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7 三聖選定試験


「ミト様がぁ」


「お兄様が」


「お兄がー」


「「三聖人んんんん――――ッ!??」」


 教会本部から届いた手紙を読み上げると、ミルカと妹たちがひっくり返った。

 早とちりだ、ちゃんと聞け。


「三聖人を選ぶ試験にサポーターとして招待されただけだ」


 俺はまあまあ、と女性陣をなだめた。


 三聖人と聞くと、マイクロビキニのお姉さんを思い出す。

 たしか、代替わりの時期がどうとか言っていた。

 5年前に闘技場で見た聖女はよぼよぼのお婆さんだったし、いよいよ世代交代のときが来たってことだろう。


 第51代目の聖女と賢者と剣聖が選ばれる。

 俺はそのための試験をちょっと手伝うだけの脇役だ。


「ゆ、許せません……っ!」


 ミルカが肩を怒らせた。


「うちのミト様を脇役扱いするなんてぇ!」


「そうですよ! お兄様を馬鹿にしています!」


「シロもシャアアアってなる!」


 クロエは長い耳を角のように反り立たせ、シロンはイカ耳で爪を剥き出しにしている。

 怒ってくれて嬉しい。

 でも、お前たちは俺を買いかぶりすぎだ。


 女神の贈り物だかなんだか知らないが、世間じゃ俺はちょっと優秀なだけの孤児だ。

 町内会の清掃当番くらいの感覚で、試験官補佐の仕事が回ってくることだってあるだろう。


「ミト様なら剣聖にだって賢者にだって聖女にだってなれるのにぃ! 怒りのあまりミルクがこぼれてしまいそうですぅ!」


 ミルカ、俺に聖女は無理だと思うぞ。

 というか、ミルクがこぼれるってなんだ?

 怒りのマグマみたいなもの!?


 招待状によると、試験は聖翔国の各地で執り行われるらしい。

 このベルトンヒルも試験地に選ばれている。


 ここは、冒険者の町だ。

 腕に覚えのある連中がわんさかいる。

 実力者が勢ぞろいするなら、技をコピーするチャンスだ。

 サポーターは役得かもな。

 近くですごい技を観察できるかもしれない。


「しかし、三聖人だけ選んでどうするんだろうな」


 と俺はミルカが淹れてくれた紅茶をズズりながら腐してみた。

 美味しい。

 いつも、ミルクが入っているけど、市販のものだよな。

 ミルカを見ると、ニッコリ笑顔が返ってきた。

 なる、ほど……。


「勇者も魔神もいないのにさ」


 イヌとキジとサルがいても、桃太郎がいないんじゃな。

 倒すべき鬼もいないわけだし、このままじゃお爺さんとお婆さんが普通に平和に暮らすだけでエンドロールが流れてしまう。


「魔神はいつの日か必ず復活します。そう聖典に書き記されていますので」


 ミルカはいつになく真剣な様子だ。


「でも、心配はご無用です。女神様が勇者様を遣わしてくださいますので」


 信じていれば救われる、か。

 まあ、女神は実際いるわけだから、助けてくれるかもなー。

 話半分に聞いておいた。





 そして、試験当日の朝がやってきた。

 乗り合い馬車に乗り込む俺を教会のシスターたちが全員で送り出してくれた。

 弟や妹たちも一緒だ。

 涙ながらに手を振ってくれている。


 集合場所は町を出て丘をひとつ越えたところだ。

 夕方には帰る。

 今生の別れでもあるまいし、大袈裟だ。


 馬車に揺られること10分少々。

 集合場所に到着した。

 小高い丘陵地だった。

 古めかしい遺跡のようなものが見える。


 ベルトンヒルで遺跡といえば、ダンジョンだ。

 試験内容にもなんとなく察しがついた。


「……あれ?」


 馬車を下りて、俺はまず首をかしげた。


「人、少な……」


「きゅぃ」


 シーバもそう思ったらしく、真似して小首をかしげている。


 てっきり冒険者たちが大勢集まっていると思ったけど、ほんの数十人しか見当たらない。

 それも、ほとんどが貴族の子弟たちだ。

 ピカピカの鎧やおニューのローブに身を包むさまはコスプレにしか見えない。

 これじゃ貴族のハロウィン大会じゃないか。


「ぐぬフフフ……! わしの策略通りじゃな!」


 でっぷりした貴族のおっさんがあくどい笑顔を浮かべている。

 体脂肪率200パーセントくらいありそう。

 脂汗が滝みたいになっている。


 周りでは取り巻きとおぼしき貴族たちが手をコネコネして愛想笑いの真っ最中だ。


「はいぃ! さすがはケツゲパルス様ですぅ!」


「領民どもには試験のことを伏せておられたのでしょう? おかげで、貧しい者どもの貧相なツラを拝まずに済むというもの!」


「よっ! ケツゲパルス卿! 稀代の策略家!」


 そういえば、町では三聖選定試験の話題をまったく聞かなかったな。

 このおっさんの仕業だったか。


「ぐぬフフフ。競争相手も減ったことじゃし、これで、わしの娘が賢者になるのも確実じゃわい」


「ケツゲパルス卿ぉ! ぜひウチの子を聖女に!」


「我が家の長男坊は剣聖でどうでしょう!」


 三聖人か。

 国民的英雄だし、肩書き欲しさにズルする奴もいるだろうな。

 魔神が滅んで1000年だ。

 形骸化も進み、今や政争の具でしかないわけだ。

 いちおう、試験はやるわけだし、出来レースではないだけマシか。


 試験官である教会の司祭たちも白い目を向けている。


「ケツゲパルス卿にも困ったものですね。ああ見えてこの地域を治めるご領主様だ。公平な試験とはいきますまい。よろしいのですか、ガルラント司祭」


「かまわん。どうせ第2次試験は誰も受からんのだからな。そもそも、この第1次試験でさえ合格者は出ぬかもしれん。人の身の内に巣食う悪魔を白日のもとに暴き出す、恐ろしい試練が受験者たちを待ち構えているからな」


 なんだか、おどろおどろしいな。

 ま、俺には関係ないけど。


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