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38 実在しない技


「お前が何者であるかは後で問いただすとしよう。今は――」


 キリエが地面を蹴った。

 くるっと回って、木剣を叩きつける。


「ぅっ」


 重い。

 怯んだところで、すかさず次の一手が飛んでくる。


「三式剣舞『一刺八閃』――ッ!!」


 目にも止まらぬ8連撃。

 この技は初めて見た。

 受けきれず、左肩に一撃もらった。

 左腕がだらん、と垂れる。


 即座に癒やして復活。

 左腕側に回り込んだキリエを魔爪で返り討ちにする。

 魔爪のほうが逆にヘシ折られたけどな。


「今のは……聖女の魔法か! 本当に面白い奴だ!」


 連撃、連撃、連撃。

 絶え間ない連続攻撃。

 一撃一撃が鉄骨なみに重い。

 腕をかすめた。

 肋骨が折れた。

 脚を払われ、地面を転がる。


 治癒しなければ俺は今頃、満身創痍で担架の上だろう。

 勝てる気がしない。

 さすが世界最強だ。


「なぜだ? お前はなぜ、そうまでして勝ちに固執する? ただのサポーターだろう。受験者たちに義理立てする必要はあるまい」


 キリエは変な奴を見る目だった。


 マイアルたちには悪いが、正直もう三聖試験とかどうでもいい。

 俺はミルカを助けたいだけだ。

 人助けを信条にしている俺が、乳母を見捨てるわけにはいかないしな。

 だから、負けられない。


「事情は知らんが、お前にも戦う理由があるのだな。ならば、私も全力で応えよう」


 いや、絶対やめろ……。

 そんなスポーツマンシップいらん。


 キリエは地面に手を触れた。

 クラウチング・スタートみたいな姿勢。

 全身がバネのごとく縮んだ。


「一式剣舞『刺突雷閃』――ッ!!」


 消えた。

 と思った次の瞬間にはキリエは目の前にいた。

 木剣の先端がすぐそこに見える。

 まっすぐ胸の中心に伸びてくる。

 心臓にまっすぐ。


 避け、……きれない!!


 ど、どうする!?

 焦るな!

 まずは、考える時間を作れ。


『思考【超】加速』――!

 さらに、『思考【超超超】加速』――!

 鼻血が出るからやりたくないが、やむを得ない。


 世界がほぼ完全に停止した。

 それでも、キリエは他と比べ物にならない速度で迫ってくる。

 まさに雷だ。

 あまり時間は残されていない。


 物理的に避けるのは?

 ……不可能だ。

 右に跳んでも、左に跳んでも、もう遅い。


 剣で受けるか?

 いや、受けられる重さとは思えない。


『霊体化』で回避を。

 でも、人前で全裸はちょっと……。


 どうする!?


 キリエは、しまった……、って顔をしている。

 これじゃ本当に殺しかねない、と。

 本人でも寸止めできないってか。

 おっちょこちょいめ。


 木剣の切っ先が俺の衣服に触れた。

 衣服が焼き切れていくのがスローモーションで見える。


 ヤバイ。

 回避不能。

 受けるのも無理。

『霊体化』はイヤ。

 残された手段は……。


 ダメだ。

 無い。

 やられる。

 あと、体感5秒で。

 死ぬ。

 やばい。


 物理現象を無視して動ければ。

 でも、そんな技、現実には存在しない。

 現実は物理が支配している。

 物理的に不可能なことは絶対にできない。

 ゲームや漫画の世界でもない限り。


「……っ」


 ゲーム。

 ……ゲームか。


 ふと、懐かしい記憶が蘇った。

 昔コントローラーが壊れるまでやり込んだ格ゲーの記憶が。

 そのゲームには、チャクラの力で空間を捻じ曲げて攻撃を回避するトンデモ技があった。

 回避中は完全に無敵になれる技が。


 ……ゲームの技か。


 俺にできのか?

 前世の記憶の中にしかない技だ。

 現実には存在しない技。

 模倣できるか?

 実在しない技を。


「――ッ」


 胸に電気が走った。

 皮膚が焼かれる感覚がする。

 木剣が体内に入ってくる。

 迷う時間はもうない。


 やるしかない!

 イチかバチか、やってやる!



「――陰陽巧術『朧渡り』!!」



 世界がぐにゃ、と歪んだ。

 ビュー、とすごい音。

 俺は風の中にいた。


「え!?」


 衛星写真みたいなのが見えた。

 上空から町を見下ろしているような。

 丸くて大きなのが闘技場だ。

 どんどん近づいてくる。


「落ちているのか!」


 俺は胸を触った。

 ちょっと血。

 でも、生きている。

 死んでない。

 成功したらしい。

 ゲームの技だったけど、模倣できたらしい。


 でも、完璧に模倣できたわけではない。

 空間を捻じ曲げて敵の上方に回避する技だったが、これじゃ高く跳びすぎだ。

 まあ、死ななかったからいいが。


 俺は重力魔法で姿勢を制御した。

 真下にキリエが見える。

 あちこち見渡して、消えた俺を探している。

 観客の騒然とした空気感が伝わってくる。


 オッケー。

 忽然と消えて、突然現れて会場を沸かせてやる。

 ゲームの技でもいいなら、漫画でもいけるよな?


 俺は左右の手を上下に噛み合わせた。

 指を牙のように噛み合わせて、ガパリとを開ける。


 キリエが空を見上げた。

 俺を見つける。

 目が見開かれる。

 もう遅い。



「龍気爆縮『震天大砲』――!!」



 俺はドハマりしていたバトル漫画の技を模倣した。

 両手の中で龍気エネルギーが収束し、爆発的に膨れ上がる。

 そして、閃光が解き放たれた。

 オレンジと黒の濁流がキリエを呑み込んだ。


 濁流がヌラッ、と向きを変えている。

 流し技『流麗の舞』か。

 山にトンネルを穿った敵キャラの必殺技なんだがな。

 現実に存在しない分、弱体化しているな。


「なんだ、この技は……」


 着地した俺は面食らうキリエに、一気に肉薄した。

 鍔迫り合いながら、こうだ。


「『破壊の牙』――ッ!!」


 木剣に喰らいつき、結界を喰い破る。

 これでただの木の棒だ。

 この勝負、もらった。


 俺は鋭く踏み込む。

 狙いは、――腹!

 俺は視線をキリエの腹部に向けた。


 結界なしの木剣では受けられない。

 キリエは後ろに飛びつつ腹を引っ込めた。

 すると、頭が前に出る。


 ――ここ!


 腹。

 と見せかけ、俺はキリエの首めがけて宝剣を振り抜いた。

 キリエは当然のごとくフェイントを見抜いた。

 頭を下げて躱そうとするのがスローモーションで見えている。


 でも、ひとつ忘れていないか?

 お前の頭には今、何が載っかっているんだっけ?


「……しまった!」


 そうだ。

 もう手遅れだがな。



 カ――ッ!!



 乾いた音がして、二本角の先端がくるくると宙を舞った。

 落下してコロコロと転がり、キリエの足にぶつかって止まる。


「負けたのか。……この、私が」


 小さなつぶやきだったが、しんとした闘技場の隅々まで響き渡った。


「け、剣聖が負けたぞ……」


「うそ!? キリエ様が負けた……!?」


「野郎! やりやがったぞ!」


 どかーん、と大歓声が巻き起こった。

 俺はそれを他人事のように聞きつつ、へなへなとしゃがみ込んだのだった。


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