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40 祝賀会


 キリエとの決闘から3日経った。

 3日も経ったというのに、聖都はまだ三聖試験の話で持ち切りになっている。

 受験者ですらない謎の少年が剣聖を倒したぞ、って話だ。


 俺は今、聖都で一番注目されている。

 街を歩くだけで賞金首を見つけたってレベルで人が殺到する。

 おかげで、こもりきりだった。


 こもっていても客はやってくる。

 うちで騎士をしないか? って貴族や、宮廷魔術師団の団長や近衛騎士団の偉い人などなど。

 俺は三聖人でも貴族でもないフリーの人材だから、気軽に勧誘できるとか思われているらしい。


 しかし、俺を訪ねる客の列は今朝になってぱったりと途絶えた。

 それには、こんな事情があるらしい。


「ぐぬフフフ! ミトよ、そなたを我が娘の騎士に任命するのじゃ! どうじゃ? 光栄の極みじゃろう? ブフ! ぐぬフフフ! ――と旦那様はおっしゃっておりました」


 ヨートンは豚のモノマネをしながらそう話してくれた。


 客足が急に遠のいたのは、すでに豚のお手つきになったから誘いづらくなったという理由らしい。

 おのれ、豚領主め。

 俺の出世を阻むとは許しておけんな。


「父が祝賀会を開くって言ってるんだ! ミトも来てくれるよね?」


 マイアルは今日も元気ハツラツだった。

 俺はソッコーで頷いた。


「うん、行く」


 殴りに。

 豚を。

 グーで。

 楽しみだ。


 ちなみに、祝賀会とはマイアルたちの合格祝いのことだ。

 第2次試験に合格したことで、マイアルは賢者の内定をもらった。

 セーナは聖女で、ストロンガノフは剣聖だ。


「ボクが賢者で本当にいいのかな?」


 マイアルは今日も自信なさげだった。

 いつの間にか気絶していて、意識が戻ってすぐガルラント司祭から合格を告げられたのだ。

 自分のあずかり知らないところで激戦が繰り広げられた挙句、そのおこぼれで賢者だもんな。

 思うところがあるのだろう。


 実力を評価されたのはストロンガノフのみだった。

 しかし、本人は納得していないらしく、


「グハハ! 我輩は清々しいほど、フグハハハ! 完全に敗れたのであーる! よって、修行の旅に出るのであーる! さらばだ、パワーマン殿! フグハハハハハ!」


 そう言ってマントをひるがえすと、止める周囲を蹴散らして聖都をあとにしてしまった。

 新・三聖人の一角が早くも行方不明だ。

 さすが俺の推しだ。

 自由だな。





 夜になり、祝賀会が始まった。

 聖都にあるケツゲ家の別荘には名だたる貴族や有力者たちが一堂に会していた。

 豚は目と鼻の先だが、こう人目が多くては殴るに殴れない。

 大丈夫、チャンスは来る。


 主役はマイアルのはずだが、俺の周りにばかり人が集まってきて辟易させられた。

 テーブルマナーもダンスもその場で模倣して、なんとかやり過ごしたが。


「はあ……」


 夜のバルコニーは涼しくていいな。

 静かだし、落ち着く。

 同じことを思った奴がいたらしく、先客が涼んでいた。


 長い銀髪を夜風になびかせて振り向いたのはセーナである。

 いつもの猫耳メイド服ではない。

 大人びたドレス姿だった。

 まんまるお月様がよく似合っている。


「釈然としないわ。私が聖女になることを誰も祝ってくれないもの」


 こちらも納得がいかないらしい。

 ふくれっ面を満月の横に並べている。


「実家だけは祝伝を送ってきたけれどね。今更ヨリを戻そうだなんて都合のいい話だわ」


「戻さないつもりか?」


「もちろんよ。聖女を捨てた愚かなディクライン家。いい響きだわ。清々した。――それにね」


 セーナは俺の二の腕にしなやかな手を絡めてきた。


「私はこれからもあなたのメイドを続けるわ」


「そりゃまた、どうしてだ?」


「言ったでしょ? 長いものには巻かれることにしたって。あなた、私が思っているよりずっと長いみたいだから、ぐるぐる巻きにしてほしいのよ」


 さっと取り出した猫耳カチューシャを頭に載せると、セーナは前屈みになって俺を見つめてきた。


「ご主人様、大好きにゃ」


 打算むき出しの猫なんて可愛くないぞ。

 な、シーバ?


