33 エルフの美少女
そして、第3回戦。
「「子豚のくせにここまで上がってくるなんてな。どうやらずいぶんと仲間に恵まれたらしい」」
対するヨインズ兄弟はシンクロ芸で観客を沸かせている。
仲間に恵まれた、か。
ある意味、そうとも言える。
ストロンガノフは味方にすると心強いからな。
「「だが、快進撃もここまでだ。豚ではどう足掻いても賢者になれないことを教えてやろう」」
「ボクはミトに会って変わったんだ! 鍛錬の成果を見せてやる!」
マイアルはメンチを切ると、ストロンガノフを仰ぎ見た。
「ねえ、キミが強いのはわかったからさ、ボクらにも活躍するチャンスをくれよ!」
「私も試してみたい技があるのよ。一人で片付けられては困るわ」
セーナも胡乱げな目で巨漢を見上げている。
「ふーむ! 我輩、タメ技を打ちたい気分なのであーる! 溜めている間、フハハ! 好きに暴れるがよい! グハハハハ!」
タメ技か。
すごいのが来そうだな。
巻き込まれないようにしないと。
「始め――ッ!!」
ガルラントの合図で、四つ子は一斉にローブを脱ぎ捨てた。
ローブの下は当然4人とも同じ服装だった。
そして、全員が金色の剣を持っていた。
「「これで、誰が勇者役かわからないだろう!」」
4兄弟は息を揃えて言う。
「「その名も! 全員勇者☆大作戦――!」」
なる、ほど。
宝剣を奪われると負けになる。
だから、誰が勇者かわからなくしてやった、と。
アホらしいけど、理にかなっている。
四つ子ならではの作戦だな。
「全員を戦闘不能にすればいいだけだ!」
マイアルが杖の先で火球を膨らませた。
綺麗な球状にまとめ上げている。
「『火炎弾』!!」
拡散させないのか?
と思って見ていると、マイアルは火球を地面に叩きつけた。
「「ぐあッ!?」」
爆風で砂粒が飛び散り、四つ子を襲った。
「『火弾』――!!」
そこに、下級火魔法が襲いかかる。
中級魔法の火力を目潰しに使い、扱いやすい下級魔法を確実に当てたわけか。
よく考えたな。
「「豚の分際で……!!」」
四つ子が同時に駆け出した。
しかし、3歩も進まないうちに転んでしまった。
見えない何かに足を取られたかのように。
勢いよく立ち上がったところで、――ゴン!
今度は見えない天井にぶつかって、地べたに倒れ込んだ。
「聖女の魔法『聖なる御盾』――!」
セーナだった。
結界の檻でヨインズ4兄弟を完全に動けなくしている。
「とぅ――ッ!!」
そして、満を持して真打ち登場。
「我輩チョー強い神拳奥義『大噴拳』ッ!!」
ストロンガノフが地面を殴ると、溜めに溜めたエネルギーが炸裂した。
どかーん、と大地が大爆発。
ヨインズ兄弟は観客席の上段まで吹っ飛んでいった。
勝負アリだ。
「グハハ! お二方のおかげで気持ちよく決められましたぞ! グハ! フグハハハハ!」
3戦目にしてなんとか連携が取れたって感じだな。
「マイアルもセーナも、よく戦えていたじゃないか」
俺は二人に労いの言葉をかけた。
「ミトは魔法を柔軟な発想で使っていたよね! ボクも真似してみたんだ!」
「私もよ。結界って使い方次第で攻撃手段にもなり得るのね。勉強になったわ。さすが私のご主人様ね」
俺から真似るとは二人もなかなかやるな。
大歓声を背中で聞きながら、俺たちはバックヤードに引き上げた。
第3回戦の全取り組みが終わり、現在4つのパーティーが残されている。
次は、準決勝だ。
あと、2勝で優勝。
全国から集められた受験者の頂点に立つことになる。
つまり、三聖人が決まる。
……ってことでいいのか?
ここまで、ほとんどストロンガノフの個人技で勝ち上がってきた。
たぶん、残りの2試合もすんなりと決まるだろう。
見たところ、他のパーティーにストロンガノフを止められる戦力はないからな。
なんというか、味気ない。
伝統と格式ある国家の英雄を決めるにしては歯ごたえがなさすぎる。
でもまあ、こんなものか。
魔神が攻めてくるでもなし、しょせんはただの政争の具だ。
貴族出身の二人が選ばれるのは政治的にも好都合だろう。
ストロンガノフは例外だけど、スター性は申し分ない。
国民の人気が集まれば政治家は喜ぶだろうな。
俺はへそ曲がりだから、そんなふうに勘ぐってしまう。
4組全員が揃ったところで、ガルラントが演壇に上がった。
「激闘の末、4パーティー12名に絞られた。ここからは、少し趣向を変えさせてもらう」
試験内容が変わるのか。
「まずは、この方を紹介させてもらおう」
廊下のほうから静かな足音が近づいてくる。
現れたのは、絶世の美少女だった。
耳が長い。
エルフだ。
軽鎧に身を包み、腰には剣。
長い三つ編みの先で揺れる十字剣の髪飾りを見て、俺は強い既視感を味わっていた。
――――――ッ!!!
突然、エルフ少女の目が鋭く研ぎ澄まされた。
ぞっと背筋が粟立った。
俺は反射的にしゃがんでいた。
何をしているんだ? と奇異の目で見られる。
首を斬られるような気がしたんだ。
それで、とっさに避けたのだが、……うん。
剣は鞘の中だな。
ホント、何やっているんだろうな俺は。
驚いたことに、隣ではストロンガノフが同じように伏せていた。
額には汗がにじんでいる。
大丈夫か?
「こちらにおられる御仁を知らぬ者はいまい。だが、あえて紹介させてもらうとしよう」
ガルラントはおごそかに言った。
「三聖人のお一人にして当代の『剣聖』であらせられる、キリエ様だ」
そうだ。
ベルトンヒルの闘技場で見た。
5年前、賢者と天変地異みたいな決闘を繰り広げていた少女。
『剣聖』キリエ。
世界最強の剣士と名高い人物だ。
「弱いな。これで三聖人を目指すとは、私に対する最大の侮辱だ」
キリエの一言で気温が一気に下がった気がする。
「この中で見込みがあるのは2人だけだ」
鋭い目が俺を見て、それから横に移る。
俺の横ではストロンガノフがファイティング・ポーズを取っている。
「その2人だけだったな。私の殺気に反応できたのは」
まあまあ、そのくらいになさってください、とガルラントが割って入った。
「諸君らには、これから、剣聖キリエ様と決闘をしてもらう。キリエ様に勝利すること。それが2次試験の合格条件である」
剣聖と決闘、か。
『どうせ第2次試験は誰も受からんのだからな』
その言葉の意味がようやくわかった。
なるほどな。
これは、無理だ。
絶対に。
誰も合格できないだろう。




