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5 闘技場


 闘技場は熱気が竜巻のように渦巻いていた。

 隣の人の声も聞こえないくらいの大盛り上がりだ。


 俺が入場したとき、ちょうど剣士同士の試合が行われていた。

 切っ先が8の字を描いて、相手の剣を絡め取る。

 武器を失った剣士は脚、腕の順に切断され、最後は胸をズブリだ。


 いきなりのスプラッタで吐き気がした。

 観客は爆発音みたいな歓声を贈っていたけどな。


 闘技場にはずっと興味があったんだよね。

 戦うための「技」をたくさん盗めそうだから。

 ミルカに頼んだことがあるけど、野蛮ですからぁー、と大反対された。


 たしかに、野蛮だ。

 でも、勉強になりそうだ。


 法衣を羽織った女僧が倒れた剣士の元に向かった。

 冥福でも祈るのかと思ったら、剣士に手を触れてピカーン。

 緑色の光が闘技場を包んだ。


「聖女の魔法『癒やしの聖掌』――」


 切断された手脚がひっついた。

 剣士はヨロッ、と起き上がって、困惑した様子で自分の体を撫で回している。


「すげえ! また治したぞ!」


「さっすが聖女様だぜ! ヒュー!」


「んだよ! 面白くねえよ! 腕に脚をくっつけちまえよババア!」


「だはは! そいつぁいいなぁ!」


 あれが三聖人の一人、聖女か。

 致命傷をあっさり癒やして、なに食わぬ顔で下がっていった。

 見た感じ、そこら辺の喫茶店でお茶していそうなお婆さんなのに見かけによらないな。


 その後も、血で血を洗う惨殺ショーが繰り広げられ、小人族の槍使いや怪しげな暗黒魔術師、裸一貫のデカマッチョなど多彩な顔ぶれが登場した。

 おかげで、技を真似し放題だ。

 みんな名の知れた使い手みたいだし、教材が優秀だと勉強も捗る捗る。

 300イッツでこれは美味しすぎるな。


 そして、満を持して登場したのが賢者と剣聖である。

 まとっている空気がもう別物だった。

 下品なヤジを飛ばしていた連中なんてひと睨みで黙りこくった。

 あとは静かに背筋を伸ばしているだけだ。


 稲妻みたいな勢いで剣聖が踏み込み、賢者は天候を変えるほどの凄まじい魔法を振るった。

 自然災害同士の激突って感じ。

 いつ流れ弾が飛んでくるかとドギマギしたけど観客席は無事だった。

 聖女が結界を張ってくれたおかげだ。


 もう何もかも次元が違う。

 人間というより、ほぼ兵器だ。

 たぶん、魅せプで本気ではないだろうけど、それでも圧巻だった。

 俺は瞬きも忘れて食い入るように決闘を見守った。


 軍配は剣聖に上がった。

 ただ、賢者のほうは息切れひとつしていなかった。

 まるで花を持たせてやったと言わんばかりに。

 地鳴りのような大歓声にまじって、俺も拍手を贈っておいた。


 賢者と剣聖か。

 すごいな。

 模倣魔法で全部コピーしたから、今度俺にもできるか試してみないと。

 ついでに、聖女の魔法も模倣させてもらった。


 ホント何度でも言うが、300イッツでこれは贅沢すぎでしょ。

 変な笑いが出てきそうだ。


 俺は胸を熱くしながら帰途についた。


「きゃっ!? 離しなさい……! 私を誰だと思っているの!」


 ショートカットしようと通った路地裏で、トラブル発生。

 俺と同い年くらいの女の子が酔っ払った冒険者たちに絡まれている。

 いいとこのお嬢様らしい。

 高そうなドレスを身につけているからな。

 絡まれた理由はそれだろう。


「綺麗な肌だぜ」


「やっぱこのくらいの歳が一番だよなぁ」


「ぐへへ……」


 違った。

 ただのロリコンだった。


 鞘から銀色の刃が抜き放たれると、お嬢さんは腰を抜かしてしまった。


「「ぐへへ……」」


 変態の魔の手が迫る。

 ピンチだ。

 ちょうどいい。

 模倣した技を試すイイ機会だ。


 俺は軽く準備運動してから走り出した。

 変態男の前でスライディングし、剣を持つ手を下から蹴り上げる。

 飛んでいった剣をのんきに目で追う男に、俺は勢いそのまま回し蹴りを叩き込んだ。


 顔面にクリティカルヒット。

 ノックダウン。

 これで、あと二人だ。


「なんだガキ、てめえェ!」


 掴みかかってくる小男。

 その鼻先で俺は魔力を込めた両手を叩きつけた。

 ねこだましだ。

 バーン、と衝撃波が広がった。

 まともに食らった小男は白目を剥いて倒れた。


 あと一人が剣を抜いて斬りかかってくる。

 俺は落ちてきた剣をキャッチし、切っ先で8を描く。

 男の手から手品みたいに剣がすっぽ抜けた。


「な、なんなんだ、お前ぇ……」


 呆然と立ち尽くす男の股間に土魔法の槍を叩き込む。


「ぐギャら!? …………はぅぅ」


 三人とも撃破だ。

 楽勝だな。

 シーバなんて俺の肩の上で寝たままだった。


「つ、強ぇーぞ。このガキぃ……」


 どうだ?

 超満員の闘技場を沸かせた技の数々は。

 お前らゴロツキの喧嘩術とは次元が違うだろう?

 他人の技でドヤ顔するのも変な話だけどな。


「ひぃぃ……」


 暗黒魔法でどす黒い玉を作り出すと、変態どもは尻尾まいて逃げていった。


「怖くなかったか?」


 お嬢さんの手を引いて立たせてやる。

 足元に水たまりができていた。

 怖かったらしい。


「あぅ……」


 真っ赤な顔でうつむいてしまった。

 俺は気づかないフリをしつつ、生活魔法を発動した。

 濡れ雑巾をカラッと乾かす魔法だ。


「助けてくれてありがと。この私が感謝してあげるわ。……光栄でしょ?」


 自信なさげに訊いてくるので、


「ありがたき幸せ」


 と、一礼しておいた。


「殊勝な心がけだわ。……あら、あなた怪我しているじゃない」


 本当だ。

 腕に小さな切り傷がある。

 どこかで引っ掛けたらしい。

 俺もまだまだだな。


 ミルカが見たら泣き出しそうだ。

 今のうちに治して――


「私が治してあげるわ」


 冷たい手がぴとり、と患部に触れて、


「『癒やしの聖掌』」


 んんんんんっ、とお嬢さんが踏ん張ると、蛍の光みたいなのがチョロチョロして痛みが少し和らいだ。

 傷は残ったままだけど、血は止まっている。

 今のは聖女の魔法だ。


「すごいでしょ。私は次の聖女を目指しているんだから!」


 誇らしげに胸を張ると、お嬢さんは赤い顔を隠すように背を向けた。


「……それじゃ、いくから」


 おう。

 もう路地裏なんかに入っちゃダメだぞ。


「わかってるわよ」


 ター、っと駆け去っていく小さな背中を俺は見送った。


「きゅいっ!」


 シーバが桃色の舌でぺろっ、と舐めると、切り傷は綺麗さっぱりに消えてなくなった。


「さっすが、シーバだ」


「きゅぉん!」


 あの子も、まだまだだな。

 俺も精進しないと、だ。


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