「きゅぅん!」


 シーバは俺の頬に顔をこすりつけながら警戒の目をセーナに注いでいる。

 たぶん、ペットは1匹で十分だと言っている。


「お兄様、私とも踊ってください!」


「お兄、シロも肩に乗せて」


 妹たちがしがみついてきた。

 クロエは夜闇のようなロングドレスで、シロンは純白のショートドレスだ。


「貴族の社交場なんて一生縁がないと思っていました。お兄様のおかげで気分はお姫様です」


 クロエは美少女だから、貴族家の若い子弟から猛烈なアプローチを受けていた。

 さぞや楽しかっただろう。


「安心してください。本命はお兄様ですから」


 いたずらっ子な笑みでウィンクされた。

 それでどう安心できる?


「シロもお兄の本命。そんな二股と違ってシロはお兄ひと筋」


 そんな二股ことシーバがシャアアア、と唸る。

 そして、俺のペットの座をかけた戦いが幕を開けた。

 外でやれ。

 セーナも参加するといい。

 猫3匹のキャットファイト。

 傍目に見ている分には面白そうだ。


「ミト様ぁ! ご領主様はとってもお優しい方ですねぇ!」


 ミルカが乳を揺らして……いや、息を切らして駆けてきた。


「教会に多額の寄付をしてくださるそうですよぅ! 賭けに勝って機嫌がいいそうです!」


 そりゃ大穴も大穴だろうからな。

 まあ、シスターも弟妹たちも喜ぶからいいか。

 今日のところは特別に殴らないでおいてやろう。


「会う人みんながミト様のことを褒めてくださるので、わたしも鼻が高いですよぅ! 女神様も喜んでおられるはずです!」


 ミルカは満面の笑みで月を見上げている。


 女神は忙しいから俺のことなんて見ていないだろうよ。

 記憶を消し忘れるくらいだもんな。


 それとも、あえて記憶を残しておいたのか?

 そのうち、夢に出てきて頼みごとでもするつもりかもしれない。

 魔神を倒せ、とかだったら嫌だな。

 全力で断ろう。

 俺は知らん。


 月を見上げていると、ミルカが肩を寄せてきた。

 なんだ?

 月が綺麗ですね、とか言うつもりか?


「ミルク、飲みますか?」


 ロマンチックの欠片もないセリフだった。

 飲まない。

 だから、胸元をはだけるのはやめてくれ。

 こっそり紅茶に淹れるのもダメだ。

 断ったら泣きそうな顔をするのも無し。

 俺はいいから、幼い弟や妹たちに奮発してやってくれ。


 そんな感じで夜がふけていった。

 明日も俺はどこかで何かを真似しているだろう。

 俺に出来るのはそれだけだしな。

 過度な期待をしている奴もいるようだが、勘違いしないでくれ。

 俺はただのモノマネ師だ。

 オリジナルにはかなわない。


 それでも世のため人のため、来世のためにも俺は清く正しく生きていくつもりだ。

 女神にもそう言われたしな。

 面倒事に巻き込まれるのも、たまにならいいかもな。


 そんなふうに思った俺であった。


これにて完結です!

読んでくださった皆様、ありがとうございました!

最後に下の★★★★★から『評価』をいただけると嬉しいです!

お疲れ様でした!




新作の投稿を始めました。

こちらもよろしくお願いします。


お掃除つづけて10世紀、宮勤めはクビになったので冒険者はじめました! ~清掃魔法を極めた天才エルフはダンジョンも綺麗に攻略します!~


https://ncode.syosetu.com/n1732ji/


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