だ。
オォォォォ――――。
なんか、ものすごい魔力みたいなのが入口から漏れ出している。
「S危険度ダンジョン『贄の迷宮』である。諸君らには、あれを攻略してもらう」
やっぱりダンジョン攻略か。
冒険者の町らしいお題だな。
Sランクというと、たしか、上から3番目の難易度のはず。
ダンジョンには迷宮主というボスモンスターもいるらしい。
温室育ちのボンボンたちで大丈夫なのだろうか。
受験者たちもざわついている。
「案ずるな。迷宮主を倒す必要はない」
ガルラントは不気味な笑みで一同を見渡した。
「諸君らはただダンジョンを進み、最奥の間に置かれた宝剣を持ち帰りさえすればそれでよい。勇者様の聖剣を模して作られた剣だ。全員分用意されているゆえ競い合う必要もない」
ボス戦も競争もなし、か。
それだけ聞くと簡単そうに思えるけど。
当然、裏があるんでしょう?
「まずは、パーティーを組んでもらおう。聖女志望者、賢者志望者、剣聖志望者、各1名ずつ集まり、3人1組のパーティーを作りたまえ」
勇者パーティーの再現だ、とガルラント。
まず仲良し同士が集まり、その後で残り物トリオが結成された。
クラスでよく見る光景だ。
俺の胃がキリリと痛くなった。
「さらに、諸君らのほかに1名、荷運び役としてサポーターが同行することになっている」
ガルラントのその言葉で、俺の周囲から悲鳴が上がった。
俺と同じく招待を受けたサポーターたちだ。
気持ちはわかる。
俺もてっきり会場の準備とか後片付けとかを頼まれると思っていたからな。
まさか、受験者に同行してダンジョンに潜るハメになるとは。
ま、俺はむしろそっちのほうが嬉しい。
ダンジョンには一度潜ってみたかったしな。
「以上4名でダンジョンに潜ってもらう。伝え忘れていたが――」
ガルラントはここで一つ間を取った。
「たとえメンバーが欠けたとしても合否に影響はない。宝剣を持ち帰りさえすれば合格とする。以上だ」
誰かが死んでも失格にはならないってことか。
忘れていたという割に、妙に力感のある言葉だった。
まるで、最重要事項だと言わんばかりに。
「出発は30分後だ。おのおの自己紹介を済ませておくように」
ガルラントの出番はここで終了。
おっかない試験官殿が降壇すると、先生が出て行った教室のようにガヤガヤと騒がしくなった。
荷運び役の俺はテキトーに3人組を見つけて輪に加わった。
「オレの名はイザック。剣聖になって大出世する予定だ。お前ら、よろしくな!」
威勢の良さそうな赤髪少年がニカッと犬歯を覗かせた。
「僕はラウル。賢者志望だ。特技は精霊魔法。僕もこんな田舎で一生を終えるつもりはない。合格目指して一緒に頑張ろう」
むっつり顔の青髪少年がズレてもいない眼鏡をスチャリ、と直した。
「聖女志望のセーナよ。よろしく」
最後に銀髪少女が愛想悪そうに名乗りを上げた。
俺のパーティーは男2人に女1人か。
教会には同年代の男子とかいなかったし、仲良くしたいところだ。
「俺は――」
「お前の名前なんてどうだっていいんだよ」
挨拶しようとしたところで、イザックから舌打ちが飛んできた。
ラウルも頷いて同意を示し、
「君はただのサポーターだろう。名前などサポーター君で十分だ」
うーむ……。
歓迎ムードとはいかないようだ。
向こうはお貴族様だし、こんなものか。
いちおう、チラッとセーナの顔を盗み見ると、向こうも俺のことをうかがっていた。
「あなた、どこかで……」
銀の瞳が思案げに覗き込んでくる。
もともと目つきが悪いせいか、はたまた美少女だからか、俺は手に妙な汗をかいた。
「それに、その猫にも見覚えがあるわね」
シーバのことか?
こんな猫、そうそういないぞ。
なんせ、
「きゅわんっ!」
と鳴くしな。
尻尾も二股なんだ。
「おい!」
イザックが胸ぐらを掴んできた。
「荷物運びがお荷物になるなよ?」
「頑張るよ」
俺がそう答えると、今度はラウルが間近に睨みつけてきて、
「頑張ろうとしなくていい。君の力なんてアテにしていない。邪魔にならないように気をつけてくれればそれでいいんだ」
ドン、と突き飛ばされる俺。
セーナもしかめっ面で詰め寄ってきた。
「あの二人はともかく私は本気で聖女になるつもりよ。そのために、幼い頃から努力してきたの。足だけは引っ張らないで。わかったかしら?」
「あはは、了解……」
居心地の良さそうなパーティーだことで。
出発前から疲労感でいっぱいだ。
先が思いやられるよ……。