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6 妹たち


 光陰矢のごとしで月日は流れ、俺はついに成人の日を迎えた。

 15歳だ。

 結婚して、子供も持てる年齢。

 そろそろ巣立ちの時期がやってきたわけだ。


 いろいろと将来プランについても考えてみた。

 あとは、えいやっ! と社会の大空に羽ばたくだけだ。

 しかし、


「いかないでくださいぃミト様ぁぁ……!!」


「「ミト様ぁぁ……!!」」


 俺は相変わらずシスターたちにまとわりつかれていた。

 教会を出て仕事と家を探す、と打ち明けたのが2週間前。

 当然のごとく猛反発され、以来、俺が教会の外に足を向けるだけでシスターたちがアメフト部員顔負けの猛タックルで阻止してくる。

 ほぼ軟禁状態である。


 前世と合わせると、もう三十路だ。

 義兄や義姉たちはとっくに独立しているんだけどなぁ。


「だからこそですっ! ミト様にまで出ていかれては、わたしたちは寂しくて死んでしまいますぅ!」


 ミルカの悲鳴に他のシスターたちもウンウン頷いている。

 この様子じゃ新居にまで押しかけてきそうだな。


 俺は諦めムードを漂わせつつ、自室に戻った。

 使っていなかった階段下収納を改造して自室にしたのだ。

 夏は氷魔法でクーラーが効いているし、防音魔法があるから信者たちの賛美歌もシャットアウトして自分だけの静かな時間を過ごせる。

 俺の自慢の隠れ家だ。


 ……だというのに、だ。


「お兄様もついに最年長ですね」


「お兄、ジジイってこと……?」


 今日も今日とて義妹たちが上がり込んでいた。

 俺がDIYした安楽椅子で小麦色の脚を組み合わせているのが、ダークエルフのクロエ。

 俺のベッドで猫みたいに伸びているのが、猫系獣人のシロン。

 二人とも、元・捨て子。

 教会で暮らす俺の妹たちだ。


「またお前たちか……」


 散らかりっぷりを見て、ため息が出た。

 俺が栽培魔法でイチから育てた芋けんぴは食い荒らされ、フローズン・イチゴもたった今、口の奥に消えていった。

 こういうところなんだよ。

 無性に一人暮らしがしたくなるのは。


 教会は孤児が常時20人くらいいるから、一人になるのも一苦労だ。

 シスターたちもタコみたいに絡んでくるしな。


「きゅいッ! きゅわんわんッ!」


「シャアアアア!!」


 シーバとシロンがベッドの覇権を巡って睨み合いを始めた。

 外でやってくれ。

 ベッド、持って行っていいから。


 椅子を譲ってくれたクロエはまだマシなほうか。

 と思ったが、俺が腰掛けると膝の上に座ってきやがった。

 兄を椅子にするな。


「お兄様もほかのご兄姉きょうだいの皆さんと同じように、商人を志されるのですか?」


「まずは冒険者かな」


 と俺は答える。


 身寄りもなければ学もない孤児の就職先なんて一つしかない。

 男は冒険者で、女は娼館だ。


 でも、教会ここを巣立っていった兄姉たちはみんな商人見習いになった。

 俺が読み書き計算を教えてやったからな。

 俺も将来は商人を目指すつもりだ。

 その元手を稼ぐために、冒険者をするつもりでいるのだ。


「お兄様が独り立ちされるなら、私も一緒がいいです」


「シロもお兄と一緒がいい」


 妹たちがハイハイ! と手を挙げている。

 それだと独り立ちにならないだろ。


「大丈夫です」


 何がだ?


「足は引っ張りませんから。私たち、お兄様のおかげでそこらの冒険者よりは腕が立ちますので」


「そうそう」


 クロエは誇らしげに杖を掲げ、シロンは指の先から魔法の爪を生やしてシャアアアと唸った。


 二人に戦い方を教えたのは、俺だ。

 闘技場でコピーした技をこっそり特訓していると、二人もやってみたいと言い出したから稽古をつけてやったのだ。


 どうやら才能があったらしい。

 二人ともメキメキ上達してしまった。


 クロエは『暗黒魔法』の扱いに長けている。

 闇のエネルギーを使った陰気な魔法だけど、もともと小賢しい性格だから相性がいいらしい。


 シロンは『獣人爪術』という格闘技が得意だ。

 身軽な体を生かして猫みたいに戦う。

 まぁ、猫だしな。


 二人とも、中堅冒険者でも目を見張るくらいには戦える。

 パーティーを組めば心強いだろう。


 でも、そういうことじゃないんだよ。

 俺は一人になれる環境がほしいの。

 たまには、元の世界の好きだった歌とか気兼ねなく歌いたいし、漫画の絵とかも描いてみたいのだ。


「お兄様を一人にはさせませんよ……!」


 クロエがどす黒い目で見つめてくる。


「私の尊敬すべきお兄様に悪い虫がついてはいけませんから」


 同じ理由でミルカたちシスターにも反対された。

 そういえば、クロエもシスターだな。

 リトルシスターだ。


「お兄様と結婚するのは、わ・た・し・です!」


 さすがにミルカもそこまでは言わなかったな。


「シロもお兄を一人にしない。この黒いの追い出して、シロがお兄の猫になる」


 シロンが俺にピトッと引っ付く。

 すると、黒いの(シーバ)が全身の毛を逆立てた。

 シーバは犬だから、競合しないと思うぞ。


「きゅぃぃぃッ!」


「シャアアア!」


 ペットの座をかけた仁義なき戦いが始まりそうなので、俺は自室を出ることにした。


「そういえば、お兄様」


 なんだ、クロエ?


「聖都の教会本部から手紙が届いてましたよ」


 俺宛の手紙か。

 教会本部が一体何の用だろう?


 俺はクロエから3通の手紙を受け取った。

 1つが本命の手紙。

 残りの2つには、差出人の代わりにハートマークと肉球がスタンプされていた。


「私のラブレターも一緒にお渡ししときます」


「シロも手紙に抜け毛入れといた」


 いらん。

 本命だけ受け取っておいた。


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