37 ただのサポーター
「お前、強いな」
キリエがぽつりと言った。
「隠しても無駄だ。私にはお前の爪が見えている」
すべてを見透かしていると言わんばかりだが、それは無理だ。
手数の多さで俺を上回れる奴はいないからな。
とはいえ、剣聖から一本取るのは至難の技だ。
目いっぱい油断させてからの不意打ちでも、角に傷をつけるのが精一杯だった。
落ち込んでいる暇はない。
新しい手を考えないとな。
「借り物の角とはいえ、私に手傷を負わせるとはな。なぜだ? なぜ、お前ほどの使い手がサポーターに甘んじている?」
「勇者も三聖人も興味ないんだ。ゆーしゃってさ。1000年も前の真偽不明な与太話をいつまで引きずる気だ? アホくさ」
俺は昔会った腹立つ奴の口調を模倣して挑発する。
効果はなし。
キリエは正眼に剣を構え、要塞じみた空気を放っている。
攻め入る隙はないな。
「50年もの長きに渡り剣聖を務めてきたが、私はついぞ魔神と戦うことはなかった。勇者様にも会えぬままだ。しかし、正義の名のもとに幾多の悪党を斬り、数多の戦場で武功をあげることができた。どうだ? 剣聖も悪くあるまい」
そこに魅力を感じるのは戦バカだけだと思うぞ。
俺はお前に勝ってミルカを取り戻す。
ついでに、豚を一発蹴っ飛ばせれば、ほかに何も要らない。
「同じ剣士同士だ。これ以上の会話は不要だな。続きは、剣で語り合おうぞ」
キリエが弾丸みたいな勢いで突っ込んできた。
俺も同じ速度で踏み込んでいく。
袈裟斬りに袈裟斬りを合わせ、上段斬りに上段斬りを合わせる。
キリエの動きをリアルタイムで模倣していく。
お前は鏡映しの自分と戦っているようなものだ。
違うのは武器だけ。
キリエは木剣。
俺は真剣。
使い手の力量が同じなら、勝負を分けるのは武器の差になる。
アドバンテージは俺にある。
この勝負、まだ俺にも勝機はある。
俺はありったけの魔力を込めて、地面を踏みつけた。
地面にクレーターができた。
キリエの足が地を離れ、その目が見開かれる。
「四式剣舞『浮き藻斬り』――!!」
狙うは木剣。
一撃で叩き折る。
剣を持たない剣聖など雑魚も同じだ。
俺は渾身の力で宝剣を振るった。
空中では逃げ場がない。
キリエは木剣を立てて受けた。
ゴガ――ッ!!
コンクリ塀をバットで殴ったような感触がして、俺の剣が弾き返された。
木剣は、……折れていない。
それどころか、傷一つついていない。
「……っ?」
木目に妙な光沢がある。
あれは、……結界か?
結界魔法で木剣を補強しているのか。
これは、予想外だった。
キリエは弾き飛ばされるようにしてクレーターの外に着地した。
「馬鹿な。それは私の技だ……」
そうだ。
昔、ちょっと模倣させてもらった。
まさか本人に使うことになるとは思わなかったけどな。
キリエはなぜか頬を赤らめて長い耳をポリポリしている。
「そうか。お前、私のファンだな」
「……は?」
「たまにいるのだ。服装や髪型を私に似せて、サインをねだりに来る者が。幼子などは私の技を真似て小枝を振り回す。それはもう可愛らしいものだぞ。さしずめ、お前もそのクチだろう?」
なんか急にお婆ちゃんみたいなことを言い出したな。
まあ、強くてかっこいいエルフの美少女だ。
ファンクラブくらいあるだろう。
俺は断じてクラブ会員ではないがな。
「私と比べても遜色ない出来栄えだ。その域に至るまでには相当な月日を鍛錬に費やしたことだろう」
いや、ひと目で使えるようになった。
0.2秒くらいだな。
「後でサインをくれてやる。ファンサービスは苦手なのだがな。お前は特別だ」
うれ、しい。
たぶん、全国のキリエファンは嫉妬に狂うだろう。
俺は要らないけど。
「お前にならば、加減せずともよさそうだ」
キリエの構えが一段と深くなる。
動きも鋭さを増した。
木剣で滅多打ちにされる。
バンバンバン――ッ!!
音速を超えた剣がソニックブームを轟かしている。
まるでマシンガンを浴びている気分だ。
さばききれない。
木剣がかすって、頬が熱感を覚える。
俺のやっていることは、しょせんモノマネ芸だ。
フィジカル、経験、勝負勘。
どれもオリジナルにはかなわない。
少しずつ負けている。
その分だけ弱くなる。
「もらったァ――ッ!!」
さばき損なった一瞬の隙をキリエは見逃さない。
俺は結界でやり過ごした。
二重にしたが、一撃で粉みじんだ。
さすがは、オリジナル。
真似するだけでは追いつけない。
武器のアドバンテージもなくなった。
それでも、俺にはまだ持ちネタがある。
数え切れないくらいな。
「『雷蒼撃』――ッ!!」
剣術で押し負けるなら魔法を織り交ぜる。
魔爪で不意を打ち、魔法で畳み掛け、酔拳の動きで剣を躱し、目が合ったらヘビ睨みだ。
「そんなものが効くかッ!!」
気合で打ち払われた。
そうだろうと思ったよ。
鍔迫り合いになりながら、俺は息を吸い込んだ。
腹の底から火の息を吐き出す。
曲芸師の火吹き芸じゃない。
シルバーフェンリル・ドラゴンの火炎ブレスだ。
「なんでもアリだな、お前は!」
キリエは火炎の渦を左右に斬り分けた。
でも、間合いは離れた。
それで、十分だ。
大規模魔法の飽和攻撃で押し潰してやる。
俺は大地に手を触れた。
「龍域土魔法『大地大緑槍』――!!」
地面を突き破って木の根が現れる。
無数の大蛇となって鎌首をもたげた。
「ありえない……。それは賢者殿の」
そうだ。
「なぜ、その魔法をお前が」
真似したからだよ。
これで終わりにする。
俺はキリエに大蛇を叩きつけた。
「おのれ、私に剣技を使わせるか!」
キリエの木剣がうねうねと気持ち悪い動きをした。
「二式剣舞『流麗の舞』――!!」
すべての大蛇がヌルッ、と向きを変えて地面に衝突した。
流し技か。
続いて、キリエは深く腰を沈めた。
「六式剣舞『紅時雨』――!!」
大蛇の群れは木剣でみじん切りにされて、巨大なサイコロになってしまった。
いちおう、今のが俺にできる最高の魔法だったんだけどな。
「お前は一体何者なのだ……」
キリエは愕然と俺を見つめている。
勇者役でモノマネ名人の転生者。
犬派の猫飼い。
趣味は人助けで、嫌いなものは豚。
どの肩書きも問われているものと違うから、俺の答えはこれしかないな。
「ただのサポーターだ」
「そんなわけがあるか」
